見えなくなる前に。

わたしがあからさまに忙したてているのは
きみを考える暇を作りたくなかったからで、
余計なことを考えなくていいほど忙しかったら
鳴らない携帯のことなど気にもしない。
休みの日にも仕事を入れ
できるだけ空いた時間を作らないようにした。
わかってる。
きみがわたしより、何より大切にするものがあること。
残りわずかな時間を過ごしていること。
それでも求めてしまうわたしは
つくづく自分のことしか考えられない幼稚な人間だと思った。

朝。
少し明るくなった空を見上げる。
そこには半分に割れた月が今にも消えそうな顔でこちらを見つめていた。
あの夜、月が最も輝いていた午前三時。
きみと手をつなぎ歩いた夜。
あの時からわたしは月を見るときみのことを思い出す。
二人、世間が寝た街を月の光を浴びながら
まるで二人だけかのように歩いた日のこと。
わたしは一生忘れない。
きみの中にはもうわたしはいないのかもしれないけれど、
思い出だけは一生残るお揃いだから
どうかあの日、感じた想いだけは消さないで。

明るくなる。
空を見て言った
月が見えなくなる前に

どうか、忘れないで。