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だとしても愛を選びたい
3月の末で長らく続けていた仕事を退職した。
間もなく臨月を迎えようとしている私は暗い時間に外に出かけるのは久しぶりだった。
電車が走っていくのを高架下から見上げて、薄暗い空に映える窓の明かりが綺麗だ、と思った。
きっともう、今の私には関係がないからだ。
自分から遠く、関係のないものは大抵美しく見える。
『お金と愛、どちらが大事か』という質問に答えなければいけない場面に遭遇することが、誰しも一度はあると思う。
そのとき、あなたはなんと答えたのだろう。
私の場合は就職して一年目の冬、職場の忘年会でその機会は訪れた。
相手は職場の男性の上司で、頼んだ5杯目だか六杯目だかのハイボールはもう残りわずかになっていた。
「〇〇さんは、お金と愛、どちらが大事だと思う?」
ずいぶんお酒がまわっているのだろう。
目が赤く充血し、呂律も怪しかった。
そのとき私は少し考えるふりをして「そりゃあ、愛でしょう!」
と答えた。そう答えたほうがいいと知っていたからだ。
わたしに質問をした上司はニヤニヤしながら「いい子だね〜若いね〜」と残りわずかとなったハイボールを飲み干した。
無意味な質問だな、と当時思ったのを覚えている。
愛はお金の上に成り立つものだろう、と
きっと誰かから聞いただけであろう言葉を心のなかでつぶやいていた。
就職したばかりの当時、私はお金がなく
税金や携帯代、奨学金を滞納してしまうことも度々で「死にたい」とまでは思わなくても「いついなくなってもいいな」くらいの気持ちではあった。
その時は今の夫とも付き合っていたし、両親との関係も悪くなかったというのに、だ。
お金がないということは、それだけ精神を削られることだと思う。
最近になってふとその上司の質問を思い出し
もし、今同じことを聞かれたら何と答えるだろうと考えてみた。
お金は大切だ。
どんなに愛する人がいようと、強い気持ちがあろうと、思うだけではお金は生まれない。食べ物を買うことも、あたたかい布団で眠ることもできない。
ただ一つ、言えることは
お金がなくても、家族がいればいい。
ということではなくて
お金をいくらもらっても、家族を失うのは嫌だ。
ということだ。
今が豊かだからそんなことが言えると思われるかもしれないが、決して贅沢な暮らしをしているわけではない。(ゴメン夫)
私には到底買えないようなブランド物のバッグやアクセサリー、
海外旅行で見られる壮大な景色、タワーマンションから見えるきらびやかな夜景
どれも私には関係ないから美しく見える。
このままきっと美しいままであってほしいと思う。
『愛とお金、どちらが大切?』そんなくだらない質問に「愛だ」と即答できる頃には、もう誰もそんな質問をしてくれなくなっていた。
でも、心からそう答えられる自分のことを、自分史上一番好きだと思えるのだ。
これからきっといろんな困難があると思う。綺麗事だけでは渡っていけない世の中だと思う。
だとしても愛を、間違いなく選び続ける自分でいたい。
あのときの上司の表情を思い出す。
私が答えたあとの、嬉しいような、こそばゆいような、眩しいものを見るような、ただ酔っ払っているだけのような、そんな顔。
彼は、きっと誰かに『愛』と答えてほしくて、そんな質問をしたんだろう。