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「妖霊トラベラー@バンドマン」第三話

【第三話シナリオ】
〇阿見山寺・芳一の部屋(夜)
全身に経を書かれた芳一が座禅を組んで経を唱えている。
肩を落とした玄が、ギターを持ったまま入ってくる。

芳一「玄?」

玄「ああ、俺だ」

ぱっと笑顔になる芳一。
玄は伏目がちである。

芳一「いかがでしたか、演奏は?」

玄「まあまあだったかな・・・いや、大成功だったよ」

芳一「そうですか。それは良かったです」

と、満足そうに頷く。
玄、芳一の顔を切ない思いで見つめる。

玄「あのさ、芳一・・・」

芳一「はい」

玄「芳一は、俺の演奏どう思う?」

芳一「どうって、上手いと思いますよ」

玄「他の誰よりもか?」

芳一「それは・・・」

玄、その一瞬の間に疑心の表情。

芳一「はい、私にとっては玄が一番です。ただ・・・」

玄「ただ?」

芳一「もう少し音を楽しんで演奏すると、もっと良くなる気がします」

玄「俺の音はつまらないってことか?」

芳一「いや、そういう意味ではないのです。じゃあ玄は、いつも心から楽しんで演奏していますか?」

玄「それは・・・」

玄、痛いところを突かれ目を伏せると、ふと芳一の耳が目に入る。
芳一の耳の経が、汗で消えかけている。
玄、ニヤリと笑う。

玄「汗が凄いな、芳一」

と、近くにあった手ぬぐいで芳一の耳元の汗を拭うと、耳に書いてあった経が全て消えてしまう。

玄「こっちもだ」

と、もう片方の芳一の耳の経も手ぬぐいで拭き取ってしまう。

芳一「ありがとうございます。玄は本当に優しいですね」

と、微笑む。

玄「・・・(芳一の顔が見れない)」

全身に経が書かれ黒ずんでいる芳一の両耳だけがやけに白く見える。

玄「じゃあ、今日も頑張れよ」

芳一「はい、おやすみなさい」

お辞儀をし、また経を唱えだす芳一。
玄、部屋を出て行こうとして、再度芳一の方を振り返る。
無心に経を唱えている芳一の耳だけがやたら目に入る。
玄、芳一から目を背け、出て行く。

〇同・芳一の部屋前廊下(夜)
襖を閉めた玄、歩き出そうとして立ち止まる。

玄のM「どうせこれは物語の世界。俺がやらなくても多分、芳一の耳は亡霊に取られる運命なんだ」

芳一の部屋を振り返る玄。

玄のM「でも、もし俺がちゃんと耳にお経を書いてやれば、芳一の耳はなくならずに済むのか?」

持っているギターを見つめる玄。

玄「俺の音がつまんねーなんて言うから・・・」

と、部屋の方をキッと睨んで歩き出す。

〇同・客間(深夜)
布団に入っている玄、寝付けず何度もゴロゴロと寝返りを打つ。
外からカシャンカシャンと足音がする。

玄「来た!」

玄、襖を薄く開け外を見ると、甲冑姿の武士が歩いているのが見える。
玄、襖を閉め、部屋の中をウロウロと歩き回る。

玄のM「本当にいいのか?このままだと芳一はあの亡霊に耳を取られてしまう。もしそうなったら芳一は、目も見えなくて、耳も聞こえない・・・」

玄、目を閉じ、耳を塞いでみる。

玄「・・・真っ暗闇だ」

と、目をカッと開き、急いで襖を開け飛び出す。

拓巳の声「じゃあお前の曲で客呼んで来いよ」

玄、ふと足を止める。

玄「拓巳?」

と、振り返る。

貴族Cの声「亡霊も芳一を選んだってことだな」

貴族達の馬鹿にしたような笑い声が玄の耳に響く。

玄「やめろ、やめろぉ!」

と、強く耳を塞ぎ、その場に蹲る。
笑い声が止み、辺りに静寂が戻る。
玄、フラフラと立ち上がり、客間へと戻っていく。

玄「なんで・・・俺じゃダメなんだよ・・・」

と、頭まで布団を被り、布団の中で小さく丸まる。

玄のM「亡霊に取り憑かれているのは、俺の方かもしれない・・・」

〇同・芳一の部屋(深夜)
座禅を組み、静かに瞑想している芳一。
カシャンカシャンという足音が部屋の前で止まる。
芳一、目を閉じたまま動じない。
部屋の中に武士が現れる。

武士「芳一、芳一」

芳一「・・・」

武士は部屋の中を見回す。
武士の目線では、部屋の中に二つの耳だけが宙に浮いているように存在している。

武士「耳はあれど、芳一の姿は見えぬ。さて、どうしたものか?」

と、耳(芳一)の周りを窺うように歩き回る。

〇同・客間(深夜)
布団の中で震えている玄。
心臓のドクンドクンという鼓動音。
(以下、カットバック)

 ×   ×   ×

芳一の耳へと手を伸ばしていく武士。

 ×   ×   ×

玄の震えが激しくなっていく。
早くなっていく心臓の鼓動音。

 ×   ×   ×

武士が芳一の耳に手をかける。

 ×   ×   ×

震えている玄の足が、近くにあったギターを蹴飛ばす。
その拍子でギターから軽く音が出る。
玄、その音を聞いて、ハッと我に返る。

 ×   ×   ×

武士が芳一の耳を掴み、グッと力をこめる。

 ×   ×   ×

玄、ギターを持って部屋を出て、廊下を駆け出す。   
心臓の鼓動音が最速になる。

 ×   ×   ×

閉じている芳一の目がカッと見開く。
心臓の鼓動音も止まる。
(以上、カットバック終わり)

〇同・芳一の部屋前廊下(深夜)
走ってきた玄が、襖に手をかける。

芳一の声「ギャー!」

玄、慌てて襖を勢いよく開ける。
部屋の中には、両耳から血を流し倒れている芳一。

玄「芳一!」

立っている武士の手には、血だらけの芳一の耳が握られている。

玄「畜生!」

玄、ギターを激しく掻き鳴らす。
武士が玄の方を見る。

玄「芳一の耳を返せ」

武士がじりじりと玄の方へと歩み寄る。

玄「芳一の耳をそこに置け」

武士、持っていた芳一の耳を手放し、玄へと近づいていく。
ポトリと畳の上に落ちる芳一の両耳。

武士「お前は何者だ?」

玄「俺は・・・俺は・・・」

と、ギターを搔き鳴らしながら走り出す。
武士、玄の後を追っていく。
玄、足がもつれそうになりながら、廊下を一目散に走る。

玄「俺は・・・佐久間玄だー!」

と叫ぶと同時に、縁側から飛ぶ。
宙を舞い、落ちていく玄の体(スローモーション)

玄「あれ?これって?」

思いっ切り地面に叩きつけられる玄の体。
地面に倒れた玄、気を失う。

〇総合病院・病室・中
大部屋のベッドに寝ている玄。
玄の手を握り、祈るように座っている麻衣。
麻衣の横には渡。
窓の外を見るように立っている拓巳の後ろ姿(顔はまだ見えない)。
麻衣の握っている玄の指が微かに動く。

麻衣「玄?」

玄、ゆっくり目を開けるが、視界がぼんやりしている。
ハッキリしていく視界の中に泣きそうな麻衣の顔が見える。

玄「麻衣?」

麻衣「玄!あー良かった・・・」

と、涙が出てくる。

玄「あれ?ここって・・・?」

と、辺りを見回す。

渡「ここは病院。お前、三日も目覚まさなかったんだぞ」

玄「三日?」

麻衣「(泣きじゃくりながら)もう死ぬかと思ったんだからね」

玄「勝手に殺すなよ」

拓巳「バカ!お前、死んでもおかしくねーことやったんだぞ」

玄の前に顔を向ける拓巳、その両耳には絆創膏がガッチリ貼られている。
ハッとする玄。

玄「拓巳・・・その耳・・・」

〇(回想)阿見山寺・芳一の部屋(夜)
部屋の中には、両耳から血を流し倒れている芳一。
立っている武士の手には、血だらけの芳一の耳が握られている。

〇元の総合病院・病室・中
玄、目が涙目になっていき、ガバッと拓巳に抱きつく。

玄「拓巳、ごめん。ごめんな・・・」

と、おいおいと泣き出す。

拓巳「おい玄、どうした?おい・・・」

拓巳、訳が分からないといった様子で麻衣らを見る。
麻衣と渡も首を傾げる。

玄「俺のせいで耳が、耳が・・・」

と、より強く泣く。

拓巳「耳?これ、ピアスが膿んだだけだぞ」

玄、泣いていて聞こえていない。
拓巳、お手上げといったジェスチャーをする。

玄「ごめんな。俺がお前のこと妬んでばっかのせいで、お前の耳が、耳が・・・」

と、拓巳の耳を手で触る。

拓巳「あーもう訳分かんねぇけど・・・」

と玄の手を振りほどき、両手でギュッと握る。

拓巳「お前は悪くない。俺もお前にいろいろ酷いことしてたと思うし。でもさ、俺はお前のこと嫌な奴だなんて、一度も思ったことねーからな」

と、玄の目を見る。

玄「拓巳・・・」

と、拓巳に抱きついて更に強く泣く。

拓巳「ああ、うぜーなー。とにかくもう無茶なことすんじゃねーぞ」

と、泣きじゃくる玄の背中をトントンと叩く。

玄「うん。本当ごめんな・・・」

と、強く拓巳にハグする。
拓巳も仕方ないといった様子でハグを返す。

玄「ごめん、ごめんな・・・芳一・・・」

拓巳「芳一?」

と、首を傾げる。
二人を見ている麻衣と渡も泣けてくる。

渡「なんか青春だな」

麻衣「青春だねー」

ハグしている玄も泣きながら微笑んでいる。

〇ライブハウス「爪痕」・中(夜)
ステージに登場する玄・拓巳・麻衣・渡。
拓巳の前には相変わらずファン達が押し寄せているが、玄の前には客がいない。

玄「今日はストレイトブルームの復活ライブに来てくれて、ありがとう。ていうか、俺のせいでずっとライブができなくて、すみませんでした」

と、深く頭を下げる。
驚いて顔を見合わせる麻衣と渡。

拓巳「そーだよ。お前のせいでみんな大迷惑だよ。な、みんな?」

と、客を煽る。
客達「そーだ、そーだ」等と声を上げる。
玄、拓巳を見る。
拓巳、玄に向かって舌を出す。

麻衣「おいおい、やめてよね」

と、玄と拓巳の間に入ろうと前に出て行く。

玄「そうだな。全部俺のせい。みんな本当ごめん」

と、手を合わせる。
客達からパラパラと拍手がおき、大きな拍手へと変わっていく。

玄「ありがとう・・・」

と、少し涙ぐむ。

拓巳「おいおい、コイツ泣いてるぞ」

と、玄を指差す。

玄「泣いてねーし」

拓巳「泣いてるし」

玄「泣いてねーって言ってんだろ」

拓巳「は?泣いてるくせに」

詰め寄っていく玄と拓巳。
渡がドンと太鼓を叩く。

麻衣「はい、曲、行きまーす」

渡、スティックでカウントする。
拓巳のギターソロから始まる曲。
「キャー」と黄色い声が上がり、拓巳のもとへと詰め寄るファン達。
玄、その様子を微笑ましく一瞥し、ホールの全ての客に向けて笑顔で歌い出す。 
少女Aが玄を指差し、少女Bに耳打ちする。

少女A「ストブルのボーカルって、あんな顔だったっけ?」

少女B「え?結構、可愛くない?」

二人、頷いて、玄の前に行く。
玄は、仲間で歌える喜びと、音楽を心から楽しんで、笑顔で歌う。

【第三話 終】

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