23時の春雷少女という曲についての考察
23時の春雷少女 / 鬼頭明里
作詞:田淵智也 作曲:田淵智也
編曲:やしきん、成田ハネダ
2020年発売
鬼頭明里さんのMVがとても可愛くて素晴らしい。
一聴でわかる大名曲。
私がこの世で最も尊敬し、憧れている田淵智也という人間の作品の1つであるこの曲について言葉を尽くしてみたくなったので、"考察"と銘打って1つ1つ分解し、駄文を連ねていこうと思う。
まず、田淵智也が生み出す曲といえばアップテンポで言葉数が多く、彼の作家仲間から「元気印」と言われている通り、駆け抜けて大団円!という曲調が多い。
だがそれに連なる歌詞は繊細で緻密、造語であっても整合性を帯びていて、曲全体が1つの物語として仕上がっているものも数多く存在する。
そんな歌詞の中にこちらに訴えかけるような、たまにぶっきらぼうに背中を押してくれるようなメッセージが込められているから強く印象に残るのだ。
中でもこの「23時の春雷少女」は特に物語性が強い曲で、終始タイトルの「少女」視点で「君」との関係が変わる様子が描かれている。
他の要素として「プログラム」や「エラーコード」などの単語が出てくることから、少女が自分の気持ちを機械的に処理したい・しているのに……という、単語とは裏腹に人間的な葛藤も伺える。
私が今現在田淵智也の提供曲の中で1番好きなのが "むにゃむにゃゲッチュー恋吹雪!/ にゅーろん☆くりぃむそふと" と並んで(!?)この曲なのだが、ここからはそんな曲の歌詞を1つずつ読み解いていこうと思う。
矛盾点などあるかもしれない(というか、確実にある)が、最後まで生暖かい目で読んでいただけるとありがたい。
まずざっくり説明すると、この曲は少女が「君」への気持ちを自覚してそれを伝えるために駆け出していく様が描かれている。下記から1番の歌詞
街を包む風と、自分の周りの音(テンポのいいドラム、ギター、ピアノ)に対して自分の歩み(ベース)がゆっくりで、速さの対比がある。
ドラムの「カッカッカッカッ」という音は街を行く人々の足音?
この時点で、登場人物「私」にとっての「君」は特別な存在であると思っている。
「君の勇気を感じ取った」というのは、「君」が「私」に思いを伝えてくれたと取れる。
この「かくして」 最初に聴いたときは「隠して」だと思っていたのだが、歌詞を見るとひらがななので「こうして」「このようにして」の意味なのかもしれない
ここで予想外の事態が起こる。
ファンファーレ響くはずがエラーコード、つまり、思いを伝えてくれた「君の」気持ちに答えるはずがそれはできなかったということ。
この戸惑いは音でも表現されており、まず「響くはずが」の「はずが」でコード進行が変わる。
そして主旋律(歌)も、「エラーコード」の「ド」でC♯からCに弧を描くように半音下がるのが印象的だ。
(ここ、歌詞も「ド」だし音も「ド」なのでとても気持ち良くサビへと繋がっているんですね
↓
エ(A)ラ(H)ーコ(A)ード(C♯~C)ー)
あとこれは他の方の考察を見て知ったのだが、この「コマンド?」がドラクエに出てくるコマンド選択画面を思い起こさせる、らしい。
「君」から「私」への告白というコマンドを選択→ファンファーレ(レベルアップ音あるいは勝利の音)響くはずが……
ということなのだろうか。
そして、同じ気持ちになれなかった「私」は「君」から逃げることを選択する
ここからサビ
「まるで春雷」の「春雷」という言葉に合わせて楽器類がジャンジャンッ!と重なって鳴るが、これが雷を表しているのではないかと感じた。
そして、ここで初めてタイトルにもある「春雷」という言葉が登場する。
以下 春雷という言葉の意味
↓
春雷とは、文字通り春(立春から立夏頃まで)に発生する雷を指す。
春の到来を伝える雷ともいわれる。雷鳴に驚き冬眠していた地中の虫たちが目ざめるという理由で「虫出しの雷」という呼び名もある。
この意味を読むと、冬眠していた虫たちが目ざめる、つまり心の中で眠っていた「私」の気持ちが雷に打たれたことによってあらわになる、とも取ることができるのではないだろうか。
そしてその後「理由が説明できない」
これは言葉通り、同じ気持ちになれない理由は分からないけど「君」から逃げたいという少女の戸惑いが伺える。
この部分は後半の歌詞に繋がるのだが、「ふと浮かんだ記憶」とはこれから起こる未来のことだと予想する。予知夢のようなものだろう。
この、推定23時の時点で「私」は、そのような未来が待っていることは知らないので「これは幻想?」という戸惑いになっている。
「迷ってる 誰か教えてよ」で電子音がふらふらとした音を奏でているのも、この時の気持ちを表していて分かりやすい。
この部分だけ時系列がズレている。(多分)
このとき日付が変わる少し前のことを思い出している、ということはこの時点で日付は変わっていると考えるのが正しいのではないだろうか?
そうなると、ここで「君が恋だった」と名前をつけている時刻は0時過ぎ。前述した未来の記憶、出来事だということになる。
ここから2番
1番と比べると、自分の歩み(ベースの音)が早くなっている。
歩みに迷いはないが、「はずだった」が繰り返されていることから自分の気持ちが上手く整理できていないことがわかる。
「私の声」とは心の中の本音のことだろう。
"君のことが好き"だという本音をもう少しで見つけられそうなのに、ここではまだ自覚できない。
ここから2サビ。
この「どうか奪って 私のあらすじを」
あらすじとは本の1番最初に書いてあるもの。つまり初恋という風に取れる。
そして、1番は「理由が説明できない」だったのに対し2番は「理由は聞かないでほしい」に変わっていることから、心の中では気持ちを自覚しているが、まだ言葉にする勇気はないから聞かないでほしい……という少女の葛藤が伝わってくる。
ここは1番と違ってハイハットがクローズになっていて、感情が出ていかず溜め込まれているイメージが音で伝わる。
「理由は聞かないでほしい」→「だって感情難しいんだ」と続いているが、この部分の言い回しは今まであまり出てこなかった"人間らしさ"というか"少女のあどけなさ"が垣間見えて可愛らしい印象を受ける。
機械的に気持ちを整理したいのに上手くデリートできない、どんどん「君」への気持ちが広がっていることに戸惑っているのだろう。
そしていよいよ処理できなくなった「君」への気持ちが涙になって溢れてくる。
この「夢」という単語から思い出してほしいのだが、1番のサビで「だけど鮮明 ふと浮かんだ記憶は甘いキスのflash back?」の部分を予知夢のようなものだと書いた。
このことから、夢で見た甘い記憶は「君」のことだったとここで気付いたようにも取れる。
ここでこぼれ落ちる涙のようなピアノ!
涙がこぼれ落ちたことで気持ちを自覚して、機械的に処理しようとしていた気持ち(プログラム)が処理できていないまま、素直な心になって現れている。
この後の間奏でも、最初は涙が晴れるようなピアノ→後半はプログラムがショートするようなシンセの音が鳴っている。
落ちサビ。
この「推定23時49分」という明確に時間を指している歌詞の意味を考えてみたのだが、こちらのポストが分かりやすかったので引用させていただく。
ここで初めて明確な時間を指すことで曲がクライマックスへ向けて盛り上がっているし、こういう仕掛け、田淵智也がやりそう〜!という納得の考察である。
日本の季節の流れを調べるとこのように円を描いている画像が多く出てくることもあり、これを見て四季の流れが時間の流れに似ているとも思ったのかもしれない。
ここからラスサビ
1サビ「それは推定23時」と違い、ここでは「あれは推定23時」となっているので23時頃のこと(1サビ頃のこと)を思い出しながら走っているとわかる。つまり今の時刻はこの後の歌詞にある、日付がもう間もなく変わる頃(推定23時49分〜0時前)。
「だから鮮明〜」からのベースがかなり楽しそうで良い……
ここの「ふと浮かんだ記憶」 は「幻想?そうじゃないんだ」「今すぐはじき出す」と言っているように、この直後に起こることだと少女は確信している。
1サビ終わりにあった「日付が変わる少し前 プログラム確かに書き変わったんだ」という歌詞は少女が「君」に気持ちを伝えたあと振り返っているものだが、ここはまさにその"気持ちを伝える"瞬間。
こうして振り返ると、この曲の歌詞は時系列がバラバラだということが分かる。
日付が変わるのと同時に「私と君」の関係性も変わると少女は思っている。
そして証明完了。この気持ちが恋だったんだと言い切り、アウトロで主題が戻ってきて曲が終わる。
こうして書いてみると、語呂がいい・韻を踏んでいて聴きやすい歌詞の並びがこれだけの物語性を持っていることに改めて惚れ惚れする。また、少女の気持ちをデジタル用語で表現するに伴ってピアノやシンセの音が多く使われていることがこの曲の独特な雰囲気を作り出していると分かる。
「これが恋だった」という言葉を過去形であると捉えて、"少女が自分の気持ちを自覚した後「君」に伝えたけど失恋してしまった"という考察をされている方がいたのだが、私はこの「だった」は「証明は終わり」→証明完了→完了形だと推測している。
(というのも、この曲はハッピーエンドで終わらせてほしいという勝手な期待の気持ちが大きいからなのだが)
この曲も例に漏れず田淵智也の曲はベースがとにかく動くし楽しい。
田淵智也自身がベーシストであるため、自分が弾いていて気持ちが昂るフレーズを選択することが多いからだろう。
最後は散文になってしまったが、以上で考察終了。
田淵智也の楽曲には他にも様々な物語が存在する。
声優の方に提供している曲が多いこともあり、本業のUNISON SQUARE GARDENというバンドとは少し違った文脈で書かれているものも多いので是非聴いていただきたい。
最後まで読んでくださってありがとうございました。