【特撮語り】仮面ライダーゼロワンを諦めてしまった人にこそ見てほしい『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』
本記事は公開中の映画『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』(以下、本作)のネタバレを少なからず含みます。
展開や核心に関する部分については極力伏せているつもりですが、ある程度はご了承ください。
・『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』とは
2020年12月18日より全国の映画館で公開中の特撮映画。
令和ライダー一作目『仮面ライダーゼロワン』
2020年8月に放送された最終回のその後を描く劇場版です。
現在放映中の令和ライダー二作目『仮面ライダーセイバー』の劇場短編と同時上映。
セイバー側もすごいと言えばすごいのですが、今回のゼロワン映画に感動すら覚えたのと、鑑賞から数日ではこのシリーズへのクソデカ感情を処理できないので今回は一筆取らせていただきました。
ゼロワンについては以前書いた布教記事も是非。
見た感想としては二点、
「最後まで諦めずにゼロワンを見てよかった」
「既にゼロワンを諦めてしまった人にも見てほしい、きっと見直すきっかけになるはず」
です。
・君は何故ゼロワンを諦めたか
昨年視聴をオススメする記事を書いただけにいささか遺憾なのですが、仮面ライダーゼロワンのTVシリーズは結構な脱落者を出してしまいました。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のために撮影がストップしてしまったのも要因の一つですが、展開の構成上、どうしても序盤でハマった人ほど視聴継続が難しくなる作りに出来上がっていたからです
TVシリーズの第1話からの第1クールでは、ヒューマギアを悪用し、人類滅亡を目論む滅亡迅雷.netと、それを阻止する仮面ライダー達の戦いが繰り広げられました。
敵味方ともにシンプルな目的で動き、また、主人公・飛電或人もヒューマギアというテクノロジーを学んでいき人間との共存の道を作っていくという見れば見るほどハマるわかりやすい構図でしたが、年が明けて突入した第2クールからはその様相が一変することになります。
滅亡迅雷.netの撃破後に現れた新たな敵、仮面ライダーサウザーことZAIAエンタープライズ社社長天津垓(あまつがい)。
彼が飛電インテリジェンス買収を盾に仕掛けた「お仕事5番勝負」が数か月に渡りエピソードの主軸になっていきます。
天津自身の目的が語られぬまま複雑さを極めた物語は、当初のシンプルな構図が持っていた魅力に食いついた視聴者を徐々に脱落させていきました。
正直、この辺りはゼロワンの感想を追いかけるのつらかったです。
しかし、本作はそんなゼロワンを諦めてしまった人にこそオススメしたい作品になっていました。
・REAL×TIMEを観てほしい3つの理由
本作の魅力を3つのポイントで紹介します。
原点
リアル
未来
です。
今蘇るゼロワンの原点
本作のテーマは、ゼロワン本編初頭で描かれた、
「テクノロジーは担い手によって在り様を変える」
という一点に尽きます。
本作の敵、エス/仮面ライダーエデンと、彼が率いるシンクネットを支える技術の根本は、元々医療用に開発された人工知能搭載型ナノマシンです。
人間を救うために作られたナノマシンは、しかして世界の破滅を目論む者たちによってその応用性を攻撃という面で遺憾なく発揮し、世界を脅かす兵器と化します。
この辺りは人間を支えるためにヒューマギアを展開する飛電インテリジェンスと、人類を滅亡させるためにヒューマギアをマギアとして暴走させる滅亡迅雷.netの構図にも通じるものがあるなと感じました。
つまり、いくつものテーマをもって描かれてきた仮面ライダーゼロワンの物語は、ここにきて原点回帰を果たすことになったのです。
これだけでもゼロワンの序盤に魅せられた人々は楽しめるはずですが、せっかく観るからには「どうせ~だろう」と凝り固まってしまった考えを裏切られ、ゼロワンを見直すきっかけになってほしいです。
そしてそれを叶えてくれるのが、ゼロワンのリアル。
登場人物が生きるゼロワンのリアル
本作がどのような作品か一言で述べよと問われれば、私は「非常に文学的な作品」であると答えます。
というのも、本作は作中における説明セリフを最低限に絞っており、特に登場人物の思考に関しては意図的に「読ませる」構成になっています。
キャラクターを物語のパーツではなく、崩壊までの60分を生きる命として定義し、その内面に深く迫れる作品なのです。
或人以外を通じて描かれるゼロワン世界の今
本作の構成として特徴的なのが、主人公・飛電或人がイズ以外のレギュラーとほとんど接触しない点にあります。
よって、エイムズ、滅亡迅雷、ZAIA、それぞれの勢力の現在はその外にいる或人によって俯瞰されるのではなく、視聴者すらも個々の視点を通してお互いを見ることになるのです。
中でも、仮面ライダーバルカン/不破諫の態度の変化については考えさせられるところが多くありました。
仮面ライダーバルカン/不破諫は、元々「ヒューマギア(滅亡迅雷)をぶっ潰す」と息巻いていたキャラクターで、物語の真相に近づくにつれその標的はZAIAやアークに変わったりと、TVシリーズではまさに狂犬のように牙をむき出しにした存在でした。
しかし本作における不破は、演じる岡田龍太郎氏が「まるで別世界から迷い込んだよう」と評するように、どこか一線を画す存在感を発揮します。
特に顕著なのが、ヒューマギアサイドへの態度の軟化です。
本編で散々対立した滅や迅との共闘・協調をはじめ、イズの現状に対しても理解を示すなど、それまでの凶暴ぶりからは考えられないほど大人びた様相を見せてくれます。
が、だからといって牙を抜かれたというわけではなく、キッチリ敵サイドには容赦ない激しさを見せており、「牙の納め方を覚えた猟犬」とでも言うべき存在へと成長しました。
その心情の変化については一切語られませんが、不破なりに人工知能との折り合いの付け方を学んだということや、現在までに至るプロセスなど、その内面を想像する余地が言動の端々に顕れており、真相は本作を見る人間に委ねられていると感じました。
そして、牙を納めた狂犬が人工知能との共存を良しとできるほどに世界はどう変わったのか、この辺りを考えるだけでもゼロワンの世界を見直す価値はあるのではないでしょうか。
飛電或人は生きている。
メタルクラスタ、ヘルライジングを通じて描かれる"リアルタイム"
また、だからといって輪の外にいる或人がバトルのためだけの舞台装置になっているというわけはありません。
エスの野望/暴走と戦う状況にあって、60分の間或人が思考し、悩み、実行する様子が、本作では言葉少なに、体感型で描かれています。
その代表的な例が、メタルクラスタホッパーとヘルライジングホッパーへの変身です。
予告映像でも登場していましたが、中間強化フォームであるメタルクラスタホッパーが仮面ライダーエデンと対峙するシーンが本作に存在します。
より強力な性能を持つ仮面ライダーゼロツーをもってして互角以上の強さと類推されるエデンにこのフォームを選択するのは、
・単純にゼロツーの前座
・予告でゼロツーキーが奪われたような場面があるので緊急措置
と予想できる、というか私自身その予想でしたが、結果としてこれは裏切られることになりました。
リアライジングホッパーという、ゼロツーに次ぐ、あるいはそれ以上の切り札を擁しながらも、或人がメタルクラスタを選択したのにはれっきとした理由がありました。
これについては、説明されなくとも実際にシーンを見れば一目で得心できるようになっており、この行間を読ませる描写が本作を文学的と称する根拠の一つでもあります。
そして、本作限定の新フォーム・ヘルライジングホッパー。
当初は「また闇堕ちか」とも囁かれましたが、私としてはアークの悪意を乗り越えた或人が、今更暴走して闇のフォームに変身することには疑問がありました。
もちろん、この変身にも或人なりの思惑が存在します。
が、このシーンは演出・演技ともにシリーズでもトップクラスの完成度と思っているので、余計な情報は入れずに変身の瞬間を目撃してください。
何故今メタルクラスタを選択し、そしてヘルライジングにも変身する必要があったのか、その疑問を抱いて本作に触れれば、物語の裏で思考する飛電或人の"リアルタイム"を肌で感じることができるはずです。
提示されるゼロワンの未来、そして
TVシリーズ本編では、夢や理想に向かって突き進む人間の強さと、機械ゆえに容易く敵にも味方にもなりうる人工知能の危うさが描かれました。
しかし、本作では逆に人間の脆さが強調され、揺るがぬ目的を持った時の人工知能の強さが主体となっています。
この世界では、アークの悪意を完全に根絶できたわけではありません。
人間、人工知能、その誰もが次のアーク、もしくはアーク以外の要因で悪のテクノロジーの担い手になるかもしれない恐怖が依然として存在しているのです。
その危険性が示唆された一方で、人間も、人工知能も、誰もが成長・変化し、悪意を克服できるという希望も提示されました。
シンギュラリティ―人工知能が人間にとって代わる未来予測の限界点―を迎えていたゼロワンの世界は、すでにその先に立っています。
シンギュラリティにはまだまだ遠い現実の未来がどうなるのか、ゼロワンの原点・リアル・未来、この三つが投げかけてきた新たな問いを、我々はもう一度考えてみるべきではないでしょうか……?
まずは続編、ゼロワンOthersで答え合わせの時を待つとしましょう……
・おわりに
以上、『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』について語らせていただきました。
気になった方はぜひとも劇場へ行ってみてください。
本編だけでなく、パンフレットのインタビューにもキャストやスタッフの人たちの想いが溢れているので、合わせて読むのをオススメします。
時勢的なものもありますので、劇場に足を運ぶのが難しい方は、後々の円盤や配信で「ああ、そういえばこんなこと言ってたやつがいたな」と思い出しながら見てもらえると嬉しいです。
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