あんのこと
気になっていた、映画『あんのこと』を見た。
※ネタバレあり。
主人公、杏は12才から売春をし、16才から覚醒剤を覚えしまった少女。
売春をして得たお金は水商売の母親に奪われ、体の不自由な祖母との三人暮らし。
小学校も行かなくなったので実質小卒となる。
そんな自暴自棄で希望のない彼女は、売春中に相手が倒れた為、薬物使用がばれて警察に行く。
その警官が佐藤二朗で、薬物を辞める会合の主催も努めている。
彼女が自立できるように様々奮起し、ご飯も食べることも多い。
祖母の介護に役に立つようにと、介護のバイトをして、その初任給も母親に奪われ、自暴自棄になり薬をやってしまう場所へ佐藤二朗が来て、よしよし、大丈夫だって抱き抱えて頭を撫でるシーン、あそこで号泣してしまった。
あれが私も一番求めているものだ。
しかしこの映画は、全く綺麗事を描かない。
現実を現実のまま、描く。
救いがないとも言える。
自力で這い上がろうにも、その足を掴んで引きずり下ろされる描写も幾度となくある。
それが理解できない人達は安直に
『逃げれば良いじゃないか』というが、
逃げても逃げても追ってくるのだ。
離れたくとも嗅覚が凄くて逃げ切ることは容易ではない。
そして救いの手を差し伸べてくれた刑事の佐藤二朗も悪の側面があることが暴かれ、彼女の支えは無くなってしまう。
ちょうど世間はコロナ禍になり、非正規は自宅待機という名の解雇、夜間の学習会もコロナで無くなり彼女は茫然自失。
そして様々なことがあり、結果彼女は最悪な結末を辿ってしまう。
この物語は言語化できない閉塞感をうまく表現していて、見ていて息苦しさを感じていた過去を重ね合わせてしまった。
自宅に帰る前の嫌な感じとかは如実にそう。
扉を開けたくないけど開けないと居場所はない。
ごみが散乱してる描写も既視感があって。
彼女が順調に、前を向いて明るい未来を築いていくストーリーかと思っていたら全く違って、無慈悲な位の現実を突き付けてきて本当に人生は過酷であって、その時の状況で天国と地獄を簡単に変えてしまうものだとまざまざと見せつけられた。
今、『安定しているように見えてる』けれど、実のところはいつまたあの世界に戻るかも分からない、目に見えないまとわりつく不安という類いのもの、良く描いてくれたなと思う。
杏ちゃんと自分を隔てるものはあまりないのかもしれないし、全く違うのかもしれない。
ただ、分からない人には分からないだけの暗い映画としか意識されない部類のものなんだろうとも。
後者のような道を歩みたかった。
若い頃は、頑張れば自分の欲しかったモノが手に入るかもと孤軍奮闘していけた。
そのパワーと熱意があった。
ただ、頑張ってもすり減るだけだと分かってしまったいま、煌めく対象が見つからずに居る。
嫌なところや不愉快なところばかりを見つけて、現実逃避をしている。
『ここじゃないどこか』にしか思考は向いていない。
思い描いていた大人とはかけ離れている。
世間とも、凄く大きな隔たりがある。
ただ、自分で追い込んでいた切迫感からは逃れられたのも確かで、その狭間で一番苦しい時期でもある。
希望ってなんだろうとか。
そんな感じで、1日1日を生き延びてるだけの残暑の厳しい初秋。