黒森峰より愛をこめて(逸見エリカ生誕記念 06.03.2019) ④
第4章 守りたい夢
「あの初めての夜、主人は私にもうひとつ、かけがえのないものを贈ってくれました。
そう、『子宝』です。
あのクリスマスの夜に、私はまほを授かりました」
逸見エリカは、家元の突然の赤裸々な告白、それもツッコミ所が満載の打ち明け話を呆然としながら、しかし一言一句漏らさず聞き入っていた。
聞き流そうにも聞き流せないほど、あまりに意外なエピソードで、つい聞き入ってしまった。
「…それで、その話はまほさんには」
「言えるわけないでしょう」
よかった。
自分にこんな「出生の秘密」があると知ったら、流石の隊長でも卒倒しかねない。
クリスマスプレゼントで子宝って。
「何しろあの子もみほも、まだサンタさんを信じているのだから」
え、問題はそこ?
というか高校生にもなって、サンタ?
「だから内密に相談したの。高校生にもなってサンタを信じているなどと知れたら、二人は赤っ恥をかく」
家元に考えを読まれた!?
これが、西住流…!?
「いつかは夢から醒めなければならない。でもまだしばらく、成人するまでは二人に夢を見させてあげたい。親バカ、と思われたとしても」
家元の強い眼光にぞくりとしながらも、エリカは眼を逸らさず、しほの想いを受け止めようと努めた。
まほとみほを思う気持ちは、自分だって負けていない。
「去年までは二人は実家に帰ってきてくれたから、我々がプレゼントを用意するのは簡単だった。でも今年は違う。まほはドイツに行ってしまったし、みほはまだ帰ってくる気持ちの整理がつかないでしょう。それで…」
「私が『サンタ』になれば、よろしいのですね?」
しほの言葉を遮り、エリカは応えた。
ずっと憧れていた隊長と、辛い時に助けてあげられなかった親友。
二人に喜んでもらえるなら、私は喜んでピエロになろう。
今まで恐縮していた女子高生が急に覇気に溢れた声で応え、少し驚いたのか、家元は一瞬だけ口元を強ばらせた。しかしすぐにもとの仏頂面に戻り、エリカに告げる。
「目標、南西ドイツT市、西住まほ」
Panzer vor!
こうして逸見エリカは、憧れの先輩の「夢」を守るため「サンタ」になる、ただそれだけのために、遥か彼方の日沈む地、ドイツへと旅立つことになったのである。
(続く)