SWEET DUET「君と一緒なら、私はどこへだって行ける」(エイラ生誕記念22.02.2019) ②
第二期第六話「空より高く」
あなたの歌にわたしのメロディー重ねて
夜にはぐれないように導いて
何千マイルの旅も平気二人なら
どこまでも響かせて Sweet Duet
-「Sweet Duet」歌:サーニャ・V・リトヴャク、エイラ・イルマタル・ユーティライネン
「…このまま、あの山の向こうまで飛んでいこうか」
そう呟くサーニャに、涙目になりながらエイラは答える。
「いいよ。
サーニャと一緒なら、私はどこへだって行ける」
エイラのあまりに真剣な顔に驚いて、サーニャはエイラを抱きしめなだめるように言う。
「うそ。ごめんね。
今の私たちには、帰るところがあるもの」
このエピソードを見ると、僕は今でも涙が抑えられなくなってしまう。
もう何十回も見ているのに、いやだからこそ、反復強迫のように毎回同じところで泣くマインドセットが出来てしまっているのかもしれない。
ストパンの中で一番好きなエピソードのひとつだ。
リアルタイムで見ていた友人の話では、放映していた当時も「神回」と呼ばれるほど好評だったようで、まさに「名作」の名に相応しい一話だ。
「自慢じゃないが、私は実戦でシールドを張ったことはないんだ」
「なら無理だ」
これは、「無傷のエース」エイラが大好きなサーニャを守るため、おごりとプライドを捨て、自分が一番苦手な試練を乗り越えるストーリーだ。
いつもは飄々としているスオムス人が、今回だけはひどく不恰好で、惨めったらしい。
でもそれが、この上なく格好良く映るのは何故だろう。
再結成した501戦闘団が、ロマーニャに駐屯していた時のことだ。ローマに進撃する、非常にやっかいなネウロイと戦うことになった。
オベリスクのように細く高くそびえ立つネウロイ。雲を突き抜け、成層圏も越えたところにある先端、ネウロイのコアは、そこにある。
高度33,333m。
成層圏の先、気温-70℃、空気の無い、人間の限界を越えた極限状態。
そこまで上昇し、コアを攻撃するという危険な役を、なんとサーニャが担うことになった。
この作戦には11人のストライクウィッチーズ全員が参加する。
まず全員で三段のタワーを組む。最下段の第一打ち上げ班が5人、その上に4人の第二打ち上げ班が乗り、そのさらに上、最上段に2人の突撃班が乗る。
最初に5人の第一打ち上げ班が、第二打ち上げ班4人と突撃班2人を高度10,000mまで運ぶ。高度10,000mの上昇が、ストライカーの動力の限界なのだ。
その後第二打ち上げ班が、ブースターを使って高度20,000mまで突撃班を運ぶ。
そして最後に2名の突撃班がブースターでネウロイの頂上まで上昇し、コアを叩く。
ブースターによる消耗、極限状態での生命維持を考慮すると、短い時間で強力かつ広範囲に攻撃する必要がある。それができるのは、サーニャのフリーガーハマーしかなかったのだ。
当然エイラはもうひとりの突撃班に立候補する。
しかし、隊長のミーナと戦闘隊長の坂本は却下した。
もうひとりの突撃班は、攻撃中自分の身を守る余裕がないサーニャを守る者でなければならない。
だがエイラは、実戦でシールドを張ったことがないのだ。
未来予知が出来るエイラは、攻撃が当たりそうになると察知して反射的に身をかわすことが出来る。そのため、シールドで身を守るという行為を実戦で行ったことがない。自分でもそれを誇っており、シールドを使うのは二流だとすら豪語していた。
エイラには、サーニャを守ることが出来ない。
結局もうひとりの突撃班には、宮藤が選ばれた。
部隊の中で最も強力なシールドを張れるゆえ、適任だと判断されたのだった。
「諦めちゃうから、出来ないのよ!」
「じゃあ最初から出来る宮藤に頼めばいいだろ!」
ブリタニアでは一時期3人一緒に任務をこなし、サーニャとも仲が良い宮藤。
よりにもよって彼女が、サーニャを守る役を担う。
納得できないエイラは、自分もシールドを習得し、サーニャを守れるようになろうと特訓をする。
だが、上手くいかない。
シールドを張れない訳ではないのだ。
だが特訓に付き合ってくれたリーネが、サーニャ役として協力しているペリーヌにライフルを撃ち込むと、エイラは弾丸が飛んで来るのを察知し、「反射的」に避けてしまう。サーニャ(役)を守れないのだ。
エイラは元々考えて戦うというよりは、本能のまま、感じるままに行動するタイプのエースだ。だからこそ、その本能を抑えて回避行動をせず、誰かを守るためにシールドを張るということがどうしても出来ない。
成果のないまま特訓から帰ると、同室のサーニャがクローゼットから防寒着を出していた。
この時のやり取りを、長いがすべて引用する。
「エイラのコートでしょ」
クローゼットの中からサーニャはエイラに声をかける。
「成層圏は寒いから」
「そういやこれを着るのも、久しぶりだな」
厚手の白い皮のコートを広げるエイラに、何気ない素振りでサーニャは尋ねる。
「で、どうだったの? ペリーヌさんの特訓」
エイラは慌てる。
「知ってたのか」
「上手く出来た?」
「無理。駄目だった」
「…そう」
笑いながら誤魔化すエイラと、残念そうなサーニャ。
ふと、サーニャがマフラーを3本用意しているのがエイラの目にとまる。
「マフラー、そんなに持ってくのか?」
「エイラと私と、芳佳ちゃんのよ」
「宮藤の?」
「扶桑から何の準備もせずに来ちゃったから、貸してあげようと思って」
「でも…」
うつむいて、ためらいがちにサーニャはぽつりぽつりと話す。
「エイラも、張れるようになるといいよね、シールド」
「無理だよ」
少しだけ冷たく厳しい口調に、サーニャは驚く。
それに気付いたのか、明るい声を作っておどけて言う。
「やっぱり、慣れないことをするもんじゃないな」
「エイラ、諦めるの?」
「出来ないことをいくら頑張って、仕方ないだろ」
「出来ないからって諦めちゃだめ!」
いつになく大きな声で、顔を赤くしながらきっぱりと言う。勇気を振り絞って、本当に言いたいことを。 「諦めちゃうから、出来ないのよ」
「じゃあ最初から出来る宮藤に頼めばいいだろ!」
背中越しに声を荒げた後、エイラは後悔する。
違う。
そんなことは言いたくなかった。
ただ自分を責めて落ち込んでいる時に、一番気にしているところを突かれて、つい怒鳴ってしまったのだ。
サーニャのほうは顔をさらに赤くして、泣きそうになりながら叫ぶ。
「エイラの馬鹿!」
「サーニャのわからず屋!」
売り言葉に買い言葉で振り向いて言い返すエイラの顔に、サーニャの枕が飛んでくる。
つい最近エイラがサーニャに贈った手触りのいい枕。
帰投した後すぐ抱きしめて放さないくらい、サーニャが気に入っていた枕。
枕が落ちて開けたエイラの視界に、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたサーニャの険しい顔が飛び込む。
サーニャは、部屋を飛び出す。
夜になっても帰って来ない。
サーニャの枕を抱きしめながら、エイラはすべての感情を失ったかのような呆けた虚ろな眼で、二段ベッドの天井を眺めていた。
「諦めたくない! 私がサーニャを守る!」
「エイラは私が必ず連れて帰ります」
仲直りが出来ないまま、作戦の日を迎える。
カウントダウンが終わり、第一打ち上げ班が発進する。
高度10,000mで第一打ち上げ班は離脱し、第二打ち上げ班がブースターに点火する。
この第二打ち上げ班の中に、エイラはいた。
高度20,000mに達し、班長格のペリーヌの合図で4人は離脱。突撃班のサーニャと宮藤がブースターに点火し、さらに上昇する。
昇っていくサーニャを、エイラは心配そうに見つめる。
「生きて帰れる保証はない」
作戦会議での隊員達の言葉が脳裏をよぎる。
サーニャには、守るものが必要だ。
サーニャを守るのは、誰だ。
ふと、サーニャが振り返る。
エイラと目が合う。
その時エイラは、もう自分を抑えることなど出来なかった。
「いやだ!
私が、私が、サーニャを守る!」
涙ぐんで叫びながら、エイラは二人の後を追う。
「エイラ、何してるの!?」
「サーニャ、言ったじゃないか。諦めるから出来ないんだって」
「私は、諦めたくないんだ!」
「私が、サーニャを守るんだ!!」
無茶だった。
第二打ち上げ班のエイラはこの高度まで二人を運ぶのにかなりの魔力を消費している。余力は少ないのだ。
それでも、力を振り絞ってエイラは飛ぶ。
いつものようなスマートな飛び方ではない。
ふらつきながら、すがりつくように、もがくように彼女は飛んだ。
セリフと同時に映し出されるこの後ろ姿は、毎回僕の心を打ち、涙を誘う。
「エイラさん、行きましょう」
ふらつくエイラの手を掴み引き上げたのは、宮藤だった。
宮藤はエイラを押し上げ、サーニャに渡す。
すかさずサーニャは、エイラを抱き留め離れないようにする。
「魔法力が持ちませんわ。帰れなくなりますわよ」
エイラを心配するペリーヌに、サーニャは優しい、しかしきっぱりとした口調で答える。
「私が、エイラを、連れて帰ります。
必ず、連れて帰ります」
エイラは驚いてサーニャを見つめる。
見つめ返すサーニャの瞳は潤み、顔には慈しむかのような微笑みをたたえていた。
ちなみにアニメでは、エイラがサーニャ達を追いかける場面から二人のデュエット曲「Sweet Duet」が流れ出す。アニメの進行、セリフのやり取りと音楽の掛け合わせが本当に絶妙で、それもこのシーンが「泣ける」ものになっている理由のひとつだ。
こればかりは文章で再現が出来ず残念だ。
このシーンだけでも是非アニメで見て下さい。
「このまま、あの山の向こうまで飛んでいこうか」
「いいよ。サーニャと一緒なら、私はどこへだって行ける」
高度33,333m。ネウロイの頂上。
「Sweet Duet」をBGMに戦う二人はネウロイと戦うというよりはもっと大きなもの、「飲み込まれそう」な「暗闇」「静寂」と戦っているようだった。
その中でエイラはずっとサーニャの手を離さず、もう片方の手でシールドを張り、サーニャを立派に守りきる。
そしてネウロイのコアが、花びらが開くように守りが解けあらわになった時、サーニャのフリーガーハマーが火を吹き、コアを直撃する。
立ち上がる爆風。
その激しさのあまり後ろに吹き飛ばされるサーニャの身体。
すがるように伸ばされた腕を、エイラはしっかりと掴まえる。
この瞬間、音楽が、時間が、世界が止まる。
あなたの歌にわたしのメロディー重ねて
夜にはぐれないように導いて
何千マイルの旅も平気二人なら
どこまでも響かせて Sweet Duet
「Sweet Duet」
歌が始まるのに合わせるように、二人は体勢を整え、並んで宙を飛ぶ。
爆風はやんだ。
空気も重力もない、空と宇宙の狭間を、二人は漂う。
エイラは、何か言おうとする。
しかし空気がないから「音」にならない。
エイラはサーニャと顔をくつけ、話し始める。
「聞こえるか」
「うん」
「ごめんな」
「ううん。私も」
あの時以来言えなかった言葉が、辛い戦いで力を使い果たした今、この世界の果てのような場所で、ようやく交わすことが出来たのだった。
「エイラ見て、オラーシャよ」
うっとりとした表情の二人。
「ウラルの山に、手が届きそう」
手を伸ばしながらサーニャは、冗談とも本気ともつかない虚ろなトーンで呟いた。
「このまま、あの山の向こうまで飛んでいこうか」
サーニャ。
ずっと一緒にいたかったサーニャ、いつも私がその手を引いて連れ回っていたサーニャ。
そのサーニャが、私と一緒に世界の果てまで行きたいと、そう言ってくれた。
「いいよ。サーニャと一緒なら、私はどこへだって行ける」
涙で崩れたエイラを見たサーニャは慌ててエイラを抱き締める。
慰めるように。
慈しむように。
「うそ。ごめんね。
今の私たちには、帰るところがあるもの」
無重力下の束の間のランデブーを終えた二人は、ストライカーを捨て、「帰るところ」へ自由落下していった。
終わりに
このエピソードを初めて見た時、僕は大好きな人と大きな仲違いをしていた。
僕は強がってばかりのくせに彼女のために何も出来なくて、そのもどかしさを愛する彼女自身にぶつけるような、馬鹿なことをしていた。
そう、エイラのように。
では僕は、エイラのように愛する人のために今の「自分」を捨てて、ただ彼女のためだけに尽くすことが出来ていただろうか?
カッコ悪くても、みっともなくても、彼女のためにこの身を捧げることが出来たろうか?
僕は僕のサーニャと、世界の果てまで飛んでいく覚悟はあるだろうか?
では、これからは?
運命を占うタロットカードは
まだめくらないでね 秘密のままでいい
-「sweet Duet」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?