「マイペースに編集の道をゆく」⑤

 ミスター・チルドレンの桜井和寿さんの連載を担当したのは1994年当初。それから数カ月後、「イノセント・ワールド」はミリオンセラーを記録し、”ミスチル現象”という言葉を生むまでになった。

 その勢いにのって事務所は、彼らのドキュメンタリー映画「es」の製作を始め、並行して「es」の単行本制作も企画した。連載を担当した縁から、95年発売の「『es』ミスター・チルドレン370デイズ」で、私は初めて単行本編集に携わった。

 信藤三雄さんがデザイナーを務めた208ページ、オールカラーの単行本には、「イノセント・ワールド」の制作ノート、アルバムや二つのツアー制作ルポなど、当時のミスチルの活動すべてが詰め込まれている。なのに実質的な制作期間は2カ月間。本当にハードで細かいことは一切覚えていない。とにかく彼らのいる場所にライターと出向き、常に話を聞き、素材として必要なライブ、合宿、ツアーカバン、CM画像などありとあらゆる写真を集め歩いた。

 ただ、今もはっきり覚えているのは、夏の北海道・野外イベントでの歓声だった。

 当日は楽屋まで密着し、ライブ直前にはカメラマン助手として、彼らが舞台に上がる直前まで同行した。時の人、ミスチルが登場したとき、空いっぱいに黄色い歓声は広がった。舞台横で、一生モンの歓声を浴びて鳥肌がたった。体力勝負の仕事だけど、ときおりこんな一生モンの特権があるから編集はやめられないのだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?