おじさんの日記2/21-4[@お家]

怠惰であるが故に命を落としそうになったおじさんであったが、本日、無事に1年寿命が伸びたことが確認できた。海外逃亡者にとって命綱である、パスポートが戻ってきたのである。

おじさん、もし万が一にでもこの1週間ほどの間に職務質問を受けるようなことがあったならば、下手をすると日本に強制送還される可能性もなくはない。本来、パスポートは、それぐらい大事なものだから。しかし、さすがはカンボジア。かれこれ5年ほど住まわせてもらっているが、今に至るまで一度も、職務質問なんてものを受けた事は無い。ただし、警察にお金をとられた事はある。

つまるところ、おじさんには確信があったのだ。パスポートがなくても大丈夫だと。

だが、ここで少し待ってほしい。おじさん、不法滞在者じゃないからな?そこは勘違いしないように。何度も何度も言っているが、おじさんはただただ誠実に生きる為に生きている。そんなおじさんが不法滞在なんて、馬鹿げたことをするわけないだろう?

そうではなく、これはおじさんの研ぎ澄まされた怠惰性の高さが巻き起こした愚かな物語の1つ。つまり、よくある日常でしかない。

昨日、日記でも書いたと思うが、とにかくおじさんは、予定を入れ、その予定を完遂するという、人間なら誰でもできそうなことですら、極度に難しい作業に感じてしまうわけだ。これがデジタル人間の宿命なのかな?いや、そういうわけではないだろう。

誰のせいにすればいいのかは分からないが、とにかく自分が特級怠惰であると言うことだけは、かろうじて自覚がある。

故に、こう理解している。あらゆる物事は忘却されるものとして、おじさんの世界に立ち現れるのだ、と。

おじさんにとっては、年に一度の超重要イベントである滞在ビザ更新ですらそうだ。

カンボジアにおけるビザ更新は、あまりにもぬるすぎて、もはや誰もがハードルだとすら思っていない。なぜなら、カンボジア滞在ビザは事実上、お金さえ払えば誰でも取得できてしまうからだ。年に一回、期限までにお店に行き、更新をお願いしてお金を払うだけのことでしかない。文字通り誰でも当たり前にこなせてしまう。それがカンボジアにおけるビザ更新だ。

その為、カンボジアには特級犯罪者が集いやすいと言う宿命もある。日本の悪い人なんかは目ではない、世界の極悪人も集っているらしい。まあ中国人同士の誘拐事件が日常的にニュースになる国なので、特に不思議でもない。ただ、その帰結として、おじさんの引きこもりは加速する。

おじさんの引きこもりを加速させるほど、ビザ更新が容易すぎる国。それがカンボジアなのだが、当のおじさんにとっては、驚くほどハードルが高いイベントでもある。何せ、忘れるから。

と言うより、もはや忘れるという以前の話でもある。なぜなら、ビザ更新は人の誕生日とは違い、一定期間の猶予があるからだ。

もちろん、おじさんには無いが。

一体、どういうことか?夏休みの宿題と同じだ。ギリギリまで攻めるのである。今回のおじさんのビザ終了期限は2月9日だった。

オマエの命は09/02/25までだ!

ギリギリまで攻める。

今年もその戦略でいく事を何日も前に入念なシミュレーションを行って決めたおじさんは、安心していつも通り精進の日課を送る毎日だった。しかし、おじさんは2月8日の朝、日課の途中で気づいてしまったのである。明日、2月9日のビザ期限終了日は、日曜日で休日であることに…。

慌てていつもビザの更新をお願いしているお店に向かうおじさん。物理空間で用事があるという事は、デジタル人間から現実へと立ち戻る瞬間でもある。などと考えている内にお店に到着するも、そもそもお店も土日が休みだったことにまで、改めて気づいてしまう。休日なんかなくなればいいのに…。

休日と言う概念を喪失していたことに、これほどまで衝撃を受けたのはいつぶりだろうか。とにかく、もう既に土曜日で、お店は土日休み。右手で握りしめたおじさんのiPhoneには、今まで気づいていなかったが日付と曜日がはっきりと表示されていた。

「なるほど、これが無知の知か」なんて思ったかは覚えていないが、とりあえず帰路についたのであった。

月曜日までは成す術無しの状態であった。そして、どのような計算の仕方をしてみても、月曜日は10日。おじさんのビザの期限は9日だ。さすがにおじさん、誠実に生きることを半強制的に諦めさせられる状況も考えた。おじさん、やっぱり誠実でいたいからね。

そんなこんなで、結局、奥さんに相談して、共通の友達の中国人に頼ることにした。それで、こうなった。

この中国人は、何故かおじさんのことがすごく好きで、会いたがってよく連絡をしてくるかわいいやつだ。会ったときに話すのは、大体ビジネスの話か経済の話、後は、仮想通貨の話は多いかな。

ちなみに彼とは共通言語がないので、この彼と話す時は奥さんに通訳をしてもらうか、翻訳アプリを使うしかない。もちろん你好くらいは分かる。日本にいる時から一番よくかけられた中国語だからね。

おじさんと違って、彼は何か仕事をしている。金の使い方や時間の融通度合から見て、普通の仕事ではないとは思うが、聞いたことがないので具体的に何をしているかは知らない。反社会勢力ではなさそうだから、特に気にする必要もない。

むしろ、いろいろなレストランや多種多様な業種の人間にも顔が広いようで、引きこもりのおじさんとは違って、たくさんの人と交流しているようだ。この彼は、人に好かれるタイプのようで会う人、会う人、皆が彼に優しい笑顔を向けている。おそらく、おじさんに勝るとも劣らず誠実な人間なのだろう。きっとそうだ。

そして、おじさんは初めて中国人を信用してみた。パスポートを彼の知人のビザ対応できる店に預けた。その結果はと言うと…

(今のところ)無事に強くなって戻ってきたパスポート

おめでとうおじさん、また1年寿命が伸びたね。おわり

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