勝機、なきにしもあらず
二つの刃が金属音を奏でた。物憂げな青年が納刀する背後で、彼よりいくらか年かさの男が土煙を上げて無様に倒れ込んだ。男は剣を握りしめ、苦悶の呻きをあげながら立ち上がろうとするも叶わず、かろうじて半身を起こし青年の背を睨んだ。
「あんたに殺される道理も」
「ハァーッ…ハァーッ…ハァーッ…」
「あんたを殺す義理もない」
「ハァーッ…ハァーッ…」
「退いてくれ」
「ハァーッ…」
男は息を整え立ち上がった。命は奪われまいと安堵したか。さっさと失せろ。青年はただ虚しかった。狭間の獣。暴竜。終焉の騎士。仲間達とともに戦い、幾度となく救った世界。しがらみを嫌い一人放浪する彼の【神速剣】の二つ名には、平和に溺れ功名心に駆られた者達が群がるようになった。
「神様ってのは」男が無造作に話しかけた。青年は警戒する。
「案外とろいもんだな」体を走る緊張が背中の傷を認識した。
「エッ」
英雄【神速剣】は血を噴きながら緩慢な動作で倒れた。
【続く】