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小さな小説 冷たい風
顔の輪郭をはっきりと分からせるかのように冷たい風が頬をかする。
冬ってこんなに冷たかったっけ。冬に寒さを感じるのではなく冷たさを感じるのは君がいなくなったからだろうか。
鼻先をまた風がかする。吸い込むと鼻の奥がつんとする。振った側なのに泣きたくなるのはどうしてなのだろう。ここ最近、とてつもなく泣きたくなる。大泣きでもいい、つーっと涙を流すのでも良かった。何度も泣きたい気分に襲われるが涙は出なかった。
君がいた時心が満たされた。同時に胸がぐっと押しつぶされるような罪悪感に似た感情に悩まされた。戻ったところで未来はない。それでも、消えたきらめきが半永久的にやってくる海岸の水面のように、思い出が光を反射してきた。
君以上に素を愛してくれるひとに出会えるだろうか。鼻の奥にまた冷たさが突き刺す。わたしは君の好きには届かなかったがちゃんと想っていたよ。鼻の先に神経が集中するのを構わず、頬に無常な風が突き刺す。
冬が早く過ぎ去ってほしい。涙を流せない冷たさから抜け出して、暖かい春の匂いを目一杯感じさせてほしい。
著者 白湯
今日は初の試みで小説を。これからポストカード一枚ちょっとの文量で小さな小説としてシリーズ化したい。