乗馬と裸の女の子
ここ最近馬に惹かれていた。
きっかけは多分、銀座のエルメスギャラリーで行われていたシャルロットデュマの展示だと思う。
写真は多くを語らないのに、その場にある息遣いや空気、質感が伝わって来るものばかりだった。
「文明の黎明期より、人類はありとあらゆる物を運ぶのに馬を頼りにしてきた。馬は険しい峠をめぐり刈り集めた柴の束だけでなく、神々や精霊にかける願い事に至るまでを運び届けてくれた」
「また、馬は現世来世を渡りゆく私たちの旅の道連れでもあり、ずっと寄り添い見守ってくれる存在でもある」
馬と人間の関係には、なにか大きな、生命そのものに通じる神聖さがあると思う。
展示に魅了された私は期間中何度も一人で足を運び、滅多に買わない写真集を買った。
また別の日、浅草ロック座へ行ってストリップを見た。
その日は友達と焼肉を食べてから地図を見ずにスカイツリーまで歩き、シーシャを吸い、浅草に来たからという理由でロック座へ行った。
開演後女の子達がステージの上に立ち、激しいポールダンスを披露したかと思えば、打って変わってアリスのようなポップな衣装に身を包んだ子がニコニコと踊っている。
正直ストリップを観に行くのは人生で2回目だ。ただ、私は始まった瞬間からまた息を飲んで見入ってしまった。
大きなステージの上でスポットライトを浴び、鍛え上げられた全身の筋肉を使ってしなやかに舞う女の子。
一枚ずつ着物の紐を解き、観客に向かって身体の全てをさらけ出し恍惚とした表情で魅せる女性。
妖艶な紫色の光を、彼女たちのキメの細かく白い肌が反射して光る。
そこにある身体に対して、人間の緻密な作りに対して思わず感嘆の声を漏らした。
浮き出る背中の骨と筋肉。
天に向かって伸ばされた爪先。
海のように深い性器。
不思議な気分だった。卑猥さは全くなく浮世離れしていて、竜宮城へ来たようだった。
その翌日、地元の森で乗馬をした。
私が乗った馬はおとなしかった。
馬の背中から感じる息遣いや体温、振動を身体で受け取りながら
馬と一つになることを意識し、自分の身体の動きを調節する。
そうすると、自我がフッと消えたりした。
地面の草を一歩ずつ踏みしめる感触。
どこかで聞こえる鳥のさえずり。
水溜りを蹄で踏む音が、自分のかかとより下で響く。
前を歩く馬のしなやかな脚腰の筋肉や、乗っている馬の背骨の曲線を目でなぞっていた。
昨日見た女の人の身体と重なり、その美しさに見惚れる。
止まっている時に馬のたてがみと背中を撫でてみる。
大きな木の太い幹に触れた時と似ていて、そこには優しさと包み込まれる歴史の長さがあった。
途中で一瞬マスクを外して空気を吸い込むと、
前日の雨で湿った濃い緑の空気が体内に流れこんだ。
様々な生命が混じった複雑な森の空気で充満する。
自分も自然の一部になれた気がした。
私も馬もなにか大きなものに生かされていて、同じように神秘的な美しさを抱えているのだとしたら
そこに違いはないのかもしれない
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