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40秒小説『Rabbit』

 月の裏面に兎が住んでいることは常識だ。闇に擬態した漆黒の羽毛。跳ねるたび、3cmのクレーターをつくり、たまに差してくる光を食べ、友達や恋人と一緒に、群れで暮らしている。眼も歯も黒く、まるでシルエット。
 そんな宇宙兎を捕獲し、NASAが地球に連れ帰った。捕獲ケースを開けると、兎は光に溶けて消えてしまった。
 また連れ帰り、今度は真っ暗な部屋に放した。暫く生きていたが、半日も経たぬうちに消えてしまった。
 何度も何度も同じことが繰り返され、そのうち月の兎は絶滅しました。

 誰のせいだと思います?誰が月の兎を絶滅させてしまったと?それはアナタです。彼らの存在を、はなから信じていない、アナタです。消されるも何も、存在すらさせてもらえないのです。可哀想だと思いませんか?

 もしも可哀想だと思うのならばどうか、月の裏側で跳ねる、真っ黒な兎の姿を思い描いてみてください。
 そうすればアナタの世界にも、宇宙兎が跳ねる月が浮かびますから。
 


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