見出し画像

4分50秒小説『Metalmorphose』

「はい、ホームセンターDIEです」
「あのー、商品の問い合わせなんですが」
「有難うございます。どういった商品をお探しでしょうか?」
「えーと、なんて言ったらいいのかな……電話じゃ伝わりにくいかな?金属のパーツのような物、あ、金具ですかね、探してまして」
「はい」
「今、手元に1個あるんですが後3個必要なんですよねぇ、そちらで取り扱われているか確認したいのですが」
「はい、どのような金具でしょうか?」
「口で説明するの難しいなぁ、なんて言うか、山型になってまして、下の方は繋がっていないんですが、それで上の方の横に長細い穴が開いてまして、あ、下の方には内側に向かって突起部があります。取り扱いされていますか?」
「申し訳ありません。お電話ではちょっと――」
「待ってください!そうだ!今上の方とか下の方とか言いましたけど、そもそもこれどっちが上かも分からないわけで、逆にすればY字型に見えます。Yの上部分の内側左右ともに突起があって、下側には穴が開いています。あ、いや、よく見ると繋がってないからYじゃないか?」
「すいません。どういった用途の物でしょうか?」
「用途?うーん、本来の使い道はちょっと分からないんですよねぇ、今手元にあるやつは道具箱にいつの間にか入っててどこで買ったのかも覚えていないですし」
「では、どういった使い方をされるのでしょうか?」
「うわー、それはちょっと勘弁して下さい。ちょっと恥ずかしい使い方するので。その、まぁ、物を挟んで止めるために使うんですけど」
「すいません。もう一度見た感じを説明してもらってよろしいでしょうか?」
「はい、山みたいな形で……あっ、洗濯バサミっぽい形です、そうそう、これ何かに似てると思ってたんだよなぁ、洗濯バサミっぽい感じ!で金属製で滑らかで上の方の左右にに穴が2箇所開いていて、下の内側には突起部が左右あります。どうです?」
「……洗濯バサミではないんですよね?」
「違いますっ!可動部分はありません。あくまで形が洗濯バサミに似ているっていうだけです」
「大きさはどの程度ですか?」
「うーん、小さめの洗濯バサミぐらいですね」
「すいません、何cmぐらいですか?」
「そうですねぇ、5……いや、4cmぐらいかな」
「金属製なんですよね?」
「はい、テッカテカです」
「申し訳ありません。折角ご説明いただいたのですが、やはりお電話では、分かりかねます。お手数ですが、お手元にお持ちの実物を店頭に、お持ちいただければ――」
「いや、時間が無いんですよ。そちらに行って、取り扱いがなかったら間に合わなくなっちゃうから電話で確認してるんです」
「左様ですか……ではもう一度。見た目をですね、先ほど”洗濯バサミみたい”とご説明頂いたように、何かに例えてもらえませんか?その方が分かるかもしれません」
「なるほど確かに。では何かに例えて説明しますね。まず野菜に例えると茄子です」
「え?茄子ですか?」
「はい、あくまで雰囲気がですけどね。形状とか色とかじゃなくて僕の抱く印象です」
「なるほど、続けてください」
「音楽で言うと、バラードですね、どこか物悲しい雰囲気があって、そう、失恋歌のようです」
「バラード……」
「女優で言うと、赤根京さんっぽいですね。あ、ちなみにセクシー女優の方です。幼い顔してるのに意外に豊満なボディーの持ち主で後ろ姿、特に腰からお尻のラインにかけての安定感のあるシルエットがそっくりです。この部品みたいな女優さんが出ている作品を借りて大外れすることはないと思いますよ」
「部品みたな女優さん……」
「お菓子で言うと、うーん、ルマンドみたいな感じです。いや何層もなっていてサクサクしているわけじゃないんですけど、お菓子界におけるルマンドの位置=部品界におけるコレの位置という印象です」
「部品界……」
「うーん、これ以上例えても伝わらないと思うんで、いっそのこと、この金具をポエムにしてみたいと思います」
「ポエムッ?!」


鋼鉄の虚ろは愛の鋳型
艶かしい曲線交わりもせず
めらめらと君の心を映す鍍金
心から剥がれ落ち
高鳴りは即ち音を催す
そげのように刺さるべき音
鼓膜を求めて彷徨う
まさに金属音

メタリックな音群
決して音楽になろうとはせず
空間に満ちるに悠久を要す
悠久はゆうくりとユークリッド幾何学的金属化
あらゆる現象を道連れにして

音 光 色彩

そして感情までがメタルと化し完了す

【Metalmorphose】

私は万物のパーツ……の一部
私の愛だけが選ばれて溶鉱炉に落ちていく
いずれ金型で冷やかされ
私無き愛のパーツ

金型から一個
世界に飛び出し
地球を回転させる
メカニズムにインクルーズ
一片の名も無き金属
捩じ込まれ捩じ込まれ
命果つ

果てる命の音よ
かつて愛であった金属の私よ

嗚呼

キィィーーーンとして
こんなにも寂しくない死があろうとは

その身に刻まれしは原罪番号
A201-Sとあの女の背に描いたのだ
私の唾液が……ってあれ?


「すいません。なんか番号みたいなのが……A201-Sって書いてます」
「お調べします……A201ーDでしたら、在庫が5個ございます。Sはお取り寄せになります」
「……有難うございました」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?