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40秒小説『背に腹は変えられぬ?』
金満家の老人が死んだ。若い妻との情事の最中に、心臓発作を起こして。
遺産は遺言通り、すべて慈善団体へ寄付される。事件性は無いと思われたが、刑事が妻のもとを訪れ、形式的な質問をする。
「夜の営みをされている最中に亡くなられたと聞いていますが、奥様から誘われたのですか?」
「いえ、私は止めたんです。夫は心臓の薬を飲んでいたので。でも"俺は死ぬ時は、お前の腹の上で死にたい"と言われて」
「そうですか、残念なことではありますが、そういった事情でしたら、故人も本望だったことでしょう」
「いえ、そんなことはないと思います」
「そうでしょうか?」
「ええ、だって彼が死んだのは、私の背の上だったんです」