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SWPA2024表彰式inロンドン(後半)

承前
ということで、表彰式にロンドンへ連れて行っていただいた時の後半記事です。前半の記事はこちら↓。来るまでの経緯と、表彰式の様子などを書きました。

年をまたいでしまいましたが、2024年の内に書ききれなかった残りの事を書いていきたいと思います。
後半はロンドンの旅で2人の写真家の方に触れて自分の学びになった事を書いていきたいと思います。

ハービー山口さんのこと

前半にも書いたように、今回は日本賞の審査員でもある写真家のハービー山口さんもロンドンに帯同される回でした。貴重な回です。
一同で移動する際に、スナップを撮るために徒歩で移動することが多かったのですが、その際にハービーさんの撮影する光景を見させていただくことができました。
ハービーさんといえばポートレートを主に撮影されている写真家さんです。写真を見たときに、あんな表情をどうやって引き出すのだろうと常々思っていたのですが、その答えの一端が今回少しだけわかった気がします。

同行した人は僕以外みんな英語が話せるメンバーで、それは昔ロンドンで暮らしていたハービーさんも例外ではありませんでした。
街をみんなで歩いていると、ハービーさんが隊列を外れて、街行く人に声をかけて何やら会話しています。近寄ると、どうやら撮影交渉的な事をしていて、オッケーをもらったあとも会話を続けながらその人のポートレートを撮っていました。そのうち横に居た僕も紹介してくれて、一緒に写真を撮らせてくれます。
その写真のうちの1枚がこれです↑。
いい笑顔。
モデルでも役者でもなく、ただ街でタバコを吸っていただけの方です。
ハービーさんが会話で警戒心を解いて、ジョークでにっこりさせて、やりとりの中で表情を引き出しているという「それだけ」ではあるものの「そんな簡単に出来る事ではなさすぎる」ものでした。

ポートレートは、撮る人と撮られる人がお互いを意識して関わっている写真なので、その関係性は絶対に写真に影響します。おそらくハービーさんは「素敵だな」と思った人に声をかけて、そしてその人の素敵な所を引き出して良い写真を残そうとしているのだと思いました。会話の端々や撮られているひとの表情から、僕が勝手に分析しただけのことですが。
ハービーさんはご自身の著書で「相手の幸せを願ってシャッターを押す」という事を書かれています。一緒にいさせてもらって、マジでそうだったんだと思いました。話を綺麗に盛り付けてる可能性もありましたから。僕は「マジでそうだったんだ」と思うだけのものを目にしましたよ。一見綺麗ごとの様に聞こえるものでも、それが純粋なもので、そしてそのステートメントと写真が一致しているのってとても素敵なことで、それをしかとこの目で見ました。

翻って、僕が今回日本賞を受賞した写真はどうでしょう。

Lost in transtationをテーマにしたポートレート

これもポートレート。でも全然違います。
まず街で声をかけた知らない人の写真ではなく、前の年に知り合った海外のモデルさんが東京に遊びに来るというので撮らせてもらった写真です。
知り合いだというのに、この、ちゃんとコミュニケーションをとれていない感じ。距離感。
それがテーマなのでこの写真では正解なのですが、ハービーさんの写真とはあまりにも違いすぎるし、それゆえにポートレートで写真に影響する「人と人との関係」はあるんだきっと、という事が分かるのというものです。人間は体や表情からその人の意思を読み取ることが出来るので、目から入るものであればそういった細かなシグナルも写真に乗るのでしょう。

この写真には僕とこの子とのリアルな距離感が現れています。
それが都会の中の孤独を表現していてテーマに合うし自分らしくて心地よい、ので、僕的にはこれは良い写真ではあるので良いのですが。

(今回は受賞写真への選評がなく、それに面と向かってハービーさんに聞くのも恥ずかしかったので聞かなかったため、なぜこの写真が選ばれたのかは未だに謎なのですが。)

ポートレートが関係性の写真であるならば、これらの写真はハービーさんが作った関係性の横で僕はシャッターを押させてもらっただけなので、「僕の写真」ではないでしょう。
カメラロールに残っているだけ。もしくは、ハービーさんの作った関係を記録した写真、であれば正しく見る事のできている写真となるかもしれません。
それにしても街の人、いい笑顔を作ってくれいますよね。撮っている時は本当に奇跡を見ているようでした。ただ道端を歩いていてゼロからこれ生み出したのすごすぎる。

以前僕は、カメラ自体には被写体を創造することは出来ない、というようなことを考えていたことがありました。(ストリートフォトに関しての考察ですが)

でもこれは、創造ではないのですが、彫刻の「像を閉じ込めている大理石の中からその像を解放する」という言葉の様なイメージで、その人の中にある善性を信じ、その善と会話している人に返ってくる笑顔なのだと思います。
大理石の中に理想の姿を見ることが出来る能力……。見ることができなければ、シャッターを押しただけで写る写真とという媒体にさえ写すことが出来ないというのは不思議なことのようですが、実は当たり前のことなのかもしれません。見えないものは撮れないのではないでしょうか?

これらの写真↑一緒に移動していた時にハービーさんの横で脇撮り(許可もらって)させてもらったときのもの。ハービーさんが撮られていた方の一部でしかありませんが。

コミュニケーション能力が低くどこまで人の善性を信じているのか分かったものではないただの俗人の僕が、これの経験を今後活かせるのかはわかりませんが、確実に影響は残るだろうなという実感があります。
そのくらいビックリしたし感銘を受けた経験でした。文字で書いていてもほとんど伝わっていないかもしれませんが…
簡単に真似出来るものではないですし、それに真似しなくてはいけないものでもないのですが。
5年後くらいに僕に効いてくるのかもなと思っています。

セバスチャン・サルガド氏のこと

続いて、セバスチャン・サルガドさんのことです。

今回SWPAの特別功労賞ということで、セバスチャン・サルガド氏が選ばれ、氏も会場に来ていたという事は前半の記事にも書きました。
前半に書いたようにこの超巨匠とツーショットの写真を残せたことが僕にとってはすごい副賞だったわけですが、実はもう一つ特別な事がありました。

セバスチャン・サルガド特別講演(正式名称がそんな名前なのかは知らないけど)に参加させていただく事が出来ました。
授賞式の翌日、大学の講義室の様な机付きの席ががあるホール…おそらくキャパは500~600人くらいのところで行われた講演は、その会場に満員でした。何もをどう募集して集まった人たちなのかは分かりませんが、特別な機会なのだということはわかります。SONY JPANという席次にあったの我々の席は前から2列目のほぼセンターという超良席でした。

サルガド氏はスペイン語訛り(と思われる感じの)の英語でゆっくり話してくれて、司会のジョン氏もわかりやすい英語で話されていて、僕でもなんとなーーーくのうっすらとした内容は理解できました。

司会が「あなたの美しい写真はどのように撮られているのですか」
と聞くと
サルガド氏は大きく手ぶりを交え、撮影した時の事を思い出すように虚空を見つめて、すごく感覚的な、イマジネーションに満ちた修飾語で、その時の事を語っていました。
僕はその姿を見て、この方は夢想家でロマンチストなんだと、撮る時にそういう所を信じて撮影しているのだと思いました。が、同時に、初期の写真にあるような、人の置かれたあの厳しい環境をこんなふんわりとした感覚では撮影出来ないだろう、とも思いました。もしかしたら最近のGenesisを撮影した時の事を答えていたのかもしれません。
(Geenesisは地球にあるまだ文明が手付かずのままの姿を写した写真集)
それにしてもサルガド氏があまりにもふんわりした話しかしてくれないので、司会の人から「もうわかりました」とばかりに、ときたま話題を変えられていました。
この時とにかく詩的なお話をされていたのがとても印象に残りました。

身振りでイメージを掴もうとしているかのようなサルガド氏

途中で話を遮られてしまったりしていましたが、この時のサルガド氏は真剣に、そして自分に素直に嘘をつかないように言葉を紡いで語ってくれていたのだと僕は思います。サルガド氏が捉えて最終的に写真で表されている詩的な情緒は、言葉にしたらどれだけ言葉を尽くしても捉えきれないものなのかもしれないし、それをここで言葉で真摯に伝えようとしてくれていたのかもしれません。
「どのように撮るのか」の答えとして、技術的な事ではなく、その感動の初期衝動こそが最も大切なのだと僕は受け取りました。

また聴講者から質問を受け付けていて、ある方は
「デジタルとフィルムでの撮影はどちらがお好きですか」
と質問していて、サルガド氏は
「フィルムは嫌い(hate)」「あんな面倒なプロセスはもうしたくない」と答えて会場は笑いに包まれていました。このやり取りは僕もギリ聞き取れて笑いに乗れました。場の和やかな一体感は心地よかったです。僕以外プロの人ばかりなのだろうけど、写真が好きな人に囲まれているんだなと嬉しくなりました。

全体尺は1時間ほどで、僕はもちろん言葉は完全に理解することは出来なかったのですが、このような感じで場を体験できました。
といっても同行したみんながあとで「英語はわかるけど何を言ってるのかよくわからなかった」と言っていたので、仮に僕が英語が理解できたところで何もわからなかった可能性はあります。
理屈ではないものを言葉で伝えようとした時に詩みたいになることはままあるし、詩でなければ写真になることもあるはずなので、そういうことなのだろうと思います。

実はこの時の講演は録音してあって、帰ってからAIに文字起こしと翻訳をしてもらおうとしていたのですが、スペイン語訛り(おそらく)が上手く拾えないとか翻訳に無料のAIを使っているからとかで上手くできませんでした。
技術の進歩を待ってそのうち僕の理解と答え合わせをしてみたいと思っています。

1時間の講演でしたが、言葉が理解できないというのに感じれらるものが沢山ありました。あの写真たちを撮り、残した人が、目の前でどの様な人物なのかを見せてくれて、それを1mmでも吸収しようとしていたら、1時間なんてあっという間でした。

会場だった場所

ハービー山口さんは現在、日本写真芸術専門学校の校長をされているのですが、サルガド氏とは旧知らしく、講演後に「写真を学ぶ学生に何かアドバイスをして欲しい」という話をされていました。
日本写真芸術専門学校の学生さんはぜひハービー校長にその答えを聞いてみてください。あの写真を撮ったサルガド氏の言葉だからこそ腑に落ちる、しかもふんわりしていない、とても重要な言葉な言葉を伝えられていました。
(僕から勝手に開示してよいものではないと思うのでここには書きませんけれども)

旅を振り返って

色々な事を振り返ると、沢山の学びの機会を与えてもらっていたんだなあと思います。僕も写真表現を真剣に考えているつもりだとはいえ、アマチュアです。こんな機会をアマチュアに提供してくれるのはとんでもない贅沢な事だなと思います。もっとプロとして業界に還元できる人にこれがあったら、吸収できるものも大きいだろうし、アウトプットの精度も高くなるに違いありません。
ただでロンドンにいけてワーイのご褒美旅行で終わるか、表現や向き合い方に変化が生まれてより活きた写真ライフを送れる糧になるかは、完全にこれからの僕次第なので、これからも頑張っていきたいと思います。僕のことなのでとてもゆっくりになるとは思いますが。
こんな素晴らしい機会を与えてくださって本当に感謝しています。SWPA夢あるぞ。

撮った写真たち

で、そんな事を書いた直後に自分の写真を載せるのは少し気が引けるのですが、最後に、ロンドンで撮った写真たちをUPして終わりたいと思います。
「こんだけ沢山吸収したとか感じ入ったとか言っているくせにいつもと写真変わらないじゃないの」とか思わずに、どうか温かい目で見て流していただけたら嬉しいです。
嬉しい、です……

たまにコメントを挟みますが、基本的にここからは写真ばかりです。

旅先で、ハービーさんのやり方を真似る事は出来なかったものの、行ったお店の店員さんに「撮っても大丈夫?」と聞いて、撮らせてもらった写真があります。ちょっと勇気を出したやつ。

鞄屋さん。この鞄を買いました
ジンのテイスティングさせてもらったお店
ジェントルマンズコーヒーのバリスタさん

ほんと、声をかけて撮らせてもらうのは難しいものだなあと思いました。僕から提供出来るものなんて何もないのだから、気が引けてしまいます。
今回は難しいと分かったことに価値があるといったん思っておきます。
今後も僕は道ゆく人と撮ったりは別に無理にはやりません(向いていないので)。ただ、ポートレートを撮る時の人との向き合い方については考えてゆかないとなと思いました。
僕は普段からあまり人と目をみて話せないところがあるので、そういうのが写真に出てきていると思うので…

街の傍観者でいる方が自分的には心地よいのですが、パーティーには参加したい寂しがり屋でもあるので(例えですよ)、その丁度いい立ち位置をさぐってみる作業はした方がよいのかもしれません。
むしろパーティを主催するくらいであれば立ち位置的によいのかな、などと考えたり(例えです)。

人と関わるの好きな癖に苦手なので、木の幹や植物を撮っているととても落ち着く自分がいます。素直にそこに向かって全力を注げば良いじゃないかとも思うのですが、人とのかかわりを諦めるのも違うとも思っています。普段演劇の照明をやっているのは、照明が好きな以外に、人や人の作る文化や発想が好きだからなのです。
でもロンドンでも木を沢山撮りました。
一番萌える被写体が木だから仕方ありません。

サマセットハウスでは僕の写真をプリントしたものを飾ってくれていましたが、他にも各国のナショナルアワードの写真を1~3位まで全員のデジタル展示してくれていました。
日本賞の写真も展示してくれていました。

平野はじめさんの写真
hirata masayukiさんの写真
うちの写真

お客さんはちゃんと見てくれていました。
写真を観て貰えるのが一番嬉しいですね。

帰りの飛行機は中国上空を飛んでいました。

眼下にあるのはおそらく崑崙山脈、つまりシルクロード上空じゃんと思ってめちゃテンションが上がりました。
シルクロード、敦煌ってロマンあるよね。

以上です。
長々とありがとうございました。
2025年も写真頑張ります。

SWPAのサルガド氏の紹介VTR↓があったのでリンクしておきます。


その他の昔の記事↓

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