日本史上最も価値のある金メダル
東京オリンピックが終了してもう数ヶ月が経ち、タイムリーとは言えない話題ですが、今までに最も価値のある金メダルを獲得した日本人は誰かを、検討したいと思います。
金メダルに価値の違いなどない、どの種目の金メダルも等しい価値がある、という意見もあるだろう。しかしここでは、「競技人口の多寡」でメダルの価値を判断することにしたい。
ここで言う競技人口とは、「その競技で他人と競った経験のある、オリンピックに参加の門戸が開かれている人口」と定義する。
基本的に世界人口は増え続けており、オリンピックの参加国や参加選手数も増え続けてきた。ボイコット国が多数出たモントリオール、モスクワ、ロサンゼルス大会などの例外はあるが、最近の大会ほど競技人口は増える傾向にある。14カ国241人しか参加しなかった第1回大会より、205カ国11,092人が参加した2021年東京大会のほうが、金メダルの価値は高いと判断する。そして、世界人口に占めるスポーツに親しむ人の割合も、時代とともに増加傾向にあることも考慮されてよいだろう。
このように定義した競技人口が最も多いオリンピック種目は、陸上競技の走る種目ではないだろうか。世界の多くの人が、足の速さを他人と競った経験がある。
私を例に挙げると、私はそこそこ足の速い子どもだった。幼稚園程度まではお山の大将でいられたが、小学校に上がると、同学年に私より足の速い子がいた。私はその子に鼻をへし折られた。私の鼻を折った子は、複数の学校が参加する地区大会に参加し、そこで鼻をへし折られる。地区大会トップの子は大阪府の大会で、府大会トップの子は近畿大会で、近畿大会トップの子は全国大会で、全国大会トップの子は世界レベルの大会で、その時点で自分より優れたアスリートに敗れる。
足の速さを競う種目の金メダル1個の下には、鼻をへし折られた膨大な人口が存在する。裾野が広いほど、山の頂点は高くなる理屈である。
いやまて、走るよりも歩くこと、競歩のほうが競技人口が多いのではないかと思うかもしれない。しかしここで定義している競技人口は、「他人と競った経験のある」と条件付けられている。歩いた経験はほとんどの人があるだろうが、歩く速さを競った経験はほとんどの人がない。これは自転車競技にもあてはまる。
またはこういう意見もあるかもしれない。人口人口と言うけど、体操競技の金メダリストっすごくない?人間業とは思えない技を次々と決めるその難易度といったら、想像を絶する。体操競技の個人総合金メダルこそ、最も価値があるのでは?
わかる。言いたいことはよくわかる。体操のトップアスリートたちには私も心の底から感嘆するし、尊敬する。
でもこうとも言える。もし体操の競技人口が現在の100倍だとしたら、橋本大輝や内村航平に劣らない才能の選手があと100人出てきてもおかしくはないと。体操選手は本当にすごいと思うが、競技人口は少ない。体操で鼻をへし折られた経験のある人はあまり多くないのだ。これは他の多くの競技(冬期オリンピック含む)にも共通することだ。
「競技人口」と聞いてサッカーを思い浮かべた人もいるに違いない。確かにサッカーの競技人口は、二番手の位置を争う候補になり得る。しかしサッカーは団体競技であり、現行のオリンピックルールだと22人の選手登録が可能である。優勝すれば、登録メンバー全員が(試合に一度も出場しなかった選手であっても)、金メダルを授与される。これでは金メダル1個の価値は、薄まってしまうと言えるだろう。他の団体競技に関しても同様である。
迷うところではあるが、走る種目の次に位置するものとして、水泳を挙げたい。走ることと比べれば競技人口はぐっと減ってしまうが、泳ぎを競った経験のある人も多いためだ。
ただし種目は自由形に限りたいと思う。平泳ぎ・バタフライ・背泳ぎの競技者の多くは、自由形で鼻をへし折られて転向することが多いのではないだろうか。平泳ぎ・バタフライ・背泳ぎを極めることも価値のあることではあるが、本当に平泳ぎが得意なのであれば、自由形の種目を平泳ぎで泳げばよい。自由形はどのような泳法でもよく、ただ速ければよいのだから。
陸上競技に「後ろ走り」など走り方を制限した種目はない。走り方はどうでもいい、ただ速くあれ。それがあるべき姿ではないだろうか。
ぐだぐだと考察が長くなってしまった。というわけで、最も価値ある金メダルを獲得した日本人トップ3を独断で決めたい。
1位と2位の候補は、陸上の走る種目で金メダルを獲得した2人となる。2人ともマラソンで、シドニー大会の高橋尚子と、アテネ大会の野口みずきである。この2人以外に、走る速さを競った日本人金メダリストは存在していない。
シドニーとアテネとは4年しか隔たっていないため、競技人口はほぼ同じ条件と言えるだろう。そのため、この2人を同点1位とする。
3位は、アテネ大会の競泳800m自由形金メダリスト、柴田亜衣としたい。自由形の日本人金メダリストは柴田亜衣以外にも存在するが、いずれも1930年以前の大会である。2004年のアテネ大会と比べると、競技人口はアテネのほうが格段に多いと判断する。
金メダルの価値は競技人口で決まると仮定しての考察です。価値の基準を変えれば、結論も変わるでしょう。競技人口の少ない競技を貶める意図はありません。基準を任意に設定して、ランキングをあれやこれやと悩んでたのしむ、単なるお遊びと考えてください。