ガイア理論とデイジーワールド、そしてシムアース 【ラヴロック 『ガイアの時代』, ALife Book Club 番外編】

こんにちは!Alternative Machine Inc.の小島です。
前回紹介したラヴロックの『地球生命圏』に引き続き、今回もラヴロックの本である『ガイアの時代』を取り上げます。

ガイアのシンプルなモデルであるデイジーワールド、そしてガイア理論をベースとしているゲーム、シムアースについてもお話しようと思います。

前回はラヴロックのガイア仮説についてお話しました。
簡単におさらいすると、地球上の大気は生命にとってちょうどいい状態になっていて、しかも生物(生命圏)によって保たれている、ということです。
そして、この制御は地球規模なのになぜかうまくいっているということで、それを統べているなにかがあるのではとし、このなにかを「ガイア」と名付けたのがガイア仮説でした。

このなにかを科学で説明出来ないものに帰着させてしまうとオカルトになってしまいます。とはいえ、生物という地球にとってはちっぽけなものがどう結託して地球規模の制御をなしうるのか、ということも不思議な話です。ここの説明にギャップがあるので、ラヴロックの最初の本ではあくまでもガイア「仮説」となっていましたし、まわりから批判を受けやすいポイントでもあったようです。

ここで必要なのはこのギャップを埋める説明であり、そのためにそれぞれの生物は地球規模のことなんか考えておらず、自分の生存や繁殖しか問題にしていないのに、その結果として地球規模の制御が実現しうることを示さなければいけません。

今回はこれを受けて書かれた次の本である『ガイアの時代』から、特にデイジーワールドの部分をお話していきます。

デイジーワールド (Daisyworld)

ラヴロックはこれに答えるため、具体的なモデルを作りました。生物がそれぞれ生存競争をしているだけで、地球の環境が維持されるモデルです。

それが、デイジーだけが生えている架空の惑星、デイジーワールドです。

この星には白いデイジーと黒いデイジーの二種類のデイジーだけが生えています。そして、白は光を反射しやすく、黒は光を吸収しやすいため、それぞれこんな性質をもっています。

黒いデイジー:光を吸収するため、外からの光が少なくても育ちやすい。また光によって温まりやすい。
白いデイジー:光を反射するため、外からの光が多くても育ちやすい。また光によって温まりにくい。

二種類のデイジーは育ちやすい光の強さに違いがあり、さらに、「温まりやすさ」も違います。
この「温まりやすさ」はかなり大事で、というのも、この星はデイジーで覆われているため、デイジーが温まりやすいということはこの星も温まりやすいからです。(このように地表の色によって温まりやすさが変わることを一般にアルベドといいます。)

これをふまえて、デイジーワールドの振る舞いを見てみましょう
特に環境が維持されるかを見るため、外からの光の強さを変えたときを考えます

まずは、外からの光が強くなる場合です。
光が強くても育ちやすいのは白いデイジーなので、だんだんと白いデイジーが占める面積が増えていきます。そうなると、地表が白くなっていくので光の反射が強まり、地球はあたたまりにくくなっていきます。
その結果、太陽からの光が強くても、地表の温度はあまり上昇せずに維持されます。

では、逆に光が弱くなる場合を考えましょう。
この場合には光が弱いときに育ちやすい黒いデイジーが増殖します。
そうすると黒いデイジーに覆われた地球は光を吸収しやすくなり、少ない光でも温度が維持されることになります。

よって、この惑星では外からの光が変わっても温度が維持されることがわかりました。

この調節を担っているのはデイジーですが、各デイジーは地球全体の状態を把握して、制御しようとはしていません。二種類のデイジーが生存競争をおこなっているだけです。つまりこのデイジーワールドは各生物が生存競争をするだけで、惑星全体の環境が維持される例になっているといえます

すなわち、これで各生物が利己的に生存競争をするだけで地球環境が維持されることはありえない、という批判に対する反例をつくることができました。
(そしてこのあたりから、ガイア「仮説」ではなくガイア「理論」と名乗るようになっていったようです。)

シムアース

ただ、そんな単純で都合の良い設定でいいのか?という疑問は残ります
地球はもちろんデイジーで覆われてないですし、都合よく白と黒の二種類だけあったりもしません。

ラヴロックは、これにたいして、白と黒の二種類だけでなくたくさんの中間的な色のデイジーでシミュレーションしたり、デイジーを食べる草食動物とそれを食べる肉食動物といった生態系を導入したシミュレーションをするなどして、より複雑な設定のデイジーワールドでも同様に温度維持ができることを示してきました。

でも、やっぱり地球で起こっていることを議論するなら、地球と類似の条件でシミュレーションしたいところです。
そこで、地球っぽい条件をベースにした単純なシミュレーションも出てきました。

そしてこのシミュレーションそのものがゲームになった(!)のがシムアースです。

シムアースは、シムシティ シリーズのひとつで、ラヴロックが監修した地球シミュレーションゲームです。地球の歴史をたどり、プレイヤーが介入することで、いろんな生命(そして人類)が誕生して発展していくのを助けていきます。

そして重要なのは、地球の大気や温度のシミュレーションが中心にすえられていることです。生命活動によっておこる大気の変化、そしてその大気の変化で地球の温度がどう変わるか、というメカニズムが入っていて、一方で生物は生存競争によって増減するため、さきほどのデイジーワールドの拡張版になっているのです。
(ただ、ほっといてうまくいくならゲームにならないので、そんなに安定しない設定になっているのでは?と思いますが。)

ちなみに、シムアースにはデイジーワールド・モードもついていたようです。
ガイア理論知らない人には謎機能だと思いますが、当時このモードで遊んだ人はどのくらいたんでしょうか、、

人新世からノヴァセンへ

そんなわけで、ガイアのシミュレーションとしてデイジーワールド、そしてシムアースを見てきました。しかし、これで地球でおこったことを説明できたというには不十分でしょう。もっと複雑なモデルが必要です。

さらに、別の要素もあります。シムアースでは後半になってくると人類がメインで、その経済活動がどのように地球の環境に影響するかが重要になります。これについては、まさに環境問題、特に「地球温暖化」の話であるため、現在精力的に研究がなされています。

この人の活動が主に地球環境に影響している時代のことは人新世(アントロポセン)と呼ばれています。ラヴロックはさらに今後はこれがAIやロボットにとってかわられる新しい時代が訪れると考えました。この時代のことをノヴァセンと名付け、100歳にして書かれた最後の本のテーマとなりました。

この本で強調されていることの一つは、人類は初めて地球(ガイア)と宇宙(コスモス)を知る能力をもった存在だったということです。
この本では、この特権性も人工知能に置き換わっていくという話になっていくのですが、この「地球」というものの認識はガイア理論が広まる上でも重要なポイントで、特にこの時代に宇宙から青い地球の写真が撮られたことは大きく影響していたと思われます。

この視覚イメージによって、地球が一つのまとまりとして認知されるようになり、ここから「地球は一つの生命体」というガイア的な見方、さらには環境問題において守るべき対象としての捉え方に繋がっていきました。

地球の環境問題の背後には「地球は生命体である」という(ちょっと異端とも言える)ラヴロックの視点があったことに、たまには思いをはせてみるのもいいかもしれません。

次回予告

二週にわたって番外編としてラヴロック特集をお送りしました。いかがだったでしょうか?

次回からは、トマス・ネーゲル『どこでもないところからの眺め』を取り上げる予定です。
(この本についてはYouTubeも撮影予定です。はやめに撮れるようにがんばります。)

ぜひ、また来週もご覧ください!今回もお読みいただきありがとうございました。


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