正しい女たち
今まで読んだ事の無い作者の本が読みたい、と思って初めて触れてみた千早茜さん。予想以上に肌に合っていた。面白い本は勿論沢山あるけれど、自分好みの文体に出会えると更に嬉しい。
「正しさ」を笠に着て無意識に自分を縛っていた母と同化してしまった者、「正しい」関係から目を背けていた者、「正しい」関係の終わりを決めてからその幸福を噛み締める者、各々が自分や他者の持つ正しさに翻弄される短編の数々。絶妙に登場人物がそれぞれの話で絡み合っているのも面白い。
特に好きだったのは『幸福な離婚』。関係が冷めていた夫婦が離婚する日を決めてから、相手との生活に愛しさや哀しさを見出しなだらも着々とその日へ向かっていく話。上澄みを見たら幸せな夫婦の底にも各々抱えている暗い想いがある。2人は果たしてこのまま離婚したのか、結末は描かれないのだけれど私は終わりを向かえたのだと思う。終わりを知っているからこそ穏やかにいられるのはとてもリアルだった。
『描かれた若さ』もとても良かった。女性を値踏みする男性は自分が値踏みをされるとは夢にも思っていない、男が女を選ぶのだと信じ切っている。最終話でともすれば復讐のように男性を叩き潰すのは、ここまで女性の持つ「正しさ」から生まれる哀愁を描いてきた回収なのか。
今年は千早さんの他の作品も是非読んでみよう。