寺崎珠真 個展「Heliotropic Landscape」【後編】
この記事は寺崎珠真 個展「Heliotropic Landscape」のために事前に行われた、寺崎珠真 と篠田優によるインタビュー記事【後編】です。
【前編】はこちら→◎
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【作家】寺崎珠真
【聞き手】篠田優(写真家・Alt_Medium)
〔作家プロフィール〕
寺崎 珠真 / TERASAKI Tamami
1991年神奈川県生まれ、神奈川県在住
2013年武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業
〔個展〕
2019 「Heliotropic Landscape」(Kiyoyuki Kuwabara AG / 東京)
2015 「LANDSCAPE PROBE」 (コニカミノルタプラザ / 東京 )
2014 「Rheological Landscapes」 (大阪ニコンサロン / 大阪)
2013 「Rheological Landscapes」 (新宿ニコンサロン / 東京)
〔グループ展〕
2016 「リフレクション写真展2016」 (表参道画廊+MUSEE F / 東京)
〔受賞歴〕
2013 第8回「1_WALL」審査員奨励賞(増田玲選)
〔出版歴〕
2017 『LANDSCAPE PROBE』(蒼穹舎)
〔website〕
http://ttrsk.org
展覧会の詳細は下記でご覧いただけます。
https://altmedium.jp/post/659483282975653888/
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S:新作も撮影時の光線状況など、いままでの作品から条件を引き継いでいる点が多くある気がします。カメラや、撮影地も前作と同様なのでしょうか?
T:新作ではカメラを変えてPENTAX 645Zで三脚も使って撮っています。身軽さがかなり変わったので撮るのに少し時間を要するようになりましたが、さっと撮ったらさっと立ち去る基本的なことは変わっていません。これは前作『LANDSCAPE PROBE』が一区切りついて見方が固定されてしまっているきらいがあり、飽和状態だった自分に変化をつけたかったからです。ですが前作も完結したというわけではないので、できれば再開させていきたいとは思っています。
撮影地に関しては、前作は主に自分の住んでいる神奈川を中心とした近隣都県で特定の場所ではなく、出かけた際に撮影した岩手や熊本の写真も混ざっています。今作も同様に神奈川と近隣都県の不特定の場所ではありますが、住宅地域から低山エリアへ移りました。歩いているところはハイキングコースや登山道なので、もしかしたら、ハイカーにとっては見慣れた風景なのかもしれません。ですが、こうした写真を撮る前から少し趣味で山歩きはしていたのですが、まだその頃はカメラを持ってなくて、そのときのことを思い出すと登頂するという一応の目的があってそれに向かっていて「歩いている時って何も見ていないな」と思いました。なので、改めてカメラを持ってそうした場所の風景を見てみたくなったんです。自分にとっては作品となるかどうかよりも先に、晴れた日に(無心で)カメラを持って歩くということ自体がおもしろさとしてありますし、自分を表現したくて写真を撮っているわけでもないので、こうして展覧会を開催したり話すようになると、あらためて自分のやっていることをある程度客観的に見たり話さないといけなくなるので、少し悩んでしまいます。
S:確かに寺崎さんの写真は言葉を排しているというか、安易に言葉で語れてしまうものを撮っていませんね。つまり写真を提示して自らの心の内や、ある出来事を話したりすることでその写真が説明できてしまうようなタイプのものではないですね。それは撮り方からもわかりますが、画面内の全体にピントが合い、しっかり光が当たっている状況を選んで撮影しているので、画面内の一部分ではなくその全てがメインの被写体であるように見え、特定の「なにか」ではなく、撮りたかったのはまさに「この写真」というようにも感じます。
寺崎さんは初期の作品から、得たいイメージを明確に捉えて着実にキャリアを重ねてきているように思えますが、いつから写真家を志していたのでしょうか?
T:最初から写真をやりたいと思っていたわけではなく、もともとはアニメーションや映画が好きで武蔵野美術大学映像学科に入学したのですが、1年生で最初にモノクロ写真~デジタル写真と立て続けに授業を受ける機会があり、そこで写真に興味を持ちました。3年生になる時に映像表現コースと写真表現コースでより専門的な分野に分かれることになるのですが、それまでは写真を撮りながらこれからどうしようかなと考えていたんです。もともとは動画のほうに興味があって入学したものの、デッサンはあまり上手くなく、絵を自由に描けるほどの画力もないし、実写やアニメーションは基本的にグループワークで作業をすることも自分にはあまり合わなくて。そうなった時に、写真は自分の中にあるものではなく常に外に向かっていてシャッターを切れば何かが写りますし、一人でできることが自分に合っているなと思いました。
S:一人でできるから写真というメディアを選ぶというのは、ある意味では正統派の理由かもしれませんね。僕も多くの例に漏れずそういう部分がありました。大学時代の話が出ましたが今回はインタビューに際して卒業制作の時に制作した本を持ってきていただきましたので、そちらについてお聞きしたいと思います。
T:この作品『Rheological Landscapes』は神奈川県の3市町村にまたがる宮ヶ瀬湖の周辺を撮影地としました。本格的に写真を撮り始めたころで、当時は行きたいところにいってみてとにかく撮ることをしていたのですが、その途中でたまたま湖を通りかかったことがきっかけです。
幼少期に遊びに来たりしており知っている場所ではありましたがあらためてカメラを持って歩いてみたらおもしろくて、卒業制作に向けて被写体を探していた時期でもありここで集中して撮影をしてみようと思いました。宮ヶ瀬湖はダム建設によってできた人造湖で、都心に近いので観光地のイメージが強いと思いますが、そういったイメージの外側、周縁のあまりフォーカスされない細部に眼を向けようと思いました。現在は湖周辺の警備が厳しくなっていて以前のように撮影できる感じではなくなっていたので、当時撮影ができたのは運が良かったです。自分で見返してみると、まだこの頃は風景というよりは、モノに興味があったというか個々の事物に向かっているかんじがします。
S:確かに、それ以降の作品に比べると被写体と距離が近いように感じます。その分、画面の中で注目している場所がわりとわかりやすいというか。しかしこの頃から寺崎さんの写真はプリンティングがうつくしいですね。ハイライトからシャドウまでのトーンが綺麗に保たれている気がします。今までの寺崎さんが行ってきた展覧会の様子を写真で見るといつも大型のプリントを作っているようですが、これもはじめから一貫しているのでしょうか?
T:そうですね、最初からです。プリントを大きくすることでより細部も見えてきますし、大きくてパネル張りのほうが見たときに写真がダイレクトに入ってくる気がします。
プリントの基本的なことは大学の授業で教わりましたが、たしか3年で写真表現コースに決めてすぐにプリンターを買ってとにかくたくさん撮ってたくさんプリントしていろいろ試していたように思います。『Rheological Landscapes』は初めて作品としてまとまったものなので、自分で見返してもストレートというか真っ直ぐに撮れていてとてもいいなと思います。それを考えると、最近のはちょっといやらしく見えないかなと思ってしまうこともあります。
S:良い意味でのエゴのなさというか、素直にカメラを使っている気がします。こうしたスタイルで写真をとっても、わざとらしさを感じさせる人もいるんですが、僕は寺崎さんの作品からはあまりそのように感じませんでしたよ。
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〔インタビュー後記〕
今回のインタビューに際してこれまで寺崎さんが撮影してきた作品を通覧する機会を得ましたが、光線状態の均一化や丁寧なプリンティングによって、そのどれもが一貫した意思のもとに撮影されていることが感じられました。自らを宮沢賢治の詩の題名に由来する「風景観察官」として任ずる寺崎さんですが、お話を伺ってみると、自然と人の営み単純に二分化するのではなく、人をも自然の一部として見るような大きなパースペクティブのもとに「風景」というものを捉えていることがわかります。
そのことを念頭に置いて新作「Heliotropic Landscape」を見てみればそれが、人工物を画面から排除することでより「純粋」な自然の景観へと近づけようとしたわけではないことに気づかされました。むしろそこでは、撮影者もその内に包み込みながら光に向かって(Heliotropic)生成する「風景」が、光に向かう(受ける)ことで像を成す媒体を用いて留められているようです。
聞き手:篠田優(写真家・Alt_Medium )
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