オリンピック後の不動産どうなるの?(導入)

1「オリンピック後の不動産ってどうなるんかね?」

 5年ほど不動産業に従事していることもあって、そんなことを知人に聞かれることがたまにある。それっぽい空気感を話すことも可能だが、正確にその質問に答えるに当たっては、質問を質問で返さなくてはならない。

「それは①どの市場の、②どのエリアの、③どのアセットタイプの、④どの指標の将来見通しが知りたいという意味ですか?」と。

 流石に投資家でもない一般の人が「圏央道周辺のマルチテナント型の物流施設の賃料相場」みたいな情報は必要ないだろう。
 かといって「世界の不動産投資額推移」や「日本の不動産取引件数」といったマクロすぎる情報では、「どうなるか」の疑問に対しあまり役に立たないのではないかと思われる。(例:東京新築マンションの動向と不動産投資市場の動向は比例関係にはそこまでない)。

そこでまずは以下の4つの観点に沿って、どんな情報を参照すればいいのかについて、導入として分類していこうというのが本NOTEの趣旨である。

2-1.対象市場
2-2.対象エリア
2-3.アセットタイプ
2-4.対象指標

2-1.対象市場

 マーケット動向を把握するに当たりまずは市場区分を決めないとならない。

①売買市場(居住用)

 流通経路の最後、すなわち最終需要者(エンドユーザー)が購入する市場における売買市場。

 たとえば個人が戸建住宅や分譲マンションを買う場合、SUUMOやHOME’Sで掲載している物件を買ったり、三井不動産レジデンシャルや三菱地所レジデンスで買ったりするわけだが、それに該当する。

②売買市場(投資用)

 ①が個人が住むために買うのに対し、投資家が賃料収入を得るための投資物件を購入する市場である。

 例えば実際の例で行くと、ヒューリック(※1)が駅近のオフィスを購入し、建て替えやリテナントして物件価値を高めてからマーケットの状況を見て売ったり、東急電鉄や東急不動産(※2)が、渋谷近くの古い事務所を購入して建て替え、新たにテナントを呼び込んで収益不動産に仕立て上げから傘下のリートに売却(※3)したりするようなシチュエーションが該当する。なお個人投資家だったら「楽待」等のサイトで投資用物件を探したりする。

 要は住んだり自用のためではなく、賃料収入を得るための投資用不動産を売買するための市場を指す。

③賃貸市場

 ②売買市場で取引される投資用不動産だが、ここに入居しようとしている個人/法人と、不動産オーナーとの間で作られる賃貸市場である。

 例えば日本だと三鬼商事、三幸エステート、CBRE等がオフィスの賃貸仲介を行っている。
 住宅だと、ホームズやSUUMOといったポータルサイトを見ると、いわゆる「街の不動産屋」がマンションの賃貸情報を掲載しているが、それが該当する。

2-2.対象エリア

 対象不動産の存在するエリアによって、マーケットの状況は異なっている。

 日本の不動産マーケットは主に東京、大阪、名古屋、福岡等のエリアに分けられる。そしてさらに大手町、新宿、渋谷、品川等のサブマーケットに分けられる。
 
 たとえば渋谷ではGoogleをはじめとするIT企業によるオフィスニーズが強く空室率が絶賛低下中である。また住宅については最近は「西低東高」という状況であり、交通利便性の高い江東区のほうが、山手線の西側よりもマンション人気が高かったりと、地域により違いがあるわけである。

 エリアについて滅茶苦茶ざっくり現状を言えば「二極化」、すなわち「いいところはいいが、悪いところは悪い」といったような状況といえる。例えば駅から歩いて20分の郊外エリアは、オリンピックに関係なくずっと厳しい。

 誰かに「今後の不動産市場どうなるのかね~?」と聞かれたら「まぁ二極化やで」と言えばなんとなく通ぶれるこのライフハック、是非試していただきたい。

2-3.アセットタイプ

 アセットタイプごとにマーケットの状況は異なる。主として住宅、オフィス、商業、物流、ホテル、その他ヘルスケア、インフラ、ゴルフ場等があるが、住宅・オフィスのような、存する場所への収益依存性が高いアセットを「ノンオペレーショナルアセット」、例えば星野リゾートのホテルのように、駅から遠くても経営手腕で高い収益を誇るような、経営に収益依存度が高いアセットを「オペレーショナルアセット」という。
 住宅アセットは比較的安定なノンオペレーショナルアセットであり、よく「麻布・赤坂・青山」を指して3Aといい、3Aエリアの住宅は利回りが最も低いとされている(つまりリスクプレミアムが低い安定であるということ)。
 一方ホテルのような事業性の強いアセットは、例えば今回のコロナウイルスのような事象が生じると一時的とはいえ稼働率が下がるリスクがあるため、投資家が求めるリスクプレミアムは一般に高めとなる…はずなのだが、昨今の低金利下においてはホテルのリスクプレミアムが過小評価されているのでは…?といった点が指摘されている。いずれにせよ高リスクなアセットである。

2-4.対象指標

 以上のことについて、「上がっている/下がっている」よりも解像度高めで分析するためには定量的に観察する必要があるが、そのためには何かしらの見る指標が必要である。
 以下のような指標について、①対象マーケットの全般的な動向はどうか?②あなたが買いたい/借りたいと思っている不動産(以下対象不動産)が、マーケットに比して高いか安いか?の2つを見ることが重要である。

○売買市場
・売買単価(土地単価、専有面積単価):要は成約価格。たとえば戸建住宅を建てる際分譲宅地を買うならば、その土地の募集単価と近くの地価公示価格やHOME’sの似たような物件の募集価格を単価ベースで比べるのが重要。日本だと歴史的経緯から坪単価がよく使われる。

・利回り(NOI(Net Operating Income)÷成約価格):ある不動産に対してどれだけの収益が期待できるかの指標。投資家による選好を反映しているので、いい立地でノンオペレーショナルアセットだと低く(リスクプレミアムが低い)、渋い立地でオペレーショナルアセットだと高くなる(リスクプレミアムが高い)。

・売買件数(流動性を測るための指標):どれだけ売買が活発に行われているか、すなわち流動性が市場にどれだけあるのかという指標。リーマンショックしばらく後は基本的にどの業者もアクイジション(購入)を停止し、売る方も「今売って損失出すなら持ってた方がましだな」となり、流動性は低かった。

○賃貸市場
・賃料単価(月ベースの専有面積単価):日本では月坪当たりの単価であらわされる。日本で一番いいオフィス立地である大手町のいいオフィスだと4万円/月坪くらい、日本で一番賃料の高い銀座の1階路面店は30万円/月坪なんてのも…。

・稼働率(空室率):床面積の需給の状況を知るための指数。今東京のオフィスは2018年の大量供給問題など何のその、供給を上回る需要があるため東京Aクラスオフィスの空室率はいよいよ1%を割っており、借りたくても借りれない状況が続いている。

3.まとめ

 以上様々な観点から、まずは「不動産」という概念を、「マンションの東京の売買市場の動向」といったレベルまで分解して見ることが重要である。 

 おそらく多くの人の興味の対象は①分譲マンション/戸建住宅の売買市場、②賃貸マンションの賃貸市場、投資をする人なら③オフィス賃貸市場や④各アセットごとの売買市場と言った話になるだろう。

 今後はそれぞれの区分ごとに、どんな公開情報があり、何を参照すればいいのかを説明していく予定。


<注釈>
※1:主に駅近のオフィスや商業を扱う不動産会社。強い買手として業界で認知されており、いい立地なら果敢に高い札を入れてくる。株価も絶好調。
※2:言わずと知れた渋谷帝国の王。ちなみに東急電鉄も東急不動産もどちらも不動産やっているので完全にカニバっている。将来的に統合するなんて話を聞いたことがあるがどうなんでしょうか。
※3ヒューリックはヒューリックリート、東急は東急リートと、大きい不動産会社はたいていリートを持っている。つまり素材となるビルや土地を購入する→ビルを建ててテナントをいれて収益物件にする→傘下のリートを出口として売却、という流れ。リートへの物件売却情報はプレスリリースされるので、業界紙「日経不動産マーケット」で確認可能。ただし通常よりも安めに売却されている(一種のグループ間売買)ので、その値段をマーケットの値段と思ってはいけない。

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