不動産クラウドファンディング投資をやってみた
1.不動産クラウドファンディング
ここで不動産クラウドファンディングそのものについて説明せずとも、ググればたくさんサイトが出てくるので割愛するが、要するに不特定多数の人でお金を出し合って不動産に投資して、得られた果実をみんなで配分してハッピー、というシステムである。
色々あるがCREALやOwnersbookなどが有名どころだろうか。
今回はCREALで運用している"ココフラット阿佐ヶ谷"を題材に投資適格性を判断してみる。
2.リスクとリターン
株や債券のみならずあらゆる投資商品は理論上はリスクとリターンの2軸で把握することが可能で、それを体系化したのが「現代ポートフォリオ理論」である。
運用関係の方は親の顔より脳に浮かぶであろう「効率的フロンティア」は、リスク・リターン平面で把握した複数のアセットを組み合わせ、最適なリスクとリターンの組み合わせを実現する集合である。
すなわち投資対象のリスク・リターンプロファイルを確認するのが投資の第一歩目ということてある。無論株式のような流動性の高い資産と異なり、不動産はリスクを定量的に算出することが困難なので、定性的に複数の視点からリスクを判断していく必要がある。
リターン概要
リターンは想定利回りで4.5%とのこと。18ヶ月の運用期間で得られた利益を年換算すると4.5%とのことだが、"想定"というのが注意点であり、以下説明するが、必ずしも「100万円投資したら1年間で4.5万円もらえる」を意味しない点に注意である。
インカムゲインとキャピタルゲイン
4.5%の内訳としてインカムゲイン2.3%、キャピタルゲイン2.2%とある。
インカムゲインとは株式で例えれば配当金であり、不動産の場合は賃料収入を原資とする、定期的に得られるリターンのことである。
キャピタルゲインとは株式で例えれば売却益であり、例えば1株100万円で買った株が1年後に200万円で売却したら100万円の利益になる。不動産で例えると、例えばリーマンショック後にマンションを買った人は、その後のアベノミクス相場により値上がりしたため、今売却した場合はそれなりの利益、すなわちキャピタルゲインが出るだろう。
このようにリターンはインカム部分とキャピタル部分に分けて考えるのが投資の第一歩である。なお株式はキャピタルゲインをメインで狙うためのアセットで、インカムゲインはキャピタルゲインに比べ微々たるもので、グーグルの会社Alphabetなどは無配当会社である。債券は元本が保証されているが、逆に言えばキャピタルゲインが得られないということであり、インカムゲインを取るための安定なアセットである。
その点、不動産はインカムを取りつつキャピタルゲインも狙うということで株式と債券の中間的な性質をもつといえるだろう。
ココフラット阿佐ヶ谷のインカムゲイン
さて、インカムゲインの原資である賃料収入の詳細を見ていくと、この物件はマスターリース物件である。
マスターリースとは、賃貸人(マスターレッサー)が賃借人(マスターレッシー=サブリース業者)にまとめて一括で貸して、賃借人(サブリース業者)が転借人(部屋を借りる一般人)に賃借するスキームである。かぼちゃの馬車やレオパレス問題で聞いたことがある方も多いかもしれない。ググれば問題点がいくらか出てくると思うが、要はいくら家賃保証がついていようとも、サブリース業者である賃借人が賃貸人にマスターリース賃料を支払えなくなったら破綻するスキームであるため、結局対象不動産が賃料収入が安定的に得られるようないい立地にあり、高稼働率かつ適正な家賃を得られているかを判断することが重要である。
今回の場合、オーナーがクリアルで、サブリース会社がクリアルパートナーズというクリアルの100%小会社なので、ほぼオーナー=サブリース業者なので、オーナーが直接住人に貸しているようなものと考えていいだろう。ここでクリアルはクラウドファンディング業者のみならずサブリース業者として儲けていることがここで分かる。
数値を見ていくと、満室想定の家賃が月約200万円、そのうちマスターリース賃料が月約160万円となり、そこから諸費用を引かれ、CREAL投資家持分の配当が月約100万円となる。
出資額4.9億円に対して、年間インカムが約100万×12≒1,200万円なので、
1200万円÷4.9億円≒2.4%と、上記の「インカムゲイン相当」と大体同じ値になる。
さて、たしかにマスターリース賃料が確実に得られるのであればいいが、100%確実な保証があるわけではなく、もし賃料想定が杜撰で誰も部屋を借りないと言った状況であれば、インカムリターンは得られないだろう。
そういったリスクを勘案する場合に見るべき指標として、過去の案件の投資実績(トラックレコード)や、投資している物件の稼働率・賃料単価のマーケットとの比較が参考になる。
前者はCREALのサイトによると"全て元本割れすることなく出資金の償還がなされ、想定利回り通りの配当が行われております。"とのこと。流石にマスターリース契約が破綻するような案件であれば元本割れするだろうのでその点は問題ないと言えるだろう。
後者については実際の稼働率・賃料単価とマーケットの標準的な稼働率とを比較するのが有効で、HOME'Sのサイト等が参考になる。杉並区の平均的な賃料・稼働率や近隣物件と比べると、対象物件の稼働率はマーケットと同程度、また想定賃料はやや高い程度である。ちなみにHOME'Sで普通に賃貸募集しているのでコレで部屋の面積や募集賃料が把握できる。
HOME's賃貸経営:https://toushi.homes.co.jp/owner/tokyo/city130115/
HOME's検索:
https://www.homes.co.jp/map/
阿佐ヶ谷駅徒歩6分の築浅ワンルームと、まぁ東京の大正義路線のひとつJR中央線・総武線の駅近マンションだけにニーズは堅調だろう。募集賃料はホームズによるとワンルーム約18㎡で8.9万円と個人的には高い、、、というか私が学生だったとしても多分もうちょっと古くてでも20㎡以上で安いのを借りると思うが、まぁ人のニーズは千差万別、資料によると目下の稼働率はマーケット相応と思われるので、ひとまずは問題ないのだろう(ここらへんの判断は実際に投資や仲介をやった肌感覚がないと厳しいかもしれない)。
懸念があるとすれば、コロナ禍による都内の狭小ワンルームマンションの稼働率の低下トレンドだろうか。テレワーク等の進展により20㎡以下の狭小マンションの人気が低下している。さすがに中央線駅チカであればニーズは堅調だとは思うが、今後コロナの継続的なトレンドについては監視していく必要があるだろう。
ココフラット阿佐ヶ谷のキャピタルゲイン
キャピタルゲインは要するに"安く買って高く売れるかどうか"という話である。例えばJ-REITのようなゴーイングコンサーン(永遠に継続)のビークルであれば出口を考える必要性はそこまでないが、そうでなければ「どうやって出口を迎えるか(売るか)」という出口戦略を考えることがマストである。
クリアルによると以下の想定らしい。
表面利回り4.5%で売れれば、表記の通り約2.2%のキャピタルゲインが得られる
表面利回り4.8%で優先出資者の元本が確保される(キャピタルゲインはゼロ)
表面利回り4.9%でインカムゲインが帳消しになる(トータル利回りゼロ)
表面利回り(グロス利回り)の詳細は不明だが、マスターリースではない居住者から直接得られる満室想定賃料×稼働率9割÷参考物件価格がだいたい4.5%であるので、直接の賃料から費用を控除したネットの利回りに換算すると、だいたい3%前半〜半ばあたりだろうか。添付のJLL森井鑑定の、マスターリースがない前提で査定された調査書の直接還元法の還元利回りが3.3%なのでだいたいそんなもんだろう。
では「表面利回り4.5%(ネット利回りで3%前半〜半ばくらい)」で売却できるかどうか?だが、これについてもインカムゲイン同様、今までのファンドのトラックレコードと、マーケットのワンルームレジのキャップレートとの比較が有効だ。
まずトラックレコードだが、クリアルによると「CREALでは以下の通り売却を実行しています。優先出資額および劣後出資額のいずれも損失はありません」とのこと。
逆に言えば「必ずしもキャピタルゲインが出るとは限らない」という意味だ。
したがってトータルリターンの4.5%のうち、たしかにインカム分2.3%は得られるかもしれないが、キャピタル分2.2%は得られるかどうかはよくわからない。
次にマーケットとの比較だが、これは日本不動産研究所の投資家調査や、リートの類似物件(caprate map)などが有効だ。
不動研の投資家調査によると、城南地区のNCF取引利回りは3.8%である。
また近隣の類似のREIT物件の最新のキャップレートは以下の通り。
・KDXレジデンス阿佐ヶ谷:3.5%
・KDX阿佐ヶ谷Ⅱ:3.8%
このあたりを踏まえると、本物件の表面4.5%(ネットの利回り3%前半〜半ば)は、市況が良ければ行けるかもしれないが若干アグレッシブと言えるだろう(やはり現場の肌感覚がないと断言できないが)。
また昨今は金利上昇の懸念があり、日本不動産研究所の調査によると、今後の不動産投資のリスクとしては、金利上昇が賃料の伸び悩みに次いで2番目となっている。
日銀はアベノミクス開始時から常に金融政策の蛇口をフルにし、今や金利を上げることが困難な金融政策ジャンキーと化しているので、直ちに金利は上げない(上げられない)と思うが、米国金利、円安、物価などの値が限界になったら政策転換をしないとも限らない。
まだマーケットで金利上昇が顕在化しているとは言えないものの、金利の基本となる10年国債利回りは常にウォッチしておく必要があるだろう。
加えて、不動産投資家調査によると現在の不動産市況はピークであると認識している回答が最多であり、「まだ大丈夫か…これから調整になるのか…」などと気をもみながらおっかなびっくり歩いていくわけである。
まとめ
以上勘案すると、想定トータルリターン4.5%のうち、インカム分2.3%はおそらく得られると思われるが、キャピタル分2.2%は満額行くかどうかは若干不明瞭であると言える。
3.スキーム(補足)
スキームとしては不動産特定共同事業法(よく不特法とか言われている)に基づくものである。即ち不動産特定共同事業者(運用者)であるクリアルと、我々個人投資家が匿名組合契約を締結した上で、投資家が拠出した資金を使って事業者が不動産を購入するわけである。
今回の不動産特定共同事業法以外にも、合同会社と匿名組合のスキーム(GK-TK)等があるが、ざっくり言えばGK-TKスキームが投資対象ありきのプロ向けの極めてシンプルなビークルだとすれば、不動産特定共同事業法によるスキームは個人投資家から資金を調達するクラウドファンディングに適したスキームだと言えるだろう。
以下のサイトにスキーム別のメリット・デメリットがわかりやすくまとめられている。
4.まとめ
今回はじめて不動産クラウドファンディングをやってみたわけだが、仕組みとしてはプライベートエクイティのジェネラル・パートナーが運用、リミテッド・パートナーが投資するのと同じである。
ただ不動産クラウドファンディングは1ビークル1物件なので物件について精緻に見れば基本いいわけだが、仮に投資ポートフォリオが複数のファンド・オブ・ファンズからなり、複数のファンドの中の不動産が数十と言った場合、時間とコストの制約を勘案しつぶつぶの不動産をすべて精緻に見るべきか?という問題がある。
ともあれまずは一番シンプルな1ファンド1物件のファンド投資をはじめて行ってみたということで、このアナロジーを仕事に活かしていこうと思う。
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