Investor①:CalSTRS(カリフォルニア州教職員退職年金基金)の不動産ポートフォリオ概要
1.CalSTRSとは
CalSTRSとはCalifornia State Teachers' Retirement System、即ち米国カリフォルニア州の教職員退職年金基金のことである。同じカリフォルニア州の年金基金であるCalPERS(The California Public Employees' Retirement System, カリフォルニア州職員退職年金基金)に次いで全米二位の運用高を誇る。
アメリカは日本のGPIFのようなSWF(ソブリン・ウエルス・ファンド)はないものの、州ごとに年金基金を有しており、特にCalPERSやCalSTRSは一国のSWFに匹敵するほどの規模を有し、かつ国内外のオルタナティブ資産への投資を活発に行っていることで有名である。
2.CalSTRSのポートフォリオ
以下が2022.4.30時点の最新のCalSTRSのポートフォリオ(M$)である。
Public Equityが126B$(41%)と最大の内訳となっているが、特筆すべきは不動産が48B$(15%)と、株式に次いで大きな割合を占めている点だ。オルタナティブ投資の代表格といえばプライベートエクイティ、ヘッジファンドであるが、不動産の割合が大きいのは特徴的である。
時系列でみると、コロナショック時に一時的にCash割合が増えたものの最近は概ねアロケーションは安定している。直近はプライベートエクイティがやや増加傾向にあるようだ。
3.不動産パフォーマンス
Investment Committee Semi-Annual Activity Reportによると、2021/9/30時点の不動産ポートフォリオのパフォーマンスは以下の通りである。
2021年度の米国の不動産投資パフォーマンスは、コロナ金融緩和マネーが流入し、異常にキャピタルリターンが高まった。CalSTRSの年間のネットトータルリターンも16.9%と極めて高いものとなった。
米国の不動産投資のパフォーマンスはODCE(Open-End Diversified Core Equity)インデックスという、オープンエンドのコア不動産投資インデックスをベンチマークとして測るのが一般的であるが、そのベンチマークを3%強オーバーパフォームしており、高いパフォーマンスを発揮できているようだ。コア投資のみならずオポ・バリューアッド投資など行うことでODCEインデックスをオーバーパフォームしていることがうかがえる。
4.不動産ポートフォリオ深掘り
以下が不動産投資の7月から12月の半年間における具体的な取得/売却ファンドである。CalSTRSは公的基金であるため透明性が高いためこうして個々の銘柄すら開示されている。こういった銘柄を抑えておくことは年金基金や保険会社のオルタナティブ投資を担当する方にとって有用と思われる。例えるなら米国投資をするにあたってバークシャー・ハサウェイのポートフォリオを参考にするようなものだろうか。
投資先を見ると、CBRE IMやBlackstoneなどは日本でも有名だが、なかなか聞いたことのない銘柄も多く含まれている。また公的年金であるにも関わらずオポ戦略に多く投資していることが見て取れる。あと思った以上にAPACへの投資をしている事に驚いた。
例えば"CBRE Asia Value Ptrs VI"はCBRE IMがAPACエリアの不動産に投資するファンドであるが、以下記事にあるとおり本ファンドは、中国、シンガポール、豪州に加え日本も投資対象であり、神戸のロジスティクス物件も含まれているとのこと。
つまり以下のようにグローバルマネーが日本の不動産に流れ込んでいるという具合である。
CalSTRS(投資家)→CBRE IM(運用者)→CBRE IM 日本→日本の仲介会社→日本の不動産
日経不動産マーケットでもよくBlackstoneはじめ外資系が日本の不動産を取得するといったニュースがあるが、こういったルートでグローバルマネーが日本の不動産に流れこんでくるわけである。
5.まとめ
以上CalSTRSのポートフォリオのうち主に不動産部分についてざっと見てみた。
筆者は少子高齢国家ニッポンが今後の老後資金を稼ぎ、豊かな生活を享受するためには観光と投資が極めて重要であると考えており、とりわけ投資については高いリターンを得られるオルタナティブ投資を増やしていくべきであると考えている。
そこで従前のブログで紹介したハーバード大やエール大、そして今回紹介したCalSTRSのように、まずはオルタナティブ投資に一日の長のあるアメリカの機関投資家の状況を参考に、日本もオルタナティブ投資のノウハウを確立してその内訳を増やしていくことで、国富の増進を図るべきであると考える次第である。