米国投資用不動産市況についての記事ザッピング②
2023.5.17 IPE real assets Global real estate AUM reaches €3.8trn - second highest on record
まとめ
2022年の世界の不動産AUMは3.8兆ユーロに達し、2021年末の過去最高額4.1兆ユーロに次ぐものとなった
トップファンドマネジャーへの集中度が高い。年間AUM(3.1兆ユーロ)の81%が、top quartileのファンドマネジャーに集中している
世界のファンドマネージャー上位3社は2021年と変わらず、ブラックストーン(475Bilユーロ)、ブルックフィールド(246Bilユーロ)、プロロジス(183Bilユーロ)がTop3、ついでNuveen, Metlifeとなった。
APACの投資家が重要性を増していると同時にAPACエリア不動産もグローバルな投資家の注目を高めている。APACに投資する欧米投資家の割合は、2022年末時点で40.9%に達し、2021年に報告された25.6%から大幅に増加。香港系のESRがAUM top10に入ったのもそれを象徴している。
Globalでは年金基金がプライベート不動産への最大の資金の出し手であり(40.9%)。ついで保険会社が17.3%だが去年からやや減少。SWFは9.4%で、去年の6.7%から上昇。SWFはAPACのプライベート不動産への資金供給量が大きい。
2022年は2021年に比べAUMは緩やかに減少した。資産価値の下落がキャピタルレイジングを阻害したためである。
感想
世界の不動産AUMが3.8兆ユーロ≒4兆ドルと、アップルとアマゾンの時価総額を足したくらいと考えるとなかなかのボリュームである。
トップのファンドマネジャーに資本が集中するのは不動産に限った話ではなく、プライベート・エクイティでもよくパフォーマンスを同一ビンテージ・イヤーのファンドをユニバースとし、4分位で区切ったうちtop quartileの運用会社に人気が集中する。
トップのファンドマネジャーはファンドシリーズが10以上も出ていたり、ファンドレイズ時にはあっという間にコミットメントが100%充足するのに対し、シリーズ1で終わってしまうファンドマネジャーも数多存在する過酷な弱肉強食の世界であり、「カネはカネがあるところに集まる」を地で行くザ・資本主義ワールドである。
ファンドマネジャーはブラックストーンが依然絶対王者として君臨しているが、今回注目するべきは香港系物流運用会社のESRがtop10にランクインしたことである。ESRは2021年8月にシンガポールのARA asset managementを買収するなど勢いがある。
APACリージョンは欧米に比べると新興市場であるが、2022年は欧米経済の不調も相まってAPACが注目を浴びたわけだ。
2023.4.13 MSCI Commercial-Property Debt Not Just a Small Bank Story
まとめ
商業用不動産融資オリジネーションの7割が中小の銀行によるものであるという統計があるが、これはあくまで母集団を銀行に限った話であり、不動産融資は銀行以外にもDebt Fundや生保会社、CMBSやCLOのオリジネーターが含まれる。2015年から2019年は銀行の占める割合は40%以下だった。
銀行の中でも地方銀行の占める割合は2015-2019では17%だったが、地方銀行はその後割合を高め、2022Q4には3割に至った。
中小の地方銀行はよりリスクを取った融資を行っているが、コロナ禍でSFやLAなどの高価なゲートウェー都市の取引量が減少し、かわりに2nd, 3rd Tierのエリアの案件が注目をあびるようになったことも、地銀の融資比率が高まったことの一因である。
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感想
現在世界を騒がしている米国不動産融資問題だが、確かに地方の中小銀行、とりわけ3rd Tierのオフィス融資をした銀行などは、不良債権祭りが発生するのは避けられないと思われる。
ただしそれは全不動産融資のうち3割の地銀融資の、そのまた3割のオフィス、即ち全不動産融資の約1割が該当するわけであり、確かにいくつか淘汰が起こることはあるものの、システム全体が混乱に至ったリーマンショックと比べるのは早計というものだろう。
しかしなぜか既視感がある気がする…そう、金融庁から地銀の星と褒めそやされ、不動産融資に特化しハイリスクな融資を行った結果、日本橋で愉快な債務者たちの横断幕に取り囲まれ、東京本社も三井不動産に売却する羽目になってしまったあのスルガ銀行である。
2023.3.9 MSCI Manhattan Office Redevelopment: Still Stuck on Pricing
まとめ
市場ではオフィスからマンションへのコンバージョンが話題になっているが、再開発を目的とした売却はまだわずか。
オフィスの価格がマンション価格と比較して高すぎるため、コンバージョンが促進されない。
転換は、規制緩和や現在のオフィスオーナーが損失を出すかどうかにかかっている。
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感想
直近世界で最も苦境にある不動産セクターである米国オフィス、であればオフィスを別セクターにコンバージョンすればいいのでは?と誰でも考えることだが、結局オフィス価格は住宅価格に比べ遥かに高いため、結局現状塩漬け状態になっているオフィスのファイアーセールなしには起こらないという話である。
筆者が不動産鑑定評価をやっていたとき、更地の最有効使用を何にするかで、オフィス立地としてはやや渋いがマンションにするにはややもったいない…みたいな最有効使用の判定にかなり困る悩ましい案件があったのを思い出した。結局取れる賃料がオフィスと住宅ではオフィスのほうがダンチで高いのである。
2023.3.30 MSCI CMBS Dominates First Wave of Commercial Property Debt
まとめ
2023年および2024年に900Bilドルもの米国の商業用不動産ローンが満期を迎える。リファイナンスの難しさに直面する可能性がある
2023年に満期を迎える400Bilドルの半分以上を、CMBS、CLO、Investor-Driven lenders(意味的におそらくDebt Fundのこと?)が締めている。
2026年と2027年に満期を迎える予定のローンの50%以上を銀行のレンダーが支えている。
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感想
特段ないが、こうしてみると渦中の米国地銀の不動産融資のうち、2023年・2024年が満期のものの割合は低いことが見て取れる。