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裏DVD②/試験



前科は無いと答えると「ああ、そう」との返事。

男は道中で、色々と話をしてくれた。
この仕事は前科持ちや訳アリの人が多いらしい。

きっと、この男はこの仕事のボスなんだろうと思った。
組織はもっと大きいのかもしれないけど、現場のボス。
話の内容からそう思った。

行きついた先は、駅の東側の繁華街。そこからまた少し歩いた細い路地。
ボスは「ここ」と言って、シャッターが閉じられた細いビルの前で立ち止った。
細いビルの前には小さな赤い工事用のコーンが置かれていた。
膝くらいの高さのコーンには、黄色の文字で「DVD」と書かれたA4サイズの看板が張られている。

ビルの両隣はインドカレー屋とガールズバーがあった。
そして道路を挟んだ目の前にはスロット屋。
そのスロット屋から、陰陽座の甲賀忍法帖が爆音で流れていた。

ボスは「見ておけ」と言ってその小さな看板の横に立った。
「DVDどうですか」「DVDいかがですか」
通行人の気を引くように片手を差し出して、呼び込みを始めた。


「ほら、やってみろ」
男が、俺に看板の横に立つように促す。

見よう見まねで、「DVDどうですか」「DVDいかがですか」と呼び込んでみる。
通行人がこちらに気が付くと、足元の〈DVD〉の看板を見て不思議な表情を浮かべて通り過ぎて行く。
そんなのが何人も続くと恥ずかしかった。
1~2分やったところで、「OK、まあそんな感じ」と言われた。
どうやら試験に合格したみたいだ。

ボスは「じゃあ、こっち着いてきて」とまた歩き出した。

次は、呼び込みで拾ったお客さんを連れて行くマンションの場所を案内してくれるらしい。

線路の上にかかった大きな橋を渡って、駅の西側に向かう。
橋を降りるとホテル街があった。
その一角のマンションの下で、ボスは立ち止まった。

「お客さんは、ここに連れてきて」と言われ、部屋番号とインターフォンで伝える暗号を教えられた。

そこでようやく気が付いたが、マンションの下には車が止まっていた。
黒塗りのベンツ。
うっすらと見える車内には明らかに堅気ではない男が2人。
ニヤニヤとこちらを見ている。
物騒な雰囲気だ。
ボスは車の方を見ないし、俺もとりあえず気が付いていないフリをした。

「今から別のメンバーが来るから挨拶しておいて」

そう言われて、マンションの下で数分待っていると2人の男がやって来た。

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