裏DVD④/報酬
たばこを吸いながらの客引きは快適だった。
警備員時代じゃ考えられないほどに自由だ。
喫煙していようがお構いなしに、DVDに興味のあるお客さんは俺の前で立ち止った。
常連みたいな人や、何のDVDを売っているのか詳しく聞いてくる人。
小さな看板には〈DVD〉の文字しかない。
それを見ただけではいったい何のDVDを売っているのか分からないのも当然だった。
でも、それを詳しく説明するわけにはいかない。
っていうか俺も現物を見たわけじゃないし、よく知らない。
お客さんから「何のDVD?」と聞かれたら
俺はニヤニヤしながら「DVDですよ」
と、察してくれと言わんばかりの怪しい表情で言うしかなかった。
少しずつ仕事に慣れていった俺は、初日で数人のお客さんを引いた。
ただただ、DVDを買いたいお客さんを引いては、マンションまで案内する。
真面目にこなした。
お客さんをマンションまで案内している間、看板の前には代わりにボスが立っていた。
俺が戻ると、ボスと交代になる。
そうして、営業時間が終了となった。
ボスが「お疲れ様」と言って、立っている俺の横に並んできた。
2人で向かいのスロット屋を見ながら初日はどうだったとか、適当に会話していた。
ボスがノールックで俺の手をちょんちょんと触ってくる。
なんだ?と思ってみるとボスの手にお札が握られていた。
ボスはこちらを見ずにそのお札を渡してくる。
俺もノールックでそのお札を受け取って、すぐにポケットにしまった。
あ、給料ってこういう渡し方なんだ。