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出所追究vol.3|中間支援組織って、何?

よく理解していないのに、知ったかぶって使っている言葉。以前恥をかいて(怒られて)以来、意味や定義をきちんと理解していない言葉は使わないようにしている。

で、今回取り上げるのが「中間支援組織」。非営利団体で働いているとこの言葉をよく見聞きする。自己紹介の際に「中間支援組織です」と名乗ることもあった。よく理解せずに。

「それ以上、いけない」

と呉さん<1>も言っている。そう。いけない。言葉は正確に用いなければ。

というわけで、この記事はインターネットで調べた内容を自分用の備忘録である。



青木孝弘<2>は、

「民間支援組織は,一般には中間支援組織と呼ばれており,intermediary の訳語である」

と述べている。intermediaryの訳語ということは、元々は海外で使われていた言葉(概念)を輸入した、と予想。

次に「intermediary NPO」で検索してみる。さいたまNPOセンターの情報紙<3>には青木とは異なる記述が出てくる。

「ただし、アメリカではNPOを支援するNPOのことを「基盤的組織」「infrastructure organization」とも呼んでいる」

二つの英単語の和訳は、

  • intermediary・・・「仲介者」

  • infrastructure・・・「社会基盤」

であり、意味が異なる。果たしてどちらなのか。青木は日本での中間支援組織の起源に言及<2>しており、

「1990年代にNPO法制化を目指す国民的運動の最中,当時主導的立場にあった日本ネットワーカーズ会議(1995)や市民フォーラム 21(1996),日本NPOセンター(1997)等が,NPO 先進国である英米の調査研究を行い,その報告書の中で中間支援組織の必要性が強調されたことが契機となって,全国に急速に普及拡大した」

と述べている。いくつかの主導的団体が報告書を出しているということで、日本NPOセンターの報告書をインターネットで検索すると、「NPO法制定10年の記録」というサイト<4>が見つかる。渡辺元へのインタビュー記事の中に、intermediaryとinfrastructureの意味合いについて言及している部分があった。長いが、重要な部分なので押さえておく。

「一方、震災以降、時の国会でも「ボランティア支援立法」の動きが起こりましたが、それに疑問を持った多くの関係者が関心をもつ国会議員等も巻き込みながら、市民活動を広く促進していくためのNPO法をつくろうという運動を起していった。その辺の経緯は、別に譲りますが、「法律はいずれにしてもできていくだろう」という想定のもと、法律ができれば、それに関連して、必ずその対象を推進していくための動きが別途出てくるだろうと考えたわけです。そこで『市民立法として“民”が主体となって法の制定を実現するのであれば、推進機関に相当するものも“民”が主体となって取り組むべきだ』という考えのもとで、先ずは、「そのための基盤作りに関する調査をやろう」ということで、そのターゲットをアメリカに求めたわけです。(中略)Independent Sectorという米国を代表するinfrastructure organization(NPOの基盤的組織)がありましたが、これがその後、「日本NPOセンター」創設に向けた基本的なモデルになっていったということです。
 もう一つ、日本NPOセンターの方向性を決める際の元となった「infrastructure organization」という言葉と概念が本当に正しいのかという疑問がありました」

「intermediaryとは何か違うなということで、種々調べたところ、intermediaryは金と人の「仲介」なんですね。これに対して、「infrastructure organization」とは、NPOのための出会いの場だったり情報の拠点だったり、ある種のプラットフォームのような概念なんですね。(中略)「NPOを推進するための、いわば支援機関にあたるような組織は、infrastructure organizationという概念に沿った考え方で取り組んでいく必要があるだろう」と思ったわけです」

つまり、日本のNPO法の制定に関わった民間サイドの人たちは、日本にもNPOを支援するNPOが必要だよね、という議論をした際、infrastructure=「NPOが活動しやすいインフラ(社会的基盤)」という思想を採用して中間支援組織という言葉を生み出したと解釈できる。また、さいたまNPOセンターの情報紙<3>には

「NPOを支援する組織の役割に「仲介」だけではなく、「基盤づくり」があるのはまちがいありません」

との記述もみられる。

ここで、中間支援=「NPOが活動しやすいように支援すること」とした場合、その逆(for profit=営利企業)はどうだろう。つまり「営利企業が活動しやすいように支援する」の場合はどうか? を考えると、平成13年に内閣府が出した調査報告書<5>には次のような記述がある。

「個々のNPOが活動や事業を始めるためには、資金、人材、経営ノウハウなどが必要となる。企業の場合、銀行や人材斡旋会社、経営コンサルタントなどがこのようなニーズに対応してくれる」

NPOも活動するためにはお金が要るし、人材育成もしないといけないし、活動には様々なノウハウが必要。だから、営利企業にとっての銀行や経営コンサルに代わるものとして、NPOを支援するNPO=中間支援組織、ということになる。

《参考文献》
<1>久住昌之=原作、谷口ジロー=作画、「孤独のグルメ」扶桑社、1997年
<2>青木孝弘「ソーシャルビジネスの基盤強化に向けて ―中間支援組織による2つのアプローチの考察―」会津大学短期大学部研究紀要第72号、2015年、https://www.jc.u-aizu.ac.jp/research/activity/2015/r_02.pdf
<3>特定非営利活動法人さいたまNPOセンター「さいたまNPOニュース さんぽ」No.57、2010年12月、https://sa-npo.org/wp-content/uploads/k_57.pdf
<4>NPO法人まちぽっと「NPO法制定10年の記録」、https://npolaw-archive.jp/?page_id=355
<5>内閣府「平成13年度 中間支援組織の現状と課題に関する調査」、https://www.npo-homepage.go.jp/toukei/2009izen-chousa/2009izen-sonota/2001nposhien-report



以上、『中間支援組織』という言葉の出所を自分なりに整理してみた。この内容と、自分の経験的感覚に照らし合わせると、中間支援組織=NPOを支援するNPO、というのはある程度納得がいく。

個人的には、中間という言葉からintermediary(仲介者)の方が起源かと思いきや、infrastructure organizationが意味合いとしては本質的な起源である、ということがおさえることができ、スッキリした。

意外にも内閣府の資料が置き換えて考えるヒントになった。銀行やコンサルとの違いの一つは営利/非営利だが、この「営利/非営利」も説明が要る。それも言い出すと、説明が長ったらしくならざるを得ない。営利/非営利は置いておいて、まずは infrastructure organization の意味合いから説明を試みたい。という訳で……

Q.中間支援組織って何ですか?

A.「NPOを支援するNPOです。銀行が企業に融資して事業を成長させたり、コンサルが企業に専門的アドバイスをする感じで、中間支援組織はNPOの活動がうまくいくようにいろんな支援をします」

う〜ん、長い。とりあえず、NPO自体をよく知らない人には「中間支援組織はNPOにとってのアドバイザー」くらいで捉えてもらう程度でよい……か。


NPOとNPO法人、そしてNPOの本質

最後に。誤解が生まれるといけないのだが、NPO法人はすべて中間支援組織ではないし、中間支援組織はNPO法人という法人格に限定されない。

この投稿ではNPOとNPO法人を分けて書いたつもりだが、馴染みのない人には「どっちやねん」「何が違うねん」と思われるかもしれない。

以前、とある行政から仕事を受託した際「おたく、NPOなんでしょ? じゃあボランティアなんだから、委託料いらないよね?」と宣う、もとい、ぬかされたことがあった。あまりにムカついて脳内血管が沸騰し、ハゲ散らかしそうになった。

法律に基づいて仕事をしている人たちでさえ、この体たらくだし、NPOという言葉はまだまだ市民権を得ていないと断言する。だって、みんな本質を知らないで使ってるんだもん。

NPOという言葉の狭義・広義はインターネットにゴロゴロ転がっているが、これに関しては自分なりの言葉で別の記事で書きたい。

NPOを使い勝手のいいボランティアだと思っている行政職員、首をキレイキレイして待っておきましょうね~。


出所追究でどころついきゅうは、主にまちづくり界隈で見聞きする言葉やフレーズの出所(出典・初出時期・起源・語源など)を追究していくシリーズです。

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