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JR東日本線区別収支に惑わされるな!

はじめに

 10月29日JR 東日本は、2023年度の線区別営業収支を発表した。これは、鉄道を運営するにあたって効率よく運営維持可能で最低ラインとなる、平均通過人員が2,000人/日未満の線区について、「もっと費用が安く済む別の交通機関に転換したい。このため地域の皆さんも交通機関をこれからも維持していくため、鉄道運営ではこれだけの費用が掛かっていることを真剣に捉えて利用促進に向け考えて欲しい」と我々にボールを投げ掛けているのだ。さらには、「これ以上利用者が減って1,000人/日未満となったら、近い将来鉄道廃止に向けての協議に地元自治体も参加して頂きますよ」との一種の脅しも含まれているのである。

JR東日本路線収支
https://www.jreast.co.jp/press/2024/20241029_ho01.pdf

線区別営業収支の公表

 2022年7月にJR東日本が初めて線区別営業収支を公表すると、他のJR各社も追随して公表をはじめ現在では北海道、西日本、四国、九州で毎年8月~11月にかけてそれぞれプレスリリースしている。内容は各社ほぼ同一のフォーマットで次の通りである。

 ①路線名
 ②区間名
 ③営業キロ数
 ④運輸収入(A)…旅客運賃収入
 ⑤営業費用(B)…次項で解説
 ⑥収支(A)-(B)…収入から費用を差し引き、+なら儲け-なら損失
 ⑦営業係数100×(B)/(A)…100円の収入を得るのに幾らの経費が掛かるか
 ⑧収支率100×(A)/(B)…費用のうち何%が運賃収入で賄われているか
 ⑨1987年度平均通過人員(C)…JR発足年度の輸送密度
 ⑩2023年度平均通過人員(D)…最新データの輸送密度
 ⑪増減100×(D)/(C)…JR発足年度に比べて利用者がどれだけ減っているか

 毎回これを見て疑問に思うのだが、④運輸収入や⑨⑩平均通過人員は正確な値だと思われる。しかし⑤営業費用については如何であろうか。利用者の我々は公表された値を信じるしかないのであるが、これは鉄道会社側の都合に良いよう担当者の胸先一つで幾らでも変えられるのではないか。もしかして、我々は鉄道会社側の言い値を見せつけられているだけなのではないのか。他社に比べてあまりにも多すぎる、JR東日本2,000人/日未満線区の表を見ながら、この⑤営業費用の妥当性を検証する方法が無いものか考えることとした。 

鉄道経営における営業経費

 まずは、鉄道経営における営業費用とは何か整理してみる。

 ①人件費…駅員や乗務員、整備士、保守員、事務員等
 ②線路修繕費…路盤、橋梁、隧道、信号・通信設備等メンテナンス
 ③電路修繕費…架線、変電所等のメンテナンス
 ④車両修繕費…車両メンテナンス
 ⑤動力費…電気、軽油、石炭・水等
 ⑥運送諸経費…車両部品や材料、燃料等の送料
 ⑦諸税…消費税や固定資産税等
 ⑧減価償却費…建物や機械設備、車両等年月経過で価値が低下する資産
 ⑨一般管理費…光熱・通信、事務消耗品、福利厚生、広告、パンフ作成等

 これらに細かく分類される。公表される営業費用の数値はこれら全ての項目の合算であり、項目ごとの詳細値や数値の妥当性はそれぞれの部署の経理担当者ではない限り、外部の我々は一切伺い知ることは叶わない。
 内部からの情報が得られないのであるならば、外部すなわち他の鉄道会社との比較で営業費用の数値の妥当性を検証できないか考えたのであるが、他社も上記の細かい分類で費用を公表しているわけではない。

営業キロ当たりの営業費用の算出

 そこで考えたのは、公表されている数値から割り出せる営業キロ当たりの営業費用である。この数値は⑤営業費用を③営業キロ数で除した値であり、多少は路線地域の地理的な特性や気候および単線・複線や電化・非電化の設備などにより変動するもののJR各社を比較すれば、同業者なのだからそんなに大きな違いはないものと思われる。早速2,000人/日未満路線の各社の公表値から営業キロ当たりの営業費用を算出し、その平均値をとってみる。詳細は下記表をダウンロードして頂きたい。

営業キロ当たりの営業費用一覧表(JR東日本・JR西日本・JR九州)

・JR北海道…9路線13区間、1,284.8㎞、第1四半期費用計6,584百万円
                           =5.1百万円/㎞
・JR東日本…36路線72区間、2,448.6㎞、費用計82,172百万円=33.6百万円/㎞
・JR西日本…17路線30区間、1,359.9㎞、費用計26,480百万円=19.5百万円/㎞
・JR九 州…12路線18区間、573.7㎞、費用計7,945百万円=13.9百万円/㎞
・JR四 国…2023年度未公表
・JR東 海…非公表 

 如何であろうか。JR東日本の営業キロ単価はなんと3,360万円であり、これはJR西日本の1.7倍JR九州の2.4倍にもあたる。JR北海道について第1四半期のみのデータのみであり、他社とは異なり株式非上場(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が株式を保有)の半官半民企業であることにより、固定資産税や都市計画税が減免されているため単純には比較できない。
 このためこれから論ずるにあたっては、JR東日本と同じく上場済みであるJR西日本とJR九州の営業費用のキロ単価ベースとの比較で話を進めていきたい。

JR北海道路線収支https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/mi/senkubetsu/reiwa06/pdf/r6dai1shihanki.pdf

JR西日本路線収支https://www.westjr.co.jp/press/article/items/241029_press_senkubetsukeieizyoukyou.pdf

JR九州路線収支
https://www.jrkyushu.co.jp/news/__icsFiles/afieldfile/2024/08/20/240820_2023_senkubetsu.pdf


キロ単価べースが高い運営費用のJR東日本

 JR西日本とJR九州に比べてJR東日本のキロ単価ベースが異常に高いのは、前述の通りである。雪国を抱える厳しい自然環境のせいであろうか。因みにJR西日本越美北線1,710万円、大糸線で1,610万円と2,000万円未満であり、またJR東日本で電化・一部複線化となっている新庄~湯沢間でも2,660万円で賄えられていることから、雪国かつ電化複線設備でプラス1,000万円あたりが1キロ当たりの運営費用が妥当であると考えられる。
 しかしながら、今回掲出された線区のうち20路線32区間で平均の3,360万円を上回っており、羽越本線村上~酒田間の6,970万円を最高に奥羽本線東能代~弘前間の6,860万円、外房線勝浦~安房鴨川間の6,430万円と異常な程営業費用が掛かっているのである。これを見る限り、JR東日本はJR西日本やJR九州に比べて割高な費用(無駄なコストを掛けて)路線を運営しているのではないか、という疑念が生ずる。

JR東日本のキロ単価べースが高いのは何故か

 もしJR東日本ではなく他社が同区間の鉄道運営を行ったら、キロ単価2,000~2,500万円程度で経営を行えるのではないのか。この数値が改善されることは即ち営業係数および収支率が劇的に改善することに繋がる。何故JR東日本のキロ単価がこれほどまでに高額となっているのか。
 原因として考えられるのは、JR東日本の人件費の高さか、もしくは路線規模以上の過剰な設備投資か、割高な外注メンテナンス・材料費用を掛けている、のいずれかである。しかし前述の通り、外部の我々にはその妥当性の検証は叶わない。
 自治体首長の皆様、路線廃止の協議のテーブルに就いた際にはJR東日本の言いなりになるのではなく、他社に比べて何故割高な路線維持費用となっているのか、その内訳詳細資料を提示させるよう突っ込んで頂きたいものである。

※画像資料:photolibrary,JR東日本管内で収支がワースト1の久留里線


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アルファ模型
ありがとうございます。 今後も鉄道情報をこまめに収集し、皆様の参考になる記事をご提供させていただきます。