秋田リレー号以来28年ぶりの北上線乗車
2024年3月中旬、なかなか乗車する機会のなかった北上線に乗車することができた。1996年3月に特急「秋田リレー号」が運行を開始した際に乗車して以来、実に28年ぶりの北上線乗車である。
横手市北上線沿線に生家があり、8歳まで過ごした私にとって親が汽車を見に連れてくれたのは近くの北上線踏切であり、身近な路線であった。その後秋田市に転居したのち、大学を仙台市に選んだ私にとって夏・冬・春の長休みでは急行「きたかみ」利用が帰省の通常パターンであった。
しかし東北新幹線が開業し、大学卒業後そのまま仙台市の会社に就職した私の帰省の手段は、盛岡駅からの特急「たざわ」に移行し北上線乗車の機会は失われていた。私が北上線に再び乗車する機会が訪れたのは、秋田新幹線工事により田沢湖線が休業した際に登場した特急「秋田リレー号」運行開始だったのである。しかしこの列車はわずか1年のみの限定運用であったため、乗車機会はわずか1往復のみであった。
今回乗車した列車は、快速横手行きは110系2両編成。快速列車とはいうものの、通過するのは小松川駅1駅だけの実質普通列車である。座席数4割程度の乗客を乗せた列車は北上市内の住宅地を抜け、東北自動車道を過ぎたあたりから人家はまばらになり奥羽山脈へ入っていく。和賀仙人駅を発車し間もなくすると車窓右側が北上線のハイライト、「錦秋湖」の眺めである。この日は水位が低めで気温が高いせいか水面は氷結はしていなかった。
ゆだ錦秋湖駅を過ぎ、車窓左側に錦秋湖が回り込むと間もなくほっとゆだ駅である。駅舎隣の温泉施設「ほっとゆだ」は1989年4月に開業し、1991年6月に施設に合わせる形で「陸中川尻駅」から「ほっとゆだ駅」に改称されている。
余談になるが当駅から車で10分ほどの温泉宿がお勧めなので紹介しておく。湯川温泉にある「山人」は客室12室のみで全室渡り廊下で結ばれた離れにあり、半露天風呂が備わった閑静な宿。地元食材を使った料理がおすすめ、夏場は客室から蛍も見ることができた。
1991年6月に「岩手湯田駅」から改称された「ゆだ高原駅」から3分ほどで県境を通過し、秋田県に入る。秋田県側では沿線人口の減少に伴って、2つの駅が2022年3月ダイヤ改正で廃止されている。小松川駅と相野々駅間の「平石駅」および相野々駅と横手駅間の「矢美津駅」である。いずれの駅跡周辺にも人家は数えるほどしかなかった。
列車は1時間15分ほどで駅に到着。北上駅から横手駅まで通して乗車したのは20名程度であった。東北新幹線開業前は秋田駅と仙台駅を結ぶ最短経路として重要な位置づけであった北上線だが、その後ダイヤ改正ごとにその本数が削減され2022年現在でのほっとゆだ駅~横手駅間の平均通過人員は100人/日を下回っており、廃止も懸念される状況となっている。
JR東日本による施策で田沢湖線が脚光を浴びた一方、北上線が廃止の瀬戸際に追いやられているは理不尽である。秋田駅利用者としては秋田新幹線が北上線経由であったらば、と考える。北上駅で東北新幹線から分岐し横手駅および大曲駅を経由して秋田駅に至る。盛岡駅経由での最短3時間37分が遠回りせず、かつ大曲駅でのスイッチバックの必要もなくなるため3時間20分程度で結ばれる。田沢湖駅や角館駅とは直通運転できなくなるため観光流動がしずらくなり、秋田駅⇔盛岡駅間の移動も厳しくなるがもともとこの流動は東北新幹線開業前はニーズが少なかった。一方、横手駅や湯沢駅からの仙台駅および東京駅方面の移動が容易になり、秋田県南各都市の衰退は現状ほど悪化しなかったのではないだろうか。