血を吐こうとも
血を吐こうとも
闇が晴れる
サンダーバードは思う。
この地には花が咲くだろうか?
滅んでもあの空はまだあるだろうか?
理性も悪感情も忘れ
無様に考えるその瞳にはもう、
世界の何も見えてはいない。
よだれが地に落ちる。
夜明け前の空を見上げて
雷を降らせる巨躯な鳥は、
人間たちに捕まって、
その巨大な翼を広げている。
わたしは飛び立つ
鉄で磔にされた翼は、
黒く褪せてしまって、
叩き潰す気力はもうない。
生きるだけの動物らしく
人間の学者たちが議論をしている。
ここまでの巨躯は何故かと。
どうでもいいと、
サンダーバードは思う。
行き先はあなたのもとへ
お前らが何を言おうと、
俺は俺だ。
それ以上でも以下でもなく、
なによりもう死んでしまいそうだ。
途中、翼が破れようとも
サンダーバードは声を上げる。
生涯最後の声だと思う。
さよなら、と。
花や空やあいつに向けて。
苦痛に反吐が出ようとも
突然の咆哮に、
驚いた学者たちはすぐに、
今の雄叫びは何を表すのか、
ふたたび議論を始めた。
血を吐こうとも
サンダーバードは思う。
ただの別れの挨拶さ、
お前たちもするだろう?
くりかえし
さよなら、
サンダーバードは繰り返す。
くりかえし
慈しみをくれた花と、
自由をくれた空と、
愛をくれたあいつに。
朝をこえて
さよなら、
サンダーバードの声に、
内腑から漏れた血が混じる。
わたしは飛び立つ
吐いた血反吐は、
もう飛べないサンダーバードの、
悲しみの色をして、
地に染み込む。