今年最後のスーパームーン

今年最後のスーパームーン

 狩人の矢は
  あの夜空を見に行こう。
  簡単なコーヒーセットと、
  二人掛けチェアを荷物にして。

 憧れの獣を貫いた
  今年最後のスーパームーンは、
  流星群も重なって、
  まるで宇宙の祝祭だって。

 獣が地に伏した時
  獣から剥いだ皮でできた、
  高級だとかいうバッグで闊歩する、
  都市の奴らなんか置いてさ。
  
 狩人は憧れを見失った
  あの夜空を見に行こう。
  よく目を凝らすと、
  百花繚乱の色が見つかるから。

 獣の流れる血が
  その時僕らは知るだろう。
  星にもそれぞれ色があるって。
  なかには血に溶けた鉄のような赤も。

 ゆっくりと流れてゆく
  星座を数えてみてもいいね。
  スピカまで伸びる角を、
  十字に切断してみたりして。

 もう二度と戻れない大地に
  百花の星の見つめる下で、
  そんな遊びをしていたら、
  どこかで起きている争いのことなんか忘れるよ。

 沈み込んでゆく
  あの夜空を見に行こう。
  ペテン師と少女が口笛を吹く、
  暗い夜道を乗り越えて。

 夜空には
  星の親玉のようなスーパームーンが、
  僕らを待っている。
  これで最後だって待っている。

 月が輝く
  紙に書いた張りぼてでもいいよ。
  月に向けた歌声でしか、
  得られないものもあるから。
 
 獣には生涯最後の
  今年最後のスーパームーンに、
  手を伸ばしたら、
  きっと自分の指先さえ好きになる。

 狩人には未来永劫に思える
  悲しみにも光り輝いて、
  叢雲の鯨が一頭、
  空の海を静かに泳いでいる。

 月が輝いている
  あの夜空を見に行こう。
  星の親玉のようなスーパームーンが、
  これで最後だって待っている。

いいなと思ったら応援しよう!