【書評】ファナックとインテルの戦略
こんにちは!あるぱかです。
今回はある書籍を読んだまとめと感想をメモします。
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「ファナックとインテルの戦略」は、CNC技術の革新を中心に、日本とアメリカの工作機械産業の盛衰を描いた書籍です。
この本にたどり着いた経緯:
私は工作機械関係の仕事が増えてきて、工作機械業界をざっくり調査していたところ、この書籍に出会いました。
その時点で全くの無知で、
「工作機械とNC装置はどう違うの?」
「なんで工作機械とNC装置メーカーが分かれているのか?」
という素朴な疑問を抱いていました。きっと工作機械界隈の方からしたら常識でしょう。
ファナックに関してはロボットの印象は強くありましたが、NC事業のことはさっぱりでした。
そこで私はこの本を手に取り、NC装置の歴史から学んでいこうとおもったわけです。
この本を読んで学んだこと:
学んだことは大きく二つあります。
・NC装置 技術革新の軌跡
・ビジネスとして成功させるための企業戦略
どのようにして、当初世に無かったCNC装置が創出され普及していったのか?
なぜ、ファナックとインテルは、技術革新を先導し、業界に大きな変革をもたらすことができたのか?
その成功の背景にある経営戦略、特にファナックに焦点を当てます。
工作機械産業とNC/CNCの誕生
かつて、工作機械の加工は職人による手動操作が主流であり、その技術は非常に高度。
しかし、時代の進化とともに自動化のニーズが高まり、NC(数値制御)装置が登場した。NC装置の役割は、図面やプログラムから加工情報を読み取り、工具を制御して自動的に加工を行うことだ。
そんなNC装置が市場で普及されてる時代に、ファナックが初めてインテルのMPU(マイクロプロセッサ)を活用してCNC(コンピュータ数値制御)装置を開発した。
それによって、柔軟で高精度な加工が可能となり、工作機械産業に革命をもたらした。
ファナックの役割
日本の工作機械産業において、ファナックはどんなポジション取りをしたのだろうか?
工作機械メーカーは機械本体を手掛けましたがNC範囲は外注化。
そのNC装置の開発は、ファナックが一手に引き受け、多くの工作機械メーカーはファナックのNC装置を採用して自社製品を開発。という構図が形成されていく。
この分業体制によって、日本の工作機械メーカーは自社の強みである機械本体の設計と製造に集中でき、一方ファナックはNC装置開発に専念することができた。これによって、業界全体の発展が加速した。
競合であるアメリカでは、工作機械メーカーが独自にNC装置を開発していたため、互換性や汎用性が欠如し、産業全体の成長が阻害される結果となった。
9年間の赤字と市場の臨界点
NC装置はその革新性にもかかわらず、市場がその価値を理解するまでに時間を要した。
ファナックのNC部門は9年間もの赤字を抱え、技術的には優れているにもかかわらず、実際の需要が追いつかない時期が続いた。
しかし、技術革新の臨界点が到達すると、NC装置の需要は一気に拡大し、市場での地位を確立。
この過程は、イノベーションが常に直線的に成功するわけではなく、10年スパンという忍耐と戦略が重要であることを示すことになる。
活用と探索の二刀流マネジメント
ファナックは、主力製品である既存技術(ハードワイヤード方式=トハードで回路を構成)を活用しつつ、次世代技術(ソフトワイヤード方式=MPUを用いたCNC装置)を並行して開発する戦略を取る。
この主力事業の「活用」と新規事業の「探索」を同時に進める二刀流マネジメントにより、既存事業からの収益を確保しながら、新たな技術革新に挑戦することができた。
現行製品を改良しつつ、次世代製品の開発にリソースを割くこのバランスが、ファナックの成功に寄与した要因の一つだ。
日米の技術覇権を分けた要因
現在では工作機械業界は日本が一強状態だが、当時はアメリカも盛ん。しかし現在は多くの米国企業が撤退した。
どうしてこのような差が生まれたのだろうか?
1975年、日本がインテルのMPUを積極的にCNC装置に導入したことで、日米の技術覇権の分岐点が生まれた。
日本のファナックは、NC装置を汎用的に製造し、多くの工作機械メーカーが利用できる互換性を高めたのに対し、アメリカでは工作機械メーカーが独自開発を進め、特注化された製品が多くなった。
その結果、日本は多様なニーズに対応できる技術を迅速に広めることができたが、アメリカは統一性に欠けたシステムに苦しむことになった。
顧客ターゲットの違いも要因だと示している。
(日本の顧客)
標準的なNC装置を国内中小企業の顧客に販売する
中小企業はサイズ、コスト、柔軟性を重視
(米国の顧客)
高い切削性能を要求される自動車や航空機産業がメイン顧客
ハイエンドな工作機械を大手企業に販売する。
まとめ
1975年に日本がインテルのMPUを採用したことが、日米の工作機械産業の盛衰を決定づけた。
本書を通じて、破壊的イノベーションを成功させるためには、技術だけでなく、経営戦略が重要であることを学びました。また、既存事業と新規事業の関係を適切に設計し、忍耐強く市場に浸透させる経営者のビジョンが成功に不可欠であることが示されている。
一般的に破壊的イノベーションは新興企業が創出するものだったが、ファナック(富士通)は既存企業であるにもかかわらず、破壊的イノベーションを創出することができる代表例だろう。
なぜ新規事業を成功に導けたのか。ポイントは二つある。
①忍耐力
イノベーションがすぐに市場に受け入れられるとは限らない。10年という長い期間を耐えるだけの忍耐力が経営者に求められる。
②既存事業との関係
既存事業との距離感をどう設計するかは重要な経営課題である。新規事業を分離させ、相応の土壌を与え種をまかなければ育たない。
感想
本書は、工作機械について学ぶために読み始めた。それはもちろん達成できたが、一番学んだことは経営戦略が大きかった印象だ。
イノベーションがどのように創出されて市場に受け入れられるのか垣間見ることができる。ファナックの成功は、技術力だけでは語れないということがわかった。その時の世界の工作機械産業の状況があって、それに対する企業側の経営的戦略がフィットしないと、成功しなかった。
また、主力事業と新規事業との距離感、経営手段が面白かった。
私自身、装置メーカーでは主力事業と新規事業両方を経験しました。
新規事業に携わる際に、既存事業と新規事業の違いに苦心した経験があります。既存事業は確立された安定感がありますが、新規事業はその成果が見えにくく、時に忍耐が求められる。
開発したものが市場に受け入れられるかは、時間をかけないと見えてこないので。
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