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『東京組曲2020』深堀り企画 vol.12

【加茂美穂子さんインタビュー】
= この映画で出会った皆さんとの関わりで、鬱だった夫が変化していくことが何より嬉しい。=


三島有紀子監督の企画に賛同し、一緒に本作をつくった出演者の皆様たちのインタビューによる『東京組曲2020』深掘り企画。第12回目は、加茂美穂子さんです。

―― 初めての緊急事態宣言後、コロナについて何もわからない、外出もままならなかった当時を振り返ってみてどのように感じますか?

もしかすると私は、誰一人外に出れないという非日常を少しだけウキウキしていたかもしれません。それこそ教科書に載るかもしれない世界中での出来事でしたので、それを体験できたというちょっとポジティブな感覚でした。
それに、夫(Kobyさん)の心の病のこともあり、私たちは海の近くに住んでいるので、毎日、海に行けるから閉ざされた空間にいなくて済んでいました。他の地域から誰も来れない状況でしたので、なんだかプライベートビーチのようでした。映画のなかでも話していますが、夫の鬱が良くなってきましたし、そういう意味では環境に助けられていたのかもしれないですね。

―― 三島監督がご自身の誕生日を迎えて経験したことから企画された本作ですが、参加したきっかけについて教えてください。

三島監督の『Red』を拝見して感想をお送りしたことが縁で、今回のお話しをいただきました。以前からお仕事をぜひご一緒したいと思っていた方でしたし、企画内容の意図が「今、撮るべきことを撮って、誰かに届けようよ」と共感できることでしたので、心に火を灯してもらったようにも感じました。
映画『ラ・ラ・ランド』やナショナル・シアター・ライブ「Fleabag フリーバッグ」など、主人公が自分自身のことを語るという内容の作品を観たときに感じたことがあるんですが、今まで格好つけて生きてきたけど、いつか私も裸で清水の舞台を飛び降りるような、何らか吐露する日がくるんじゃないか、またそうすることで何かが変わるんだろうな、と思っていました。なので企画をいただいた時に「多分、これだ」と思ったんです。

―― あの頃に感じていたことや環境と、偶然にも届いた企画とがちょうど一致したのでしょうね。Kobyさんとは企画についてどのようなお話しされましたか?

「この企画やるよ。プロットに全部、本当のことを書くよ」と伝えたら、彼は「それが貴女の飛躍のチャンスになるならばいいよ」と言ってくれました。
彼は、以前、芸能関係の仕事をしていて、私は仕事を通じて知り合ったんです。そのため、私を一番理解していて応援してくれている存在なんです。

撮影時のKobyさん。

―― Kobyさんと一緒に手掛けた作品になったんですね。初めてお仕事をされた三島監督とはどのような対話を重ねて撮影に臨まれたのでしょうか?

「絶対にKobyさんを傷つけないこと。そのうえで協力してもらえることは協力してもらう。」それが三島監督との約束でした。撮影を進めるなかで、夫から「今日はもう喋れない」と背を向けられて難しい時もあり、そういう日は、どんなに天気が良く、撮影状況が整っていたとしても、我慢しようと決めていました。
また監督からは、私の表情が面白いから自撮りにしてください、ともご指示をいただきました。

―― それでビデオ日記風になったのですね。加茂さんの素直な感情や表情が、観る人たちにも共感を呼んでいると思います。それに、他の方々は町中だったり、自宅で過ごすシーンでしたが、海辺が背景にあるシーンで、また違ったコロナ禍生活を見せていただきました。

海辺でのシーンの一つに二人で立っているシーンがありますが、あれは偶然に撮れた映像なんです。もともと私一人だけのシーンとして海辺に立って撮っていたんですが、そこに夫が突然、カメラを回していることを知らずに私の傍へ歩いてやって来たんです。実は「今、カメラ回してるよ」「え? ハケたほうがいい?」と会話してるんですよ(笑)。決められた位置に向かうかのように彼が画角に入ってくるのですが、あれは偶然なんです。「映画の神様が降りてくる瞬間がある」とよく耳にしますが、このシーンはまさにそんな想いをしました。いっぱいカメラを回した甲斐があったなと思える映像の一つですね。

本編より。

―― 完成した映画をご覧になられて、改めてどのように思われましたか?

映像を目にしたとき、夫に対して、腫れ物に触る感が強かったかもしれないと思いました・・・。ちょっとしたことで壊れちゃうという危機感があるから、私自身もすごく気を張っていたような気がします。

―― Kobyさんは、完成した映画について、どのように仰っていましたでしょうか?

自分のシーンについては、映像に引きずられてあの頃に戻ってしまいそうになるのであまり観れない様子ですが、作品として全体を観たときに「画質や性質、またタッチも全く違う多種多様なものをよく一つにまとめ上げたなと、三島監督の手腕を、お世辞でも何でもなく、すごいなって思う。コロナ禍の苦しさが描かれて暗い感じもするのに、すごく気持ちが温かくなる作品で、唯一無二の映画だね」と言ってました。

―― 辛い頃を思い出してしまうから観たくないと仰る方もいますし、振り返って気付くことができて豊かな気持ちになれたと仰る方もいて、本作はいろいろなコミュニケーションをとることのできる映画なんだと思います。「温かくなる作品」という感想は、Kobyさんがこの映画と向き合った結果なのかもしれませんね。

撮影当時は面識のなかった出演者の皆さんと今、繋がってお話ししたり、必要とされるということがどれだけ幸せなことで、どれだけ有難いことか。本当につくづく思います。やっぱり私、参加して良かったなって。三島監督はじめ、この映画を通じて出会った皆さんと関わることで、夫がどんどん変化してくれているようで感謝でいっぱいです。

―― 三島監督からのシークエンス「明け方(朝4時)に女の泣き声がどこからか聞こえてくる」というシーンの女の泣き声を聞いた時、どのように感じましたか?

あの泣き声を聞くという撮影の前に、2、3度、朝4時に起きて事前の準備をしました。私には撮りたいイメージがあって、そのためにはどこにカメラを設置すればいいのか、三脚を立てる場所はどうしようか、どうすれば自分の顔と空が上手く入る画角で撮れるのかと、撮影する同じ時間帯でセッティングのシミュレーションをしました。
でもね、毎朝、同じ空ではないんですよ。絶対に違う色やグラデーションをしていて綺麗なんです。だから曇りや天気崩れのない日に撮りたくて、この日に撮影をすると決めた日の天気予報をチェックしながら撮影に臨みました。

―― 朝焼けの空を見上げているシーンは、宣伝でも使わせていただきました。

私ね、右側から撮られることが本当は好きじゃないんです(苦笑)。普段、選べるときは、左から撮っていただいたり、いつも人の左に立つことが多いんです。
自分では良いと思っていることを人から見たらそうでもなかったりすることって皆さんもよくあると思うのですが、今回、自分にとって好きじゃないものを人から好きって言われたことにより、今まで隠していたり、光を当てていなかった部分について、好きになれたように思います。それは有難い経験でした。
泣き声については、自分のなかで「目の前のマンションのあの部屋の子が泣いている」と決めてました。映画では使われていませんが、私、あの泣き声に話しかけてるんです。泣き声を聞き始めた時、自分の中に抑え込んでいた「しっかりしなきゃ」みたいな想いの結界が破れるみたいに溢れ出てきて、すごく泣いちゃったんですよ。一頻り泣いた後、今度はその泣き声の子のことが心配になってきて、「どうした?何があった?」って。あの日の明け方の空もすごく美しく、もうその子に向けて「見て。世界はこんなに綺麗だよ」って言ってるんです。まさに、綺麗な龍が舞ってるみたいな朝焼けでしたよ。いざ宣伝がスタートし、ポスタービジュアルの「セカイハ ソレデモ ウツクシイ」というキャッチを見た時に、三島監督のレールにまんまと乗っていたような思いでした(笑)。

本編より。

―― 本作はちょうど5類に移行されたタイミングでの公開スタートとなりました。コロナ期間を経て、自分自身で「変わったな」と思うことはありますか?

今まではいつも誰かの目線や言動など、人からどう思われるのかを気にしていたのですが、自分に正直になりました。コロナになった当初、お芝居を観に行くのも感染予防で大変な状況でしたが、これは観ておいた方が得かなといった損得勘定ではなく、絶対に観たいから後悔しないように観に行くというように、自分の気持ちに正直になったのではないかと思います。

―― 逆に、コロナとか関係なく、「これはずっと変わらずにいたい」と思うことはありますか?

目の前の人や物など、それら全てに全力で愛情を注ぐ。そんな自分の生き方だけは、多分変わらないと思います。

―― 今後、チャレンジしてみたいことについて、お伺いできますか?

韓国の人たちとお芝居することです。5月にチョンジュ国際映画祭へ参加して、韓国が大好きになっちゃったんですよ。今まではそれほど興味が無かったんですが、行ってみたらこんなに日本と近いのに文化が全然違っていることに驚いて、とても新鮮でした。
映画祭へ行く前に韓国語の簡単な言葉を覚えようと思って、シチュエーションで使えそうないくつかの言葉を映画やドラマから抜き出して、単語のメモ帳を作ったんです。特に、演劇に関する言葉を覚えたかったので、演劇にまつわる話を描いた韓国のドラマ「カーテンコール」を観て、単語のチェックをしました。おかげで、ハングル文字が少し理解できるようになりました。また、チョンジュ国際映画祭の執行委員長を務めていらした俳優のチョン・ジュノさんの出演ドラマ「アイリス」なども観ました。そもそもお会い出来るとは思ってはいませんでしたが、結果、偶然にお会いできたんです。とても誠実な方でしたよ。日本とは違う演技のアプローチの仕方や温度感の中でお芝居をする。これは自分のなかでは決定事項です(笑)。

―― 映画を観てくださる方々に向けて、メッセージをお願いします。

今の世の中、皆さん、お金は楽しく過ごせることに使いたいですよね。美味しい料理を食べに行きたいとか、欲しかったものを買いたいとかそれぞれかと思います。その中で、こういう苦しかったあのコロナ禍のことを扱った映画を観に行くということは、もしかしたら勇気がいることかもしれません。でも、ご覧になられた後、何かを感じて、心が浄化されるはず。そして、その感じたことをきっと誰かと分かち合いたくなると思うんです。そこで得るものは大きいですよ、きっと。

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