逆噴射小説大賞 最終選考作品 アロハ天狗による感想
はじめまして。アロハ天狗と申します。
逆噴射小説大賞が終わってしまった。自分の振り返りはこちらのnoteでやっているため、
最終選考作品についての感想をここでは書いていく。
最初に言っておくと、1900作もあるので全部を読むのはめちゃくちゃ大変だしやっていく気はなく、ダイハードテイルズ団の面々がマジで1900作を読み切ってちゃんと選んでくれたから俺は悠々と上澄みだけひょいっと食えるという寸法だ。ありがたい。
大賞作。死んだはずの偉人が実は生きていた!というのは定番の伝奇ネタであり即座にパルプだが(俺も書いている)、この作品は単純に文章がズパッとしていて優れている。ナイフで荒っぽく尖らせた鉛筆のように一見ラフだが無駄がなく、地の文と会話文のバランスもめちゃくちゃ良い。
おれや仲良しのまきちゃんがゲームを褒める時にいっている「基礎体力の高さ」とか「最小単位の気持ちよさ」と同じ話で、結局のところアイデアや奇想がどうだろうと、最終的にものを言うのは一つ一つの文章がどれだけ研ぎ澄まされているかということであり、聡一郎がいうところのR・E・A・Lさを完璧に体現している。
たとえ地獄から蘇ったトゥー・パックを再びぶち殺す話でなくて、武田信玄と菅野美穂がプテラノドンと戦う内容だったとしてもこいつが書くのなら相当面白くなるだろう。
おれはこいつがコロナを独り占めすることに何の文句もない。
真の勇者よ、栄光はきさまのものだ!
タイトルが非常に誌的でよく、エモーショナルな話かな?と思ったら腰砕けのドタバタが展開されていたし、そのくせ最終的にはきっとエモーショナルになるやつだろう。明らかに面白くなるシチュエーションであり、即座に邦画(それも面白いやつだ)にできるはずだ。
どう転んでも倫理観の低い展開が予想できており、楽しい。この作者はなんか名前も毒気がないしアイコンも一見カワイーので油断しているとこれとか自動車狂歌とかひどい低倫理エンタメを出してくるのでとんだサイコ野郎だと思っている。市長の食材がとろろ芋というのは一見弱そうだが、その裏にあるアイデアが気になるところだ。
牧野なおきさんはこの場でよくツラを見かけるので、最終選考に残るのもそうだろうなと思っていた。タイトル画像は審査対象外だったが、読み終わってから見るとニヤリとさせられる。ベタだがどーとでも広げられる設定を、ちゃんと400字の中でアクションも含めて伝えているので、パルプ誠実度が高い。人が死ねばもっとよかった。
聡一郎も言っているが、まず何より主人公のババアがとても良い。女傑ババアというのは定番のキャラクター造形だが、それを一瞬で読者にビッと伝えることに成功している。おれがこの作品を気に入ったのは、ババアの能力からサイコメトラーとかそっち系の特殊能力犯罪サスペンスに行くのかな?と思わせておいてデビルハンターものにザッと切り替わるところだ。ゾンビ屋れい子の一巻からリルカ編の流れを導入でやっているようなスピード感があってとてもよく、それ故にタイトルでその意外性をバラしてしまっているのだけが惜しいと思った。
最初、覇気のない固有名詞とともに語りから入ってくるのでなんかふにゃっとしたファンタジーかな?とナメていたところに、腰の入ったディストピアものだということをたたきつけてくる。この話が1984のように救いのない地獄コメディで終わるか、リベリオンのようにパワーあるエンターテインメントで終わるかわからないが起承転結がとても気になる作品だ。キャラクターにはしっかりひどい目にあってほしいし実際死んだほうがましな目に遭うだろう。
ヤラカシタ・エンターテインメントakaうさぎ子天狗さんは、海外小説、ハードボイルド、パルプ、時代伝奇などエンタメ全般にめちゃくちゃ造詣が深く、しかもそれらを語るにあたって明確な筋が通っているのでわたしは一方的にめちゃくちゃリスペクトしている。
この大賞でも、多作な作品がどれもめちゃくちゃパルピッシュでありながら精神的貴族じみた品位があり、一番のライバルとなるのはこの人かマツモトキヨシさんだと思っていた。
死んだはずの偉人が実は生きていた!というのは定番の伝奇ネタであり即座にパルプだが(大賞のやつも書いているし俺も書いている)、この作品はそれのタイトルへの落とし込み方がマジでめちゃくちゃカッコいい、マジで。
それ故に、主人公の名前がぱっとピンとくる奴とそうでない奴で評価がわかれてしまうストイックさをカッコいいと思うか勿体ないと思うかは悩ましいところだろう。俺は貧乏性なので勿体ないと思う。
相当な変わり種だが、変わり種に実際厳しいこのレギュレーションで最終選考まで残ったのは相当にヤバい作品という証明だ。
実際、この語り口にもかかわらず語られる内容は相当にパルプであることがプンプン伝わってくる。異色な語り手の作品だと例えば独白するユニバーサル横メルカトルとかが有名だが、むしろ古川日出夫とかがめちゃくちゃタフな作品を書いているときのテンションを連想した。
おれが選ぶなら、コロナはこいつになっただろう。
女子高生が出て人が死ぬ作品はどうやっても面白くなる(俺も書いた。面白い)が、確かにこれはめちゃくちゃ面白い。やくざ映画とか新井秀樹の漫画のような独特な間の取り方も面白いし、バイオレンスビジュアルの独特な表現もカワイーのバランスが絶妙だ。TRIGGERのアニメの良いところを小説に落とし込んだ感がある。
ししジニーさんはこの場でよくツラを見かけるので、最終選考に残るのもそうだなと思っていた。大阪の陣にヤバい裏があって・・・・という小説はマジで80万作くらいはあるので、そこに真正面から突っ込んでいくストロングスタイルに感銘を受けた。
文章も明快でテンポが良く、時代伝奇に慣れていない読者にもしっかりと400字でリーチする腹をくくった書きぶりに大いに好感を得たが、肝のネタが最後の最後に出てくるので、展開的には定番のあらすじをギリギリまでなぞっている形になっており、そこを最初にバーンと出しておけばもっと強い話になったかもしれない。
めちゃくちゃ面白い。
タイトルも疾走感がありながら劇的で、エモーショナルなクライマックスを予想させるものだし、ヘッダー画像が爆発をバーンとしているのもメッセージが明確で痛快だ。さらに、開始一行で人が死に、開始三行でもう一人バイオレンスに死ぬ。
しかもそこまでで作品の肝の設定を読者の99%に理解させており、力強い確信に満ちた紙質の悪さを感じる。
この作品が大賞を取っていない理由はよくわからないが、集計用のエクセルがおかしかった(セルの右下をビーって引っ張ったら参照先がズレたとか)などの理由があるのだろう、そういうこともある。
カッコいい作品だ。聡一郎も言っているが、しれっと当然のようなツラして混入されるサイ=ファイ要素の塩梅がクールで、かといって話が宇宙に飛び立つこともなくしっかりと大航海時代のロマンに足を踏みしめたままだ。モチーフの難しさも含めて、俺には書こうとしても書けないタイプの話であり、ヘタにオチをつけない締め方も潔くてよい。
パルプでビジネスでバトルということで、「はいはい、オフィスハックみたいなやつね・・・」とナメていたおれはまたもや足元をすくわれることとなった。
これはやりとりが続いて展開がドライブしエスカレーションすればするほど面白く、予定調和になったころにスッと話を軌道修正することもできる強靭なフォーマットの構築に成功している。
闇雲に人が死ななくてもタフなバトルパルプは達成可能だということが証明されており、なおかつ冒頭でいきなり100倍とかあほの数字を出してくることで肩に力が入りすぎないあほさが担保されているのも心強い。単純にバトルが噛み合ってくるこれからの展開をめちゃくちゃ読みたい。
先が気になるとか400字とかパルプとかそーしたレギュレーション抜きで一番おもしろかったのはこれだ。
一行目でベクシンスキーを出すことであれこれくどい描写に時数を割くことなく退廃的なダークワールド・イメージをビジュアライズさせるという半ば反則的手法だが、それはどうせこんな大会に好き好んで参加するような連中はベクシンスキーくらい全員好きやろという信頼あってのものだ(そうだ)
日常が一気に暗黒ホラーに転じていく様のスピード感ある描写がとてもキレ味があり、なおかつ異界描写の一つ一つがとてもクールだった。
はっきり言って弐瓶勉だが400字できっちりと弐瓶勉をやれているということが感嘆に値する。ハードSFに軽い主役造形をぶち込むというのは完全に正解で、これで主人公がなまじ手堅い男だったら全く退屈な作品になっていただろうが、主人公の危なっかしく好感の持てる軽薄さと愚かさが緊張感を生んでいる。固有名詞もカッコいい。
この人はなんかプロレスと称しておれの作品と全く同じタイトルの作品をアップするとかよくわからないことをやってきたりするが、実力は確かなことがこうして完全に証明された格好だ。Twitterのアイコンから普段の挙動から、その他の作品までほぼクトゥルフ一色であり、そうした一貫性がある男は自分と路線が違っても信頼できることが実証的に証明されている。本作も一貫したゴシックホラーの息吹であり、パルプはパルプでもウィアード・テイルズのラブクラフトだ。
三宅つのさんはこの場でよくツラを見かけるので、最終選考に残るのもそうだなと思っていた。
パルプ小説というには世界観が良質なSFに寄りすぎており、テッド・チャンとかの香りを感じるが、レギュレーションとの整合性を無視すればめちゃくちゃ面白い作品がそこにある。
ヘブライ語世界の荒涼感や神と人が接続される前の底冷えする空気感が大変冷たくてよく、この話がどう展開されるのか全く読めないところも含めて大いに興味を惹かれた。
以上です。あなたがたの感想もわたしはもっと読みたい。
(おわりです)
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