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ベルサイユのばらばら殺人事件
「先生、次回作の話なんですが」
「ああ、丁度良いところに来たね、まあ座りなよ。次回作といえばだ、君は『ベルサイユのばら』って知ってるかい?」
「宝塚の歌劇ですか?すみません、名前しか」
「漫画の方だよ。何だ、君は編集者の癖に随分と不勉強なんだな。じゃあ説明してやろう。『ベルサイユのばら』は革命真っ只中のフランスを舞台にした話でね。男装の麗人オスカルと低級騎士のアンドレ。豪奢妃マリー=アントワネットとスウエーデン貴族のフェルデン。時代の波や様々な障壁に翻弄される二組の恋を壮大に描いた、少女漫画の最高傑作だよ」
「面白そうですね、是非今度読ませていただきます」
「そうすると良い。で、新作のタイトルなんだがね、『ベルサイユのばらばら殺人事件』ってのはどうだろう」
「先生。最低です」
「そうかなあ。結構御洒落なタイトルだと思ったんだが」
「どこが御洒落なんですか。大体前作は『ドラえもん のび太とばらばら死体』で前々作も『世界の中心で死体をばらばらにする』だったじゃないですか」
「そうだったかね?まあ題名は後でじっくり考えよう。で、内容なんだがね」
「はあ」
「ベルサイユ宮殿のあちらこちらでオスカルのばらばら死体が見つかる」
「いきなりですか、先生」
「推理小説なんだから、死体が見つからなきゃ何も始まるまい」
「推理小説なんですか」
「僕は推理作家だよ。推理小説じゃなかったら他に何を書くんだい。『美味しいキャベツ料理の作り方3』かね?」
「『美味しいキャベツ料理の作り方2』はもうすぐ増刷だそうですよ。で、アンドレがその謎を解くんですね」
「いや、アンドレもばらばら死体だ。オスカルだと思って集められた死体だがどうも様子がおかしい部分がいくらかある。実はアンドレもベルサイユ宮殿のあちらこちらにばらばらになっていたんだ」
「先生、それは流石に」
「嗚呼、二人の愛はばらばら死体という壁を超えて結ばれる事ができるのか。これは大衆に受けるよ、君」
「無理です。愛の前に自分の体を結んだらどうですか」
「君は編集者の分際で上手い事を言うね。で、マリー=アントワネットだ」
「先生、まさか」
「察しが良いね、彼女もばらばら死体だ。だが辛うじて胴と首は繋がっていたんでやっぱりギロチンに掛けられる」
「何の意味があるんですか、それ」
「人体が繋がっていたら切断したくなるだろう?彼女の決め台詞は『死体が無いなら生きた人間をばらばらにすればいいじゃない』で行こう」
「決まってません。その調子だとどうせフェルデンもばらばらとか言うんでしょう」
「いいや、フェルデンは只の死体だ。スウェーデン人なんかばらばらにしてやってたまるか。あの忌々しいノルマン人共め」
「先生とノルマン人の因縁には興味がありますが、今度にします。主要人物が全員死体じゃないですか。探偵役がいませんよ」
「探偵?そんなものベルサイユ宮殿が女中がたまたまやたら勘が良かったとでもしておけば良いだろう」
「犯人役はどうするんですか」
「犯人?そうだな、ベルサイユ宮殿の使用人がたまたま猟奇殺人者だった、で良いじゃないか」
「先生、それでは推理小説として成り立ちません」
「推理がどうしたというんだ、馬鹿。僕はそんなものこれっぽちも興味なんか無いんだ!」
「先生、あの」
「僕はバラバラ死体を書いたり見たりできればそれで一切合切良いんだ!
そうだ、いっその事犯人もばらばら死体にしてみたらどうだろう。ばらばら死体がおこすばらばら殺人事件。これは大衆に受けるよ、君」
「何がいっその事ですか。もう付き合っていられません。そんなにばらばら死体が好きならご自分でお作りになればいいじゃないですか」
「何、良いのかい。実は丁度ここに電動ノコギリがほれこの通り」
とっぴんぱらりのぷう