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伝説の旅人

ん?いいっていいって、遠慮すんなよ。
相席ってのも何かの縁だろ?まあグッと飲みなよ。
お、中々良い飲みっぷりじゃん。あんた、どっから来たの?
へええ!単身赴任で?丁度昨日日本に帰ってきた所ね。

海外と来たかあ。こりゃ予想外だね。で、どこ行ってたのさ?
え?モルンバ王国?東南アジアの。
あー、なるほどなるほど、はは、ごめん、さっぱり聞いた事ねえや。
へえ、3年も。その前はミャンマーに2年?
まーそりゃ随分と長旅だねえ。またあちこちと。
あーでも、生まれはこの辺なんだね。あれ、大川小?同じ小学校じゃないの。

旅と言えばさ、あんた、冒険ジジイって今どうしてるか知ってるか?
え、知らない?マジ?世代の差だなあ…この辺のガキで知らない奴はいなかったんだけどなあ。
悪い悪い、独り言になったね、で?そのモルンバ王国ってのはどんな…
何?それより冒険ジジイの方が気になる?あんたも変な事に興味持つねえ。
じゃあまずはジジイの方から話すか。あんたの旅行記はその後でな。

冒険ジジイってのはな、この辺に時々現れちゃあな、
近所のガキ集めてホラだか本当だかわからねえ話するジジイでな。
まあ今になって思い返してみたら出鱈目も良いトコなんだが、
やったらと面白えのよ、そのジジイの旅行記。
やれアフリカで人食いライオンに追い回されながら黄金の象を捕まえただのな、
やれ中国で人食い土人に追い回されながら仙人と酒飲んできただのな、
やれアメリカで人食いマフィアに追い回されながら絶世の美女と恋に落ちただの。
まあこの辺のガキでジジイに憧れない奴はいなかったね、多分。
俺かい?俺なんて一番弟子気取ってそれこそ四六時中追いかけまわしてたよ。
それでな、そのジジイはいっつもふらーっと消えては忘れた頃に飛びっきりの冒険談引っさげて戻ってくるのよ。
やれアマゾンの奥地で人食い…人食いはもう良いか。まあ水晶のピラミッドを見つけてきた、とかな。

俺達は消えてる間にジジイが冒険旅行してるって信じててねえ。
実際どうやって喰ってたのかな、あのジジイ。フーテンだかなんかなんだろうけど、商売ッ気は無かったねえ。
別に乞食ってガラでもなかったしな。ひょっとしてコソ泥でもやってたのかねえ。

でもまあ分別付くような年齢になるとな、皆だんだんジジイから離れる様になっていってな。
子供も減る一方だしジジイは寂しそうな顔でいたっけ。
ええと…それからどうしたっけ…そうだ!ある日ジジイは俺だけこっそり呼び出すと、こう言ったんだ。
「今度の冒険は一番の冒険になる。戻ったら真っ先に話してやるよ」ってね。

俺はもう、その時にはジジイの言うことなんてあんまり信じちゃいなかったから、それとなく理解したよ。
ああ、くたばるのかブタ箱行きなんだな、ってね。
でもジジイが俺だけに言ってくれたのは嬉しかったなあ。いっつも一番傍にいたからねえ。
後で聞いたら近所のガキ全員に言ってやがった。はは、あのクソジジイめ。

あとはそれっきりだね。忘れた頃になってもジジイは戻ってこなかった。
どうだい?中々面白いジジイだろ?
あ?ジジイの見た目だ?それがどうしたよ?
まあいいか、ええと…?背丈はデカくて180位で、真っ白で綺麗なヒゲが顎まで伸びてたね。あとは…そうだ、出目金みたいなギョロ目だったね。

ん?何これ?海外の新聞?は?え?おいおい、まさしくこいつだよ、何であんたが…え?どういう…

は!?え!?王様!?

どこだっけ!?東南アジアの?モルンバ王国!?
ア、どうするだ?そんなもん今から行くに決まってんだろう!
ジジイの次の話、どれだけ待ったと思ってるのさ!

はじまりはじまり

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