16 私の愛の形
私が最愛の貴方の息の音を止める。
永遠に。
それが、私の愛の形。
私は、完璧な方法を創造しなくてはいけなかった。
なぜなら、そのチャンスは本当に僅かな時間でしかなしえないから。
彼が唯一、心を許す時。 それは、彼が唯一、私に心を開く時。
強く、多くを支配し、誰にも心を許さずに大勢を率いって、己の道を突き進む貴方に憧れた。貴方は大きなものに動かされるように、どんどんと世界を占領していく。彼の勢力はますばかり。その勢いと同じように私の彼に対する恋心は日に日に増した。
遠くから貴方が眺めていたあの時が懐かしい。
眺めているだけだったらそれで良かったかもしれない。
ある時、貴方の視線が私を捉えた。
私の心臓は矢を打たれたように血液が音を立てた。
身体中の血管が熱をもったような錯覚にさえなった。
熱い愛の鼓動。
私は薬草の全てを知っていた。だからこそ私は彼に煎じる完璧な分量を計算尽くした。
そして、完璧に演じなくてはいけない。私が演じていると言うことがバレてはいけない。
「私は貴方を誰よりも愛している。貴方を最高のエクスタシーで満足させたい。」
私は、呪文のように唱えた。
そして、その唯一の瞬間の為に完璧なストリーを作り、その時を待った。
彼は、幸せだった。
全ての栄冠を勝ち取り、彼は英雄だった。
そんな彼は一時も油断することはなかった。
唯一、唯一の彼が油断をする時、すきを見せる時は私との蜜な時間だけ。
私に愛され、私と一体となり、そして最高の喜びを感じている。
今しかない。
私は演じていた。
それは、完璧だった。全ては計算通り。数秒もずれのない、完璧なタイミングで彼は苦しみを感じる余地もなく、その意識は遠くなる。
白目が大きくなった彼は、私を凝視している。「君は、君は一体何を。」
「I LOVE YOU」
「愛してる」
彼が聞いた言葉はそれが最後だった。
全ては完璧に終わった。
全てを完璧に終えて、あとは、最後の仕事を終える時だ。
それは、私が彼と一緒であり続けること。
私は、ただただ貴方と豊かに愛し合いたかった。
ただ、それだけだったのに。
ふと、無念な思いがよぎった。
「ただ、ただ平穏な、争いのない時に出会いたかった。」
私の目から涙が流れ落ちた。
その涙が地面に落ちた時、その時が来たと私はわかっていた。
彼の側に横たわり、私は彼の手を握り締めたその左手の手首を深く切った。
私は彼の手の温もりを感じていた。
意識がどんどん遠のいて行く。
その意識の先は遠い、遠い未来。
貴方と再会した時。
私は、完璧に全てを終えたことに満足していた。