14 雪の世界
私はそれからどんどん記憶を取り戻した。
私は白馬に乗り、草原を走った。
私は白馬に乗り、砂浜を走った。
私は真っ白な雪の中を自由に走った。
私は彼女との時間が大好きだった。
それは最愛の遊びだった。
その記憶はまるでスキーの世界と一緒だった。
そのスピード感。
景色が速いスピードで変わり、起伏溢れるそのスロープを軽やかに滑り降りていく。
その感覚は息の合った、馬とのシンクロニシティー。
私は、競争することに魅力を感じていなかった。
ただただ、私はスキーと言う自分の身体と繋がるその道具を操り、あの白い世界を完璧なシンクロニシティーで滑り降りたかったのだ。
高い山の上から眺める景色は懐かしかった。
そしてその景色は平和の象徴だった。
みんなが、幸せで、満たされていた。
私は、その景色を見るために「一心不乱」になり、練習した。
早朝、学校に行く前に自転車でのトレーニングをした。
夕方は暗くなるまで肉体を極限まで追い込んだ。
私は追い込む方法を知っていた。
私にとってそれは、さほど難しいことではなかった。
死に物狂いで練習することに、ある意味の心地良ささえあった。
そうすることで、償われるような。
私はそうやって、オリンピックと言うスポーツの最高峰まで登りつめた。
そして、登りつめたその頂点から眺めた景色を見て、愕然とした。
そこには私が知っている平和の景色は見当たらなかった。
冷たい風が私の頬を触った。
絶望を超え、ただただ愕然とした。
一体今まで何のために、私はこんなにやったのだろう。
私は、私のパラダイムの中をずっと生き続けていた。
それは一心不乱に、死に物狂いで走り続ける。
「抜け出さなくては行けない!」
私は、その美しい雪の世界を去ることになった。
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