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クィンシー前日譚 第10章

【呪術師】


???「ここまでくれば安心かな?周りにいたクライアント側のスナイパー達も呪いで潰しちゃったし」

時刻はすでに昼過ぎ、あの襲撃が夜明け前だったのでずいぶん時間が経ってしまった。私と応急処置した師匠をあの場から連れ出してくれた着物を纏った女性は、ちょっと後ろ暗い笑顔で言った。彼女は以前師匠が話してくれた東洋の呪術師、間宮舞夜だった。

クィンシー「ありがとうございます。先程いろいろやって下さいましたが、あれは?」

舞夜「あんまり自慢できる事じゃないけど、呪術でスナイパー達の遺体を崩して全部混ぜちゃったのよ。これでクィンシーの亡骸が無くても判別出来ないはずよ。もちろんあなたのいた場所にも数体分置いておいたわよ」

後ろめたいような悲しみのような複雑な表情を浮かべてそう答えた。

クィンシー「師匠は?師匠は大丈夫なんでしょうか?」

舞夜「師匠? ああ、クィンシーの事? 彼女がお弟子さんを取っていたとは知らなかったわ」

そして舞夜が師匠の状態を確認したあと、申し訳無さそうに目を瞑り首を横に振った。

舞夜「ごめんね、今は簡単な術式で休んでもらっているんだけど、私は高度な治癒魔術や蘇生魔術は使えないの。だからクィンシーの身体をこれ以上回復させることはできない。ごめんなさい。本当にごめんなさい」

彼女は瞳に涙を浮かべ自分の無力さを呪うように険しい顔をしてうつむいた。

と、すぐに笑顔を作った。

舞夜「でも、呪いの分野なら本職よ。一つだけ思いついた案があるんだけど、、、クィンシー、ああ、貴方にとってはお師匠様よね。師匠の魂を呪いの力で何とかしてみせようと思うんだけど」

どういうことだろうか?

舞夜「大丈夫、悪いようにはしない。いつか再会できる可能性を作るために、魂が消滅する前に呪いで幻夢境に移転してみようと思うわ。一歩間違えれば地獄に落とすみたいなものなんだけどね。お姉さんに任せなさい♪」

幻夢境、、、以前師匠が話していた、現世とは違う人智の及ばない神の世界。分からない、分からないが師匠の旧知の友ならば信じてみよう。そもそもこのままでは本当に死を待つだけだ。

クィンシー「舞夜さん、お願いします。師匠を、師匠の魂を救ってあげて下さい!」

『救うんじゃなくて呪うんだけどな〜』と、少し困った顔をして、一転、真剣な表情。

空気が変わる、禍々しい紫と黒の交ざった捻れた闇の光が舞夜の周りを包む。そして横たわる師匠の身体に手を翳し、何やら呪詛のようなものを唱え出す。髑髏模様の蝶や、百足や蜘蛛が舞夜の足元に出来た漆黒の闇から湧き出してくる。そしてそれらが師匠を取り囲みだす。舞夜の呪詛が暫く続くと、師匠の身体から小さな光の玉が浮き上がった。『魂?』と思うや否や、その光の玉に先ほど這い出てきた蟲達が群がり、舞夜の足元の闇の中に引きずり込もうとする。光の玉は必死にもがいているが、抵抗虚しくそのまま闇に飲み込まれてしまった。同時に師匠の身体も地面の闇に沈み込んで消えた。

徐々に闇が小さくなっていき、どす黒い紫の闇が薄くなっていく。完全に闇が閉じた時には張り詰めた空気もほぐれて先程までの森林の優しい静けさが戻っていた。

あまりに急な出来事に私は呆気に取られた。

舞夜が大きく息を吐いて言う。

舞夜「ふぅ、一応はうまく行ったみたいね。幻夢境は基本的には一方通行って事だけど、どうもとある財団が双方向に行き来できるゲートを管理しているらしいの。だから、機会を伺っていれば探索の公募やスカウトが見つかるんじゃないかしら。誰も行きたがらないでしょうけどね」

普通に話を続けているが、相当な魔力を使ったのだろう。額には玉のような汗が浮いていて肩で息をしている。

クィンシー「もし幻夢境に行くチャンスが訪れたら、必ず師匠を連れ戻しに行きます」

舞夜「わたしもよ。自分で送った魂なんだから、最後まで面倒見ないとね」

私は少しだけ笑顔になって言った。

クィンシー「やっぱり、師匠の言った通りで舞夜さんってお人好しなんですね」

舞夜も少し苦笑いして答える。

舞夜「よく言われたわ。自覚は無いんだけどね」


クィンシー「幻夢境か、、、」

私は空を見上げてポツリと呟いた。

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