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クィンシー前日譚 第3章
【新たな生活】
あの夜から数週間過ぎた。
私は、あの時救ってもらった女性と一緒に森の中の小屋で生活している。
深い森の奥にあるこの場所は、辺りには人家やそもそも畦道すら無い、街から遠く離れた孤立した場所だ。ただ、近くには小川と湖がある事、野草やキノコも採れる為、最低限暮らしていくのには困らない。
彼女は家事等はサッパリだったので、私がそれを補う条件(勝手に私がそう考えていたのだが)で居候していた。
彼女は時々ライフル一式を抱えてフラッと1日〜3日程度外出して、食料や生活用品をたっぷり抱えて帰ってきた。
「まあ、狩猟みたいなもんだ」
と言っていたが、父が猟をしてきた時の独特のケモノ臭さは無くて、普通の狩猟では無い事は何となく感じ取っていた。そして、どうもそれを口にするのは禁忌に触れるような気がして追求することは無かった。
***
彼女は時々湖の畔まで行き、丸太に腰を下ろして満天の星空を眺めながら色々な話をしてくれた。世界各地の紛争、財閥同士の派閥争い、宗教戦争、そして魔術士集団の争い、、、
時々寝ている時に私がうなされていると、そっと手を握り頭を撫でてくれた。父のようであり母のようである彼女に、徐々に信頼を寄せていった。
彼女は普段口数が多い方ではないが、お酒が入ると上機嫌で昔話を聞かせてくれたりした。
孤児院出身でそこにいた少しトガッた学生の話、東洋の漬物作りが上手な知人の話。幻夢境というこことは違う不思議な世界の話、、、
時折、飲み過ぎた時には顔を真っ赤にして、私の胸を鷲掴みにして「けしからん!!」と言いつつ顔を埋めてそのまま寝入ってしまう。そんな無防備な姿を見て、私も徐々に口数が増えていった。
そんな生活を続けていた時、突然彼女から「今から仕事なんだが、一緒に行くか?」と話しかけられた。いつも通りの飄々とした表情の裏に、何か決意のようなものを感じた。
何故かは分からなかったが断る理由も無く、何より私がようやく彼女の信頼を得たような気がして嬉しかった。その時は、誘われた理由も彼女の仕事内容も想像すらしていなかった。