クィンシー前日譚 第67章
【幻夢境の悪意】
影さえ映らないない真の暗闇。
クィンシー「、、、うぅ、、、ここは、、、」
どれだけ気を失っていたのだろう。辺りを見回すが、きちんと全ての方角を確認できたか分からない。それほどまでの完全な闇。
クィンシー「師匠ーーー!!」
大声で呼んでみたが反響さえない。静か過ぎて耳が痛くなってきた。平衡感覚も失われてまともに立つことも出来ない。
クィンシー「私、ここで死んじゃうのかな、、、」
???『それはキミの選択次第だよ』
不意に頭の中に声が響く。
クィンシー「誰ですか!!」
***
ロゼット「いやあぁぁぁぁ!!クィンシー様が!クィンシー様が!放して下さい!ロゼットめはクィンシー様に付いていかなくては!」
マルタ「駄目。一旦ルルイエに戻る」
タバサ「、、、術式は出来たわ、、、本当にいいの?」
マルタ「今のメンツだと分が悪い。体制を立て直すべき。それに、、、」
マルタの視線の先にいるゼノは、闇に飲まれたクィンシー達と、それと同時に収まった領域の崩壊をじっと見つめている。
マルタ「チャンスは今だけ。ロゼットも分かってほしい」
***
ウルスラ「来たわね。とは言え救えたのはロゼットだけか、、、」
マルタ「奈落に落ちたとは言え同じ領域の中。彼女達はまだ何処かにいるかも」
タバサ「彼女、、、って、あれ?」
ルイーズ「まあ、予定通りにロゼットが救えて万々歳じゃない?」
ロゼット「、、、予定通り?何をおっしゃっておられるのでしょうか!?あの方は?」
エーリカ「あの方?」
ロゼット「え、、、あの、、、う、そ、、、」
ロゼットの頬を涙が伝った。
ロゼット「、、、なぜ?なぜなのでしょう?そんな、、、どうして?」
***
クィンシー「選択?」
???「、、、突然だけど、キミは一度死んだんだ」
頬をつねってみる。
クィンシー「痛い、、、」
???「はははっ、なかなか可愛いことするね」
クィンシー「あなたは一体誰なんですか?」
???「う〜ん。すぐにネタばらしするのもつまらないからね。ナコト原書から滲み出た悪意みたいなものだよ」
意味がさっぱり分からない、、、
クィンシー「あの、、、今置かれている状況を教えてもらいたいのですが、、、」
悪意「ああ、そうだね。ごめんごめん。じゃあ順を追って説明するよ。この天才超絶美少女ノル、、、っと、あぶない、うっかり名乗りそうになってしまったじゃないか。誘導が上手いね、キミ」
いや、勝手にペラペラ喋って自爆しそうになっただけのような、、、
悪意「えー、こほん。それでは説明するよ。いいかい?キミは、キミの師匠とともに領域の底に落ちたよね。あの領域はほとんど崩壊していたとは言え、お師匠さんの記憶が生み出したものだ。だから彼女はあの領域内の底に留まったままさ。でもキミは違う。
師匠の領域から抜け更に下に。幻夢境の最深部にまで真っ逆さまだ。そりゃあ普通の人間のキミは濃密な魔素の圧力で簡単に潰されてしまったよ。そりゃもう、メロン割りのメロンみたいにね」
それを言うならスイカだと思うけど、、、でもだったら今の私は?
悪意「私にはクィンシーが必要だった。秘密の計画の締めくくりに重要な要素なんだよ。だから、ちょっとズルだけど早々にキミの存在をデブリとして復活させた。ただ、色々弊害はあったけどね、、、」
クィンシー「弊害?」
悪意「キミは、幻夢境のここまで来るのにたった一人で辿り着いた、そう思っているのかい?」
クィンシー「、、、私は、、、もちろん一人の力で、、、情報を集めて、闘って、ルルイエに来て、、、」
そこまで言って、強烈な違和感で吐きそうになる。頭が割れるように痛い。心臓が握りつぶされるくらい締め付けられる。涙が止まらない。大切な何かを失ってしまった。決して失ってはいけないもの、、、
悪意「すまない。即席のデブリはキャパが小さ過ぎたんだ。クィンシーとしてのキミの能力と経験の記憶を残すために、キミの中で大きくなり過ぎた他人の存在達をデリートさせてもらった」
クィンシー「、、、、、、、そんな」
悪意「私は悪意だからね。ただ、せめてもの慰めに、キミの失った記憶と整合を取るために他の人間の記憶も操作させて貰ったよ。だから、誰も傷つかないさ」
クィンシー「忘れた事さえ忘れてしまった、ということですか?」
悪意「そうそう。でも師匠の事とかライフルの扱いとかは覚えているだろ?」
それは、、、そうだけど、、、
悪意「キミの一番の目的は師匠の救出。それを忘れさせなかった事だけでも感謝してくれよ。それで、キミに選択肢だ。
私を手伝うか、それとも通常通りのデブリになって、残りの記憶も全て失うか」
選択なんて残されていないじゃないか、、、
クィンシー「あなたの手伝いが何だか分かりませんが、従えば私も師匠も助けて貰えるのでしょうか?」
悪意「保証するよ。でもキミの師匠は今はまだ領域の一部だ。復活させるには私よりもっと大きな力が必要だね」
頭の中に知らない誰かの声が響く。
✕✕✕『ナコト原書か、もしくはそれに匹敵するほどの力でないと幻夢境の領域移転なんて出来ない、、、本当にごめんなさい、、、』
クィンシー「、、、っ!」
悪意「記憶の引き継ぎにはリスクが付き物さ。そのうち慣れて、完全に忘れられるよ」
忘れちゃいけない、、、でも、何を忘れないようにすればいいんだろう、、、
クィンシー「、、、分かりました。では、あなたの手伝いとはなんでしょうか?」
悪意「ありがとう。では一緒にメロンでも食べながら話そうか」
真っ暗闇だった空間の奥に、小さな光が灯った。やがて少しずつその光は広がっていき、気が付くと辺りはすっかり明るくなって真っ白な空間になった。そこにテーブルと椅子が2脚。片方には栗色の髪の少女が座っていた。少女は笑顔でこちらを向いた。
悪意「さあ、どうぞ座ってくれ」
テーブルの上の皿には、カットされたメロンが乗っていた。