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クィンシー前日譚 第29章

【新たな出会い】


???「貴様たち!次期ボードウィン家当主のジゼル・ボードウィン暗殺が目的か!だとしたら私が相手になる!」

青髪の少女、、、歳は私と同じくらいか。瞳に宿る確たる意志の強さを感じる。彼女が構えた剣を見た瞬間、私と司祭は拳銃を構えた。だがその刹那、指が完全に硬直してしまった。1ミリ先のトリガーに指が触れる事すら出来ない。ロゼットも同じように硬直しているようだ。しまった、すでに結界が張られていたのか!でも魔術の反応には気を付けていたはずなのに、、、

???「くふふ♪今度からは自分の立っている位置の風向きに気をつけるべきだよ。もう指先の感覚が無くなっているだろう?純粋な魔術も面白いが、科学的な薬を混ぜるとこんなに簡単に動きを封じ込められる。ちょっとした薬物を風に乗せただけでね♪」

青髪の少女の後ろから、ゆっくりと白衣を羽織った小柄で黒髪の少女が歩いてきた。青髪とは対照的にうっすら余裕のある笑顔を浮かべている。黒髪の子が続けて言う。

???「駄目じゃないかブリジット君、私よりも前に行かないでくれたまえ。いくらクラウソラス・レプリカの加護があったとしても、私の薬は強力だよ」

ブリジット、、、ブリジット・ボードウィン!!

ブリジット「うるさいわねシルヴィ!引き金を引く前に動きを止めなきゃ手遅れでしょ!」

シルヴィ「まあそれもそうだが、君が剣を突き立てなくてもすでに動きは封じられているよ?」

指先から徐々に硬直して、今は全身がピクリとも動くことの出来なくなった私たちの3人を見やる。

クィンシー「ブリジット、、、ボードウィン、、、次期当主の座を妹に奪われた、、、」かろうじて喋ることは出来た。

ーーーヒュン

一瞬にして首元に剣の切っ先が迫る。

これは地雷を踏んでしまったようだ。が、かえってチャンスかも知れない。

クィンシー「私はクィンシー。貴方がたも知っているでしょう?魔術士を狩るものです」

シルヴィは驚いた表情をした。クィンシーという事にか、それを告白した事にか、あるいはその両方か。ブリジットの剣の切っ先が近付いた。

ブリジット「ではやはりジゼルが目的か!」

シルヴィ「待ってくれたまえ、ブリジット君。なぜこの最悪の状況で、嘘も命乞いも言わずにクィンシーが正体を明かしたと思うんだい?何か理由があるんだろう?」

よかった。黒髪の子、シルヴィは冷静に事を考えられるようだ。

クィンシー「信じられないかもしれませんが、ここに私たちが出くわしたのは本当に偶然なんです」

一度アーデル司祭にここは私に任せてもらうように小声で言って、事の顛末を全て2人に話した。

***

シルヴィ「なるほど。全部納得したよ」

ブリジット「簡単に納得しないでよ!」

シルヴィ「いや、クィンシー君、申し遅れた。私はルルイエ、、、ラヴクラフト財団の者だよ。当然最近ラヴクラフトの施設が強化人間によって襲われているのは知っていたし、殲滅依頼を出したのも、クィンシーと名乗る者がそれを受けた話も知っている」

シルヴィは『まさかあの伝説のクィンシーが君のような少女だったとは思わなかったけどね』と微笑った。

ブリジット「ってことは、本当にあなたはクィンシーで、だけど、ジゼル暗殺とかは全く関係無いって事なの?本当よね!?」

シルヴィ「すまないね。ブリジット君はジゼル君の事となるとアメリカから飛行機の車輪格納室に忍び込んで飛んできてしまう程の根っからのシスコンでね、、、」

ブリジット「うっさい!!死なすわよ!!」

シルヴィ「ぉおう、ゾクゾクするねぇ♪」

うん、ちょっとズレてるけど悪い人たちでは無さそうだ。そうだ、ついでに聞いてみようか。

クィンシー「シルヴィさん、以前幻夢境の想索者候補として訪れた間宮舞夜さんをご存知ではないでしょうか?」

シルヴィは少し驚いて言った。

シルヴィ「彼女と知り合いなのかい?あそこまで上級の呪術師には初めて会ったよ。私の初見で即採用さ。ついでに幻夢境とのゲートの説明も上の許可無しに全部してしまったよ♪」

あれ?聞いたことがある話だな。

クィンシー「ひょっとして、、、お土産にアロマとかワインをお渡ししませんでしたか?」

シルヴィ「ほぉ、そこまで知っているのかい?ひょっとして2人で乾杯してくれたのかな?是非ともその夜の話を教えて欲しいものだよ♡」

下卑た笑い、、、あなたが犯人でしたか!!

クィンシー「それで、舞夜さんに今回の魔術士討伐の件を相談したのですが、アジア地方の事故で手が離せない状況でして、、、今は八方塞がりで困っていたんです」

ブリジットは相変わらず無愛想な顔をしながら目を合わせずに言った。

ブリジット「で、そんな話をして私達に協力を求めているのかしら?だったら残念ね。そっちの仕事はそっちでなんとかしなさい。私には強化人間もラヴクラフトも関係無い」

うーん、ちょっと怖いけど挑発してみようか。

クィンシー「ボードウィン家のこの地への訪問はいつまでの予定かご存知ですか?放っておいたらヤツはこの街を通りますよ」

後ろでシルヴィが『魔術学校と国営の研究施設の謁見で、確か1週間くらいだったかな?』と呟く。

クィンシー「ヤツは数日でここに到着する見込みです。間違いなく鉢合わせしますね」

そのまま挑発を続けてみる。

「あの防疫修道会さえも見放した狂人です。この街は地獄になりますよ。ボードウィン家の方々も巻き込んで。 、、、そして、魔導書クラウソラスに選ばれたジゼルさんはそれをただ見過ごすだけでしょうか?歴代最優とも言われている魔術士が指を咥えて見ているだけとは私には思えません。むしろ、真っ先に人々の前に立ち、その魔術士を迎え撃とうとすると思いませんか?」

シルヴィはこちらの思惑を見透かしているように、ブリジットの後ろでニヤニヤしている。ブリジットは厳しい表情を保ったまま私を睨みつけた。

ブリジット「、、、そんな見え透いた挑発に簡単に乗ると思っているの?あの子ならその程度の魔術士なんて一瞬で仕留めるわよ」

乗ってこないか、、、

ブリジット「、、、でも、ここまで情報を知っておきながら、この街を危険に晒すのは後味が悪いわ。ジゼルが勝つのは当然だけど、怪我人や被害は免れないわよね、、、」

と、シルヴィがゆっくりと歩いてきて私の目の前に立つ。

シルヴィ「いやいや、分かっているじゃないか、ブリジット君の取り扱い方を。ちょっとライバル心が湧いてしまったよ。くふふ♪」

シルヴィはそう言ってから振り返ってブリジットを見た。

シルヴィ「どうだい?ここは挑発に乗ってあげないかい?少なくともクィンシー君の言っていることは的を得ているよ。このまま私たちが放っておいて、クィンシー君達がその魔術士の足止めに失敗したら、間違いなくここは業火に巻き込まれるだろうね」

ブリジットは険しい表情のまま、しばらく考えてから口を開いた。

ブリジット「、、、、、分かったわよ!でも言わせて貰うけど、これはこの街を守りたいという私自身の判断よ!あなた達と協力して馴れ合う気はさらさら無いわ」

シルヴィがまたこっちを向いて、

シルヴィ「本当はジゼル君の事が心配でしょうがないんだよ。ブリジット君にとっては街のことなんてどうでもいい言い訳なのさ」

ブリジット「シルヴィ!聞こえてるわよ!別にあの子のことはそんなんじゃないんだからね!」

シルヴィ「ね?この通り、ブリちゃんはシスコンツンデレお姉さまなのさ♪うまくいったね、クィンシー君、くふふ♪」

『誰がブリちゃんよ!魚みたいな呼び方するんじゃないわよ!あとシスコンじゃないし!!死なすわよ!』ブリちゃんが喚いている。すごい分かりやすいなぁ、、、『あぁ〜、もっと罵倒してくれたまえ。ブリちゃん、ブリちゃん、ハァハァ♡』『絶対死なす!』この二人は史上最強のコンビだな。

もうとっくに体の硬直は解けていたので、司祭とロゼットと3人で、この2人のやり取りをベンチに座ってしばらく見させてもらった。

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