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クィンシー前日譚 第12章
【決別と出発】
師匠のいない一人きりの隠れ家で向かえる朝。
師匠はもう帰ってこない。
資料、メモ書きを全て確認し重要事項を頭に叩き込んだ。中にはラヴクラフト財団からのスカウト状もあった。クィンシーの名の重さを改めて感じる。依頼書の類は仕事が終わればすぐに燃やしていたのですでに残っていない。書物はすでに全て読み切っていたので、改めて確認が必要な部分だけ再読した。
必要最低限の衣類だけカバンに詰めて、ほかは書類と一緒に暖炉へ。
一通り小屋の中を見渡して、普通の猟師小屋に見える事を確認する。
最後に、師匠のスーツケースと美しいライフル。その大きさゆえとても目に付くし、裏世界でもクィンシー関連の情報として出回っているかもしれない。ケースとストックは暖炉に入るサイズに裁断して燃やし、銃身やスコープといった金属類は庭に作った即席のレンガの石窯で完全に溶かした。
先代クィンシーの痕跡はこれで完全に私の中にあるだけ。
コートを羽織り、初めて出会った時に師匠が身に着けていたスカーフを巻く。師匠は普段全く使っていなかったので、これだけはいいとしておこう。
そして、私専用のライフルが入った、少し大きめのアタッシュケースの取っ手を掴む。
ドアを開け外に出た。
振り向かないまま、隠密と時空間固定の術式を解いた。急激に寂れて朽ちていく隠れ家の音が聞こえた。
***
森を出た時、私はどんな顔をしていたのだろう。少なくともいつかのような泣きそうな顔は浮かべていないはずだ。
目的は知っている。道筋も、歩き方も。
「師匠、見ていて下さい」