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クィンシー前日譚 第40章
【エーリカ・リウビア】
私は今、ルルイエ行きの飛行機に乗っている。シルヴィに一言言っただけで全てすっ飛ばして事が進んだ。まあ、今までの努力の積み重ねでシルヴィに出会えたのは間違いないけれど。
今回の強化人間に関する依頼が長期に渡ると見越してきたので、必要なものは一通り持ってきていたので助かった。一方マルタはぬいぐるみしか手持ちが無さそうだが、、、
マルタ「もぐもぐ、クィンシーどうしたの?」
クィンシー「いえ、マルタさんは荷物が少ないなと思って」
マルタ「このコがいれば大丈夫」
そしてジーッと私の手元のチョコレートケーキを見つめる。(機内の軽食として出されたものだ)
クィンシー「あ、これ良かったらどうぞ」
マルタ「クィンシーは女神。一生ついていく」
魔術士ってチョロい人が多いんだろうか、、、
***
6時間ほど飛んで一度大きな空港に着陸した。ここでもルルイエの関係者を拾っていくんだろうか。窓の外を見るとちょうどタラップを、かなり大きなスーツケースを持って登ってくるルイーズが見えた。
クィンシー「ルイーズさん。お疲れ様です」
確か2日くらい前に南アフリカに飛んだはずだが、もう驚かない。
ルイーズ「あら、クィンシーも乗ってたの?ひょっとしてあなたも想索者に選ばれたとか?マルタも、久しぶりね。あんたが来るのは知ってたから、アフリカ土産のチョコ買ってきておいたわよ。ちょっと待ってて」
なんて気遣いのうまい人なんだろう。デキる女って感じだなぁ。
そしてルイーズが持ってきた特大のスーツケースをそっと開ける、と、、、
???「やっとついたのね」
中から人が出てきた、、、真っ白な長い髪と、紫色の美しい瞳を持った女性、、、美人だな、、、
???「なに?挨拶もせずに人の顔をジロジロ見るものではないわよ」
ルイーズ「あ、ごめんね。紹介が先だったわね」
マルタ「紹介よりもチョコが先」
『はいはい』と、マルタにチョコを渡しつつルイーズが続ける。
ルイーズ「この子はエーリカ。訳あって今まで色んな伝手を使って匿っていたんだけど、ちょっと厳しくなってきたから、いっそルルイエに連れて行こうと思って」
そしてエーリカに対しても私たち2人の紹介を簡単にしてくれた。そういえば前に囚われのお姫様を救いに行くとか言っていたな。エーリカさんの事だったのか。
エーリカ「、、、クィンシー、、、昔会ったことがあるけど、その時は別の方だったわ」
クィンシー「、、、たぶん私の師匠ですね。今はもういません。えーっと、リウビア家ですと暗殺の未然防止のために雇われたことがあったと聞いたことがあります」
エーリカ「へぇ、そう聞いているのね。結果的にはそうなったのだけれども。
元々は私の力を手に入れ損なった何処かの哀れな財閥が、嫌がらせのために私を殺すようにクィンシーを雇ったと聞いたわ。あなたの師匠のクィンシーから直接ね」
クィンシー「??すみません。話が見えてこないのですが、、、」
エーリカ「『エーリカ•リウビアを殺せ』と命じたクライアントを、あなたの師匠は裏切ったのよ。そしてその事を私に警告しにきたの。いったい、どういう風の吹き回しだったのかしら、、、」
そんな事が、、、私がトワイニング家にやったのと同じ事を、実は師匠もやっていたなんて、、、
クィンシー「エーリカさん、クィンシーは暗殺者ですが人間です。命じられた任務を機械のようにこなすだけじゃないんです。その時々によって、自分が正しいと思った行動をとる事があるんです、、、」
エーリカ「、、、おかげで報酬もなくなり敵を増やすことになってしまって、いっその事、私を撃ち抜いてくれていれば良かったのに、、、」
クィンシー「駄目です!師匠の取った行動を否定しないで下さい!師匠が守ってくれたあなたは、ちゃんと生き抜いてください」
少し語気が荒くなってしまった。エーリカは少し驚いたように目を見開いた。
ルイーズ「なになに?揉め事はやめてよ~。エーリカもあんまり卑屈なこと言っちゃ駄目よ。何のためにあの屋敷から脱出したのか思い出してよ〜」
エーリカ「、、、そうね。私も生きたかったのよね。ごめんなさいね、今代のクィンシー。あなたの師匠を侮蔑するような事を言ってしまったこと、お詫びするわ」
急に刺々しさが無くなった。ルイーズには頭が上がらないのかな。
クィンシー「いいえ、こちらも師匠の意外な一面を聞けて良かったです。これからも宜しくお願いします、エーリカさん」
手を差し伸べ握手を求める。エーリカは戸惑っているが、、、ルイーズが彼女の手を強引に掴んで無理やり繋がせた。
ルイーズ「ほら、これからは同じ職場の同僚としてやっていくんだから。挨拶はきちんとしておくのがビジネスの基本よ!」
さすがは仕事の鬼、、、