見出し画像

クィンシー前日譚 第18章

【傭兵団】


数日ぶりに悪夢を見ずに眠れた。

舞夜からもらった、リラックス効果があるらしいという『アロマ』を炊いたおかげもあったのか、心から熟睡できたと思う。ただ、、、師匠が出てきてちょっとばかりイチャイチャした恥ずかしい夢を見てしまった気がする。起きた時に詳しい内容は忘れてしまったが、安心したような、、、残念だったような、、、

『このアロマって催淫効果もあるのかな、、、』

昨日舞夜と話した時に、舞夜のもとにラヴクラフト財団から幻夢境探索チーム、通称想索者(ダイバー)へのオファーが来たらしい。それで一度だけ境界(ゲート)のある施設ルルイエを訪れ、その管理研究者の人に色々な説明を受けたとのことだ。最後にお土産でこのアロマを頂いたらしいが、、、

《シルヴィ「くふふ、あまり効きすぎないように調整したんだが、まだまだ濃度を上げてもよさそうだね♡」》

***

とにかく、舞夜からのアドバイスを考慮しながら仕事を探してみよう。急がなくてもいい。精神をすり減らしすぎない、達成感のある仕事。

舞夜のお土産の干芋をしゃぶりながら端末を眺める。しばらく見ていると一つの依頼に目が止まった。『南米で武装集団が街を占拠。人質多数。救出のための傭兵団を雇ったが、敵の中に遠距離攻撃専門の魔術士が少数いるため、膠着状態。対遠距離攻撃支援を求む』

どのくらいの距離なのかな、、、

『相手はテロリスト』『人質の救出』『遠距離攻撃の魔術士は少数』

これらワードから、今の私にぴったりな気がした。まずは状況把握のために連絡をしてみよう。

***

連絡を入れてから1時間、早速返信が来た。

『連絡サンキュー!アタシは傭兵団の副団長代理兼コーホーのアンナだ!あんたの質問の、こっから街までのキョリは正直わかんねー。いっぺんこっちに来て確認してくんねーか?頼んだぜブラザー』

、、、バカっぽい。でも変に裏があるようにも感じない。ちょっと(かなり)遠いけど、どうせ今の私には切羽詰まった予定は無い。やってみるか。

『了解です。まずは現場を確認したいので、最寄りの空港を教えて下さい』

返事がなかなか来ない、、、と、

アンナ『ワリィ、『サイヨリ』の意味が分かんなくって時間かかっちまった。取り敢えずブラジルのどっかに来てくれ。着いてから連絡くれれば何とかするからさ』

最寄り(もより)の読み方が分からなくても副団長は出来るんだなぁ、、、ブラジルのどこかって、、、広過ぎますよね、、、差し当たりリオ・デ・ジャネイロに着いてから連絡すればいいのだろうか?そう返事すると、

アンナ『助かるわ~。そうそう、リオな!そこでオッケー!サンバ!迎えに行くようにするわ。明日でいいか?』

え、なんかすごい適当なんですけど、騙されてるとかじゃないですよね、、、

『準備があるので、明日の晩になっても宜しいですか?』

アンナ『来てくれるなら全然オッケー!ヨロシク頼むわ!即日オッケーしてくれるなんて、あんたなかなかロックなタマシイ持ってんな!』

う〜ん、不安だらけだな。無事に会えたら向こうの団長さんにしっかり聞いておこう。

***

依頼を受けてから丸一日、無事にリオの空港に着いた。こちらの準備は万端だが、、、

???「おー、あんたが世界一のスナイパーかよ! ずいぶん可愛いな!」

突然ショートカットの少女が話しかけてくる。歳は同じくらいだろうか、話し方からするとメールでやり取りした人っぽい。

???「アタシが連絡した副団長代理のアンナだ、あんたの名前は仕事上明かせないんだったよな?まあ、人には色々ジジョーがあるからな」

クィンシー「私の名前は『クィンシー』です」

アンナ「、、、え?」

そう、舞夜の元に想索者のオファーが来たと聞いた際に決めたのだ。まずは名を売らないと想索者の選定に入る事すら出来ない『クィンシーは生きていて、現役で活躍中』という事実を、ラヴクラフト財団の目に止めて貰わなくてはならない。

アンナ「、、、え?、、、キンシー?」

クィンシー「、、、え?」

アンナ「呼び難いな。キンシー?でいいのか?」

クィンシー「ん?もしかしてクィンシーを知らないんですか?」

アンナ「、、、あ!今バカにしただろ!誰にでも知らない事の一つや二つはあるんだかんな!」

***

彼女の運転するジープでベースキャンプに向かう。

車内では主に最近アンナが好きだというアーティストの話しを延々と聞かされた。音楽にはあまり興味は無かったのだが、あまりに楽しそうに語ってくるので今度聞いてみようと思う。

と、ようやくベースキャンプが見えてきた。夜中に空港に到着してから、すでに昼過ぎ。なんだかんだで10時間ほどかかってしまった。途中2つほど空港のある街を通過したのだが、、、

『私の方向音痴並みに地図が読めないのかも知れない。ちょっと親近感、、、』

そしてベースキャンプの本部テントへ案内される。中には眼鏡をかけたメイド服を着た女性。団長はどこだろう?

???「はじめまして、長旅お疲れ様でした。私はここの組織の団長代理兼参謀を務めております、ホリィ•ハーグリーブスと申します。何かご質問がありましたら何なりと」

質問、、、ありまくりなんですけど、、、

ん?ホリィさんってニュースで見たことある気がする、、、

クィンシー「あのー、失礼ですけどホリィさんってひょっとしてボードウィン家の方では無いでしょうか?」

ホリィの眼鏡がキラリと光る。

ホリィ「説明しましょう。従者たるもの、いついかなる時でも主君の命を守るのは義務でありますゆえ、ゲリラ組織に立場を隠して潜り込み自己研鑽に励んでおりますゆえ」

え、メイドさんがそこまでするの?ボードウィンってなんかすごいなぁ、、、

クィンシー「えっと、ではなぜ団長と副団長は代理なのでしょう?」

ホリィの眼鏡がキラリと光る。

ホリィ「ご説明しましょう。実は私がこの組織の仲間として潜入した時はお二人共健在でした。しかしながら、先日大規模な攻撃を受けた際に、、、」

そうだったのか、、、

ホリィ「あまりに不甲斐ないためクビにしました。このような見定めも従者の役目」

どれだけ権限を持っているんだ、この人、、、

ホリィ「ではまず謝罪を。アンナさんからお聞きの事と思いますが、我々は反政府ゲリラ、相手は正規の政府軍になるのですが、、、」

全然聞いてない。

クィンシー「あの、こちらは傭兵団であって、むしろ相手側がゲリラ的な組織ではないんですか!?」

ホリィの眼鏡がキラリと光る。

ホリィ「、、、10時間の移動中に、アンナさんからはどんな話しを?」

クィンシー「えっと、ヴァンヘイレンとか、エアロスミスとか、、、あ、あとフェンダーとギブソンの歴史とかですね」

うん。ロックの世界は深いです。

ホリィ「本当にすみません、、、あとで説教が必要なようですね、、、」

隣りにいたアンナを見やる。

アンナ「んだよ〜、着いてからメシでも食いながら話そうと思ったんだよ。その方が話しやすいだろ。リンキオーヘンだよ」

クィンシー「、、、まあまあ、アンナさんがこういう人なのはしょうがないとして、詳しく教えてもらえますか?場合によっては重大な契約違反になりますよ」

私は少し厳しい目でホリィを見つめた。

ホリィ「申し訳ございません。正式な謝罪は後ほど。また、契約の内容につきましては止むに止まれぬ理由がありまして、、、」

彼女は私に顔を近づけて小声で話し出した。

ホリィ「先程申した通り、我々は反政府ゲリラ。もちろん政府からはとっくに目を付けられています。ですのでそれを伏せての援軍依頼を出したわけです。政府側にはまだ対等に戦える勢力があるのだと匂わせておきたいので」

そして少し悲しそうな顔をして続ける。

「もう、残存兵力はほとんど残っていません。外のキャンプを見て頂けたでしょう?だいたい200人ほどです。それもほとんどが一般の出で、正規の訓練も受けていません」

『もうすぐこの部隊は解散することになります、、、』と、悲しそうに呟いた。

クィンシー「あなた方の状況は分かりましたが、一番大事な目的を聞いていません。私にとってはそれが最も重要です。はっきり言いましょう。クィンシーは、クーデターを起こし人々を戦火に巻き込むような真似をするゲリラの手助けは、一切しませんよ」

ホリィは、少し驚いた顔をしてから、自虐的な笑顔を作って話し出した。

ホリィ「、、、そうですね。まずは今置かれている状況からご説明しないといけないですね。

元々、このゲリラ部隊はほぼ全員向こうにある現政府が支配する街の住人でした。

現政府は元々隣国であり、侵略戦争によって街を制圧、占領してきたのです。彼らは徹底した軍国主義で、民主主義者を次々に迫害、処刑していきました。その中で力の無いものは奴隷化、それ以外で逃げ延びた者がここにいる方々です。

、、、逃げ延びたのは当時恐らく2,000人以上。占拠された街と睨み合う形で集落を作り、牽制と小競り合いを繰り返しました。そんな状態が1年近く続いていたようです」

彼女は私をじっと見て言った。

「数週間前に政府の上が替わったらしく、徹底的な武力行使を行うようになってきました。そして1週間前、とうとう外部から魔術士を雇い我々に対して遠距離からの攻撃を仕掛けてきました。完全な奇襲攻撃で、集落は炎に包まれほとんどのものが焼け死にました。女子供関係無く、、、」

私の、自分自身の顔がこわばるのが分かる。あの時、私の村が魔術士に襲われたときの情景と重なってしまう。ホリィは続けた。

「ご覧の通り、ここに居るものは即席の烏合の衆。戦車どころかまともなライフルすら無いのです」

確かに、ここに来て見かけた銃器は、ほとんどがカラシニコフタイプの粗悪なコピー品。まず遠距離攻撃の出来る魔術士にはかすりもしないだろう。

「明朝、ここにいる残った部隊は玉砕覚悟で特攻します。出来ればその時に少しでも敵の魔術士を倒して頂ければ、、、」

そう言って彼女は、テントの隅にあった手榴弾とダイナマイトをくくりつけた何着かのベストを見つめる。

クィンシー「ちょっと待ってください。ホリィさんはどうなさるんですか?」

ホリィ「、、、もちろんボードウィン家に戻ります。その事はアンナさんにも伝えています。彼女は笑顔で『後のことは任せとけ』と言ってくださいました、、、」

ロック魂か、、、強い人だな。

ホリィ「ですが、正直に言いますととても心苦しくて、、、短い期間とは言えここにいる方々と一緒に生活していたゆえ、情が湧いてしまったといいますか、、、」

ホリィはうつ向いて黙ってしまった。それはそうだろう。これから死地に赴く人達を横目に、自分だけ逃げるような事になってしまうのだから、、、

私は沈黙をかき消して言った。

クィンシー「分かりました。では現政府と、その傘下の魔術士を全て倒して、元の住人を全員救い出します。そして、ゲリラ部隊の誰一人死なせません。それでいいですよね?」

ホリィは項垂れていた顔を上げると、目を見開いて口が開きっぱなしになっていた。

ホリィ「、、、どういうことでしょう?」

クィンシー「方法はあります。任せて下さい。奪還に成功した街でみなさんでウィーアーザ・チャンピオンを歌いましょう!」

***

作戦会議が始まった。まずは街の建物の配置と景観図、どこに誰がいるか、政府軍は、魔術士は、見回りの時間は、、、ゲリラ部隊が知っている内容を全て聞き込み、作戦を考える。

『住人の救出が一番難しいな』捕らえられている人の解放ならなんとかなるが、奴隷として政府指揮下で働かされている人々がいるため一掃できない。こちらのゲリラ部隊の何人かがあらかじめ潜入して連れ出す手はずを整えておくか。

しかし、こちらのベースキャンプから街までは遮るものがない。近づくだけでやられてしまう。遠距離射撃で魔術師を一人ずつ撃破しながらならばたどり着くことは可能だろうが、それだと不意打ちを狙い一気に救出する事が出来ない、、、

うまくいっても、政府への面会と、ガイドに扮した合計2名くらいが限界か。

ふと、舞夜の言葉が浮かぶ

『何でも一人で抱え込まないでね』

はっとした。そして閃く。これなら上手く行くかも知れない!携帯端末を取り出し、とある人物に依頼を送る。2分でOKの返事が来た。

『報酬は、山小屋を作ってもらった時の10倍』で、イチコロだった。そしてそれから15分後に彼女が到着する。

ルイーズ「来たわよ!たまたま反政府ゲリラ掃討の指揮を取ってもらうように、すぐそこの政府から依頼があってこっちに向かっていたの。で?」

あ、やばい。でも、ある意味好都合か?

いいなと思ったら応援しよう!