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クィンシー前日譚 第4章

【彼女の仕事】


小屋のあった深い森の中から、実に2ヶ月ぶりの外出だ。

道中、彼女からこれから行く先は戦闘地帯である事を聞く。何となく危険な場所だとは予想していたが、直に聞くと緊張する。

森を抜け山中の畦道を暫く歩くと、葦の藪で隠された小さな洞穴があり、その奥に古いが綺麗にメンテナンスされているバイクが1台。

「目的地手前まではこれで移動する」

彼女の後ろに座り腰にしがみつき、移動すること数時間。景色は次々に変わっていく。山岳地帯、小さな家々と畑、村、農場、そして遠くに大きな建物の群と煙が見えた。

「ここからは歩く。目的地はあの煙の立つ地帯だが、命の危険はほとんど無いから安心しろ。取り敢えずお前はこれを持て」

そして1つの単眼鏡を渡された。

鏡の反射とレンズの数でかなり遠くまで見通せるものらしい。覗き込むと十字のマークと右上に数字が出ている。どうやら距離と風速らしい。『お祖父ちゃんに見せてもらったライフルのスコープみたいだな』

暫く彼女について進むと、遠くで乾いた破裂音の反響が聞こえた。彼女は足を止めた。

「ここから先はなるべく声を出すな、私の歩いた足跡の上だけを歩け、何があっても驚くな、転ぶな、あと、、、絶対に私から離れるな」

無言で頷き、後に続く。

時々煙が立つ木材が転がっている。もうだいぶ前に火は消えたのだろう。あとは黒焦げの何かが進むに連れ増えていく。

暫く進むと、今にも崩れ落ちそうな背の高いビルの廃墟がそびえ立っていた。彼女は歩くペースを変えずそのまま中に入っていく。そして、コートの内側から黒光りした拳銃を引き抜いた。緊張が走る。

「安心しろ。あれだ、よくできた水鉄砲?だ」

緊張の溶かせ方が雑すぎる、、、

そしてそのまま階段を登り最上階まで上がる。崩れかけのビルだったので正確な位置は分からないが、恐らく5階か6階だろうか、かなり遠くまで見渡せる。

「頭は上げるな。あと、なるべくゆっくり動けよ。素早い物体は遠目からでも目に付きやすい」

彼女はこちらを見ずに言いながら、持ってきたスーツケースを開けてライフルを組み立て始めた。綺麗な緑色のストックに、予めスコープが固定された銃身。大袈裟なほど大型のサイレンサー。慣れた手つきでものの数秒で組み終わり、割れた窓に据え置いた。

「ライフルのスコープは反射で光る。お前の単眼鏡のレンズは反射防止加工されているから覗いてみろ、この銃口の向く真っ直ぐ先だ」

言われるがまま先程受け取った単眼鏡を覗くと、まず吹き荒ぶ炎が見えた。さらに視線を動かすと、黒いローブを纏った人間と構えた杖。瞬時、息が止まり目線が釘付けになる。あの姿は、、、ああ、、、あ、、、

「気をしっかり持て!声を出すなよ!ゆっくり呼吸しろ!」

、、、私の村を!お父さんを!お母さんを!

「あああああ、、、!!!」

「くそっ、しょうがない!」

途端、彼女のライフルがパシュッという音とともに火を吹き私の単眼鏡の中の黒い人間の頭部が破裂した。すかさず慣れた手つきで次々に撃ち出し、何度かの空薬莢が落ちる金属音の後、耳鳴りと静寂、硝煙の匂いだけ残った。

「ターゲットは全部で8、ちょうどこの場所から全て見えて助かった。大丈夫か?落ち着いたか?、、、いや、さすがにまだ無理か、、、」

私は深く深呼吸をして、心の中である一つの決断をして答えた。

「、、、落ち着きました。もう、大丈夫です」

「え?ああ、、、そうか、良かった、、、え?本当に!?」

「大丈夫です」

彼女の目を真っ直ぐに見返した。

彼女は魔術士をやっつけた。私の両親、友達、村のみんなを殺した悪魔達を、いとも簡単に消し去ってくれた。彼女に対する印象の変化はとても複雑で表現し難いが、今まで感じていた『ミステリアスな優しい良い人』から、『強い、格好いい』がプラスされた感じだ。そして祖父への憧れの感情も重なった、、、

「、、、取り敢えず仕事は済んだ。早くこの場から消えないとな」

「はい!」

そして足早に帰路につく。

これからの私の向かう先が分かった気がした。

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