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クィンシー前日譚 第68章(最終章)

【エピローグ】

悪意と名乗る少女の話を聞き、私はそれに従うことにした。どこかポッカリと胸に空いた穴から、全ての罪悪感や思考力が私の内から零れ落ちていく気がした。

私は悪の魔術士を狩るものだ。それ以外に考える事はない。私の正義のために動くだけだ。


***


私は防疫修道会の道具の一つ。

感情など無い。元々知らないのだ。でも、心の奥底に何か空虚感を感じる。よく分からないが、ひょっとしたらここに感情があって、それがいつの間にか消えてしまったのだろうか。

思い出せない。そもそも思い出す何かが実際にあったのかも分からない。

今はただ、命令のまま動き戦うのみ。


***


ボクは、手元のよく手に馴染んだリボルバーを弄っていた。気分がすっきりしない。最後にメンテナンスしたのはいつだったろうか、、、自分でやったのだろうか、、、なぜルルイエのシューティングレンジに1,500mものレンジが存在するのか。スナイパーがメンバーにいるわけでもないのに。いるわけ、、、ないのに、、、


***


ぬか床を混ぜながら、次はクィンシーに何を贈ろうか考えていた。彼女はお酒が好きだったから、ちょっと濃い口の味付けのものがいいだろう。

、、、ふと我に返る。私は何を考えているのだろう、、、彼女は任務に失敗してもういなくなってしまったじゃないか。後継ぎも無く、もうクィンシーは滅びてしまったのに、、、後継ぎ、、、いなかったわよね?


***



防疫修道会前、待合所にて。アーデルは一人考え込んでいた。

ロゼットはうまくやっているだろうか。ある任務をきっかけにだいぶ感情が豊かになってきたようだったから、私はルルイエへ送り出す決心をしたのだ。しかし、なぜかその任務がはっきり思い出せない。ボードウィン家の姉君のブリジットやルルイエのゲート管理者のシルヴィがいた事は覚えているのだが、確かその中心に大切な誰かがいた気がする。

今、目の前にあるサイドカー付きのバイク。私はその誰かの運転でこのサイドカーに乗った事がある気がする。ただ、どれだけ思い出そうとしても記憶にモヤがかかってしまう。そもそも思い出す相手が本当にいたのかすら曖昧なのだ、、、

空を見上げる。今にも雪が降り出しそうな曇天模様だ。

アーデル「懐かしいな。あれからもう1年か、、、」

ふと独り言が口から出た。あれ、がいつのことなのかも思い出せぬまま、、、




〜Deep One 虚無と夢幻のフラグメント

本編5章に続く〜

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