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【Special Track Review】 ReGLOSS, 「瞬間ハートビート」 (2023) #ReGLOSS1周年

ReGLOSS, 「瞬間ハートビート」, COVER, 2023.09.04

「瞬間ハートビート」は重荷を背負って拍動している。チームReGLOSSを超えて、hololive DEV_ISとグループが分化したこの1年間におけるほぼ唯一の名分かもしれない。そう機能するほど重要な曲になったのは、能動的な理由と受動的な理由がある。後者を先に見ると、まずいまだに「DEV_IS」の存在(分化)意義が年を経てもなお聴衆に清々しく納得されていないところ、チーム固有の色を知れる数少ない手がかりであるからだ。おそらくチームのアイデンティティは、よく言われる「3D化」よりは、むしろ楽曲を積み上げたアルバムの成敗にあると思われる。

もちろんメンバー5人の強いキャラクターや配信活動を中心とした活躍は各々の成果を着実に残していっており、DEV_ISチャンネルでの活発なコンテンツ提供、カバー(歌ってみた)曲の圧倒的な多さなどはReGLOSSというチーム単位としてもしっかり印象を刻んでいっていると言える。ただ、「挑戦」などといった重たい名分を打ち出したのはDEV_IS側であって、単なるコンセプト紹介以上に意義を証明する負担を自ら背負っている形となる。この1年間、その内容を掴めそうな手がかりはデジタルシングル3枚くらいで、それらもまたそんなに違わないドリーミーなエレクトロポップ曲群とまとめられる。するとフォーカスは、中で最も代表性を持って、かつ最も秀でた曲である「瞬間ハートビート」に絞られる。

「瞬間ハートビート」が名分を背負うより能動的な理由は、そこにあらゆる期待を密度高く詰め込んでいるからだ。「瞬間ハートビート」は夢を歩く(そして走る)ような雰囲気を一貫して漂わせながらもダイナミクスに富む編曲に成功している。浮遊する鍵盤に目掛けて遠方からパーカッションを打ち叩く瞬間、奏 - はじめ - 莉々華に繋がる美声のリード、そして青のロウ・トーンとらでんのハイ・トーンを交互に配置して生命力のある旋律を与える。サビはもちろん醍醐味だ。フューチャーベース特有のドロップと共に5人のユニゾンが弾け出し、宙を舞うリードシンセと分厚いベースがくねくねと動く旋律は浮遊感を音域の底からあげて気流を起こす。

そして2節、ガラージ・ハウス的なビートにチェンジしてより細かく拍子を刻み、「夢」(夢幻的な雰囲気)に躍動感を与えて走らせる演出がなされる。青から歌唱するスタッカートがより輝く理由だ。そして前回のプレ・コーラスを鍵盤とボーカルだけで率いたのに対して、2番目はポスト・ダブステップのごとく典型的にスネアのフィルインをかけたビルドアップで本格的な“dancing time”を知らせる。弾けるユニゾンの力にハウス柄のビートで疾走感を増し、ロックなエレキギターまで参入して拍車をかける。首尾を飾る奏の澄んだような霞んだような安定した音色はソースの退場を自然なフェードアウトに見せかける。素晴らしい出だしとフィナーレだ。

これを持って「瞬間ハートビート」は浮遊する夢を掴んでだんだんと形にして走り出すという(ある意味では典型的とも言える)デビューストーリーを感覚的に伝え示したと言える。歌詞には詳しく触れてないものの、そのストーリーに沿った心境の変化がこれまた上昇曲線型のように描写されていて、音の要素とうまくシンクロする。hololiveプロダクション全体の観点から見ても(もちろん全曲を聴けたわけではないが)主要曲の中で相当な高みにある出来だと考えられる。それが発信する力が、いまだ鮮明にされていないチームの根幹を支えてきたのである。

個人的な話をすると、ReGLOSSは僕が初めて魅入ったVTuberチームであり、バーチャル・タレントのフィールドに本格的にはまるきっかけとなった。しかもファンになったのは2024年の春以降で、すでにデビューから半年も以上経った時点である。つまり、初心者として話す内容にしては実際フィールドに関して把握している側面より超過しているはずなのだ。V-アイドルはK-Popのファンダム商業とどう異なるのか? ネット・サブカル要素はどこまで把握して評価に容認すべきなのか? バーチャル技術が大衆音楽に直接紐づける分岐点はどこなのか? ここにまつわって問いたい質問はこの先未来にまで続いている。その旅路に付き合うことが、”ココロ奪われた”ものたちの宿命かもしれない。


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