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【レビュー】 So!YoON! 『So!YoON!』 (2019)

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Artist : So!YoON!
Album : So!YoON!
Release Date : 2019.05.21
Genre : Pop, R&B, Rock


僕が発売前からSNS上で「来るぞ!」とはしゃいでたアルバムは中高生頃のEpik High新譜や、去年と今年リリースしたXXXの『LANGUAGE』『SECOND LANGUAGE』シリーズくらいである。とにかく、発売前から僕が期待を示せねばならない要素は多かった。

その一番の要素は、まあ、当然のごとく、アルバムの主人公だ。2017年韓国最高のルーキーバンドと言われ、日本にまでもだんだん知られていっている〈SE SO NEON〉のボーカルのソユンではないか。デビューEPの『Summer Plumage』(2017)を初めて聴いた当時はロックが好みじゃなかったので、ただ「いい音楽やってるバンドなんだな」くらいに認識しただけだった。今考えると、「Gurumi」や「The Wave」みたいな曲でのねっとりしたブルース的なボーカルと、アルバムカバーのように清々しいキャッチ―さ及び疾走していくような編曲が自然と混合しているのが記憶に残る。

実のところ、申し訳ないことに、自分としては彼らの音楽的嗜好よりはバンドの名声というところでもう少し注意を払った。一般化するのはあれだが、少なくとも僕が日本で音楽関連サークルに通って、バンド音楽を幅広く聴かれる先輩や同期たちの口から、韓国の音楽家としてHYUKOHと共にSE SO NEONがよく言及されてたし。(たぶんフェスのライナーとして知られたと思う。)だから、まあ、どうせ僕のSNSアカウントに関心持ってくれる人たちと言えば、オフラインで知っている方はほぼそのサークルの方々中心なので、日本語で「ぜひ聴いてください!!!」とつぶやきまくった裏面(?)には、その名声に頼ったところもある。

もう一つは参加陣である。去年、『Crumbling』という大の傑作をもたらした空中泥棒が参加するというところで多くのリスナーたちが歓声を上げただろう。そして、ラッパーのJvcki Waiや、ネオソウルボーカリスト&プロデューサーのSUMIN、実験的な電子音楽バンド(*ソユンもそのメンバーである)のByul.orgなどなど、その他の好みのアーティストがこんなに密度高く集まったアルバムもほとんどないだろう。SNSで「Nasの『Illmatic』が連想される」とか話にもならないことを言いふらしてたけど、一人の才能のあるルーキーのためにすごいミュージシャンたちが集まってサポートするという共通点でつぶやいた話である。

それで、何の話からすればいいだろう。

10曲のスタイルが全部違う。でも、その中心となるサウンドは確かにある。問題は、そのサウンドを自分で文字化できるくらい物知りじゃないとのことである。フィーリングでは、D'Angeloなどに代表されるニューソウルと、Frank Oceanなどに代表されるPBR&Bの半ばくらいのサウンドから、サイキなギターを加味したサウンドと、適当にまとめているが。セルフタイトルのイントロはこのアルバムのサウンド的なテーマを提示したと思える。

ならばこのアルバムはシンスポップをベースとしてスタイルを色々な方向で拡張していったR&Bポップアルバムくらいに定義できるだろうか。確かに全体的に感じられる一貫した色があるし、まだ確実に捉えてはいないが、夢の世界と現実の世界を行き来するストーリーの脈もあると思える。

しかし、ディテールな感想を言おうとするなら、それはやはりトラック・バイ・トラックで語るのがよさそうだ。さっき言ったように曲ごとのスタイルも違うので。

まず最初のトラック「So!YoON!」はさっき言ったように、アルバムのサウンド・テーマを提示したという感想に縮めたい。次のトラックで、アルバムの代表曲でもある「zZ'City」もそのテーマを定番的に活用して魅力的なシンスポップナンバーを作ったようだった。シティーポップの感じもするし、PBR&Bの感じもするし、SE SO NEONの音楽で聴いたキーボードの音も聞こえる。夢幻的世界への本格的な招待。

「Noonwalk」はSUMINのプロデュースだと強く感じられた。彼女なりのリズムカットや、シンスの運用においての特有の濡れたエコーなど。SUMINの存在感が大きいけど、アウトロをかざるソユンのギターを聴くと、もう少し特別な気持ちになる。

「HOLIDAY」は僕が訓練所にいた頃にプレリリースされたようである。アルバムリリースの何日か前にほぼ新曲確認の形で聴いたので、その時はそんなに印象的ではなかったけど、アルバムのトラックとして聴くと、これまたすごいキーリングトラック。自然な変奏が途切れず続くのもすごいし、ジャンルをそんなマイルドな感受性で混ぜ混ぜしても感動的なすごさ。

インタルードの「MI RAE」(未来、という意味)では夢幻的でありつつ爆発するシンスポップのカタルシスを感じた。

本格的に話したい部分は、ラッパーJvcki Waiがフィーチャーリングした「FNTSY」から始め、「A/DC=」、「FOREVER dumb」、「Athena」、最後にByul.orgがリミックスしたボーナストラックまでの後半である。

「FNTSY」は、ヒップホップ好きの僕にとってはすごく言いたいことの多いトラックである。正直、最初は嫌だった。なんでJvckiが常にうまかったラップシングをやらなかったのか、という疑問もあったし、同じく韓国ラッパーのJUSTHISのフローを意図的に真似たのだとほぼ確信した。その意図っていうのが果たして何なのかはわからなくて困っているのだが。

でも、まあ、Jvcki Waiのラップはいくら最初は嫌と思っても、その存在感アピールの破壊力はすごいし、またいくらダムダウンされた歌詞でも聴者に考えさせる力がある。例えば「Equalityを主張するためには、上げてみろよ、窓(ネット)の外で現実の私のライフ・クオリティー」みたいなラインは、男性中心に行われているアンチ・フェミニズムの論理に対し、やはり男性性が重視されるヒップホップ特有のスタンスを失わずに、その遊戯の主体と思われた彼らに強いボディーブローをくらわす一撃だと思う。

そして、ソユンの「誰も理解できない / オレの女だけが理解するさ」というラインも、普通、男性話者に求められる文法を彼女が使うことで、解釈の範囲を大いに広げる、実験的な二行だったと思う。

サビの「心配するな my sis」は、ヒップホップのフード概念を借りて、女性の連帯を呼びかけるという、すごく革命的なライン。

ダンサーブルなビートと金属製サンプル、そしてJvcki Waiのパフォーマンスそのものが、もう十分異質なトラックにもかかわらず、その次のもっと異質的なトラックにつなぐ重要な橋の役割を果たしたと思う。

さあ、たぶん多くの音楽ファンが期待したトラック、空中泥棒がフィーチャーリングした「A/DC=」にたどり着いた。某ブロガーがとある記事で言ったように、「1秒だけで泥棒と気づいてしまう」、いい意味で名前にはあまりふさわしくない魔法のサウンド。その「泥棒的サウンド」はいったいどうやって形成されるのか。その思惟の糸口になりそうな興味的なトラックだと考える。

その最初の1~2秒に流れるサウンドは、先述したように、空中泥棒のアイデンティティーである、色んなソースのめまいしそうな調和が含まれている。が、そのソースとして使われたのは、彼の音楽のルートにあるアコギのようなフォーク感性、そしてたいてい彼の音楽において音を曖昧に聴かせる(そのことで調和の画期性がもっと高まる)ローファイ感性などは排除された、空中泥棒のアイデンティティーを裏切る(?)サウンドでもあるのだ。

比較的鮮明なキーボードとベースライン、機械ドラムは空中泥棒の個人作『公衆道徳』や『Crumbling』ではあまり聞けなかったサウンドだった。(無理矢理つなげてみると、「曲線と透過性」という曲のハイファイ・デジタル・ショートヴァージョンとはいえるだろうけど…。)彼の音楽にいつもついてくる「予測不能性」は、この曲のイントロで目の回るサウンド・コラージュとして、まるで彼のサインのように展開される。ヘテロに展開されるリズムにそのアーティスト的な招待性が含まれているのでは、と考えさせられた。

色々とすごい曲だとは思うが、実のところ今まで空中泥棒の話しかしてないし、ソユンさんのアイデンティティーは現れにくいと考えた。それは果たしてセルフタイトルアルバムのコンセプトに合うのか。そこに対する僕の結論はまだ出されていない。

もう書くのが飽きてきた初歩はまず「FOREVER dumb」について、ねっとりしたR&Bのバイブがアルバムの中で一番やさしく表れたところとか、シンガーソングライターのSAM KIMが見せたラップが結構うまかったのと、夢から現実に再び踏み出すというアルバムのストーリーに重要な傍点だということなどを言及したい。

SE SO NEONがフィーチャーリングした「Athena」は、期待したようにロッキング(?)なトラックでありながらも、以前のバンドが見せたものとは全く違う、意図的な低温室録音で生々しいにおいを出すのが不思議だった。ここで2011年のCarseat Headrestを呼び出すのは、僕の無知を証明してるだけかもしれないが、まあ、それが連想されたってことで。

ボーナストラックの「zZ'City」Remixは、ただただ最高でした…。実はリミックスという感覚もなく、すっかり別の曲として認識したもとで聴いた。僕はByul.orgの2018年作『Nobody's Gold』ではまったが、そのずっと昔から存在した音楽集団だという。ソユンが加入したのはたぶんおととしで、マニアの間では結構な話題だったと予想する。

もう書く気力がなくなったので急な締めになるが。

とにかく、本当に色々なスタイルを盛り込まれた作品である。その「スタイル」というのが、参加したアーティストたちの色が強すぎてソユン自身の存在感が薄れる場合もあったが、にもかかわらず前半でずっしりとおぼろに自分の世界へ導いたため、その多様な姿が自分の領域内で昇華されていることを認識させてくれたようだ。そして何より、とっぴだと思われる曲が、(フルレングスで考えると)そんなに多くないトラックリスト内に割といっぱいあるのに、あまり「雑だ!」と思わせないのも、サウンドの配置にすごく神経を注いだ痕跡の一つだと考える。

そして、個人的な浅井感想だが、このセルフタイトルの意味を、動物でも人間でもない奇妙な存在が描かれたアルバムカバーと連携して考えてみると、どうやらアイデンティティーというものの曖昧性を表現したかったのかもしれない。

結局言いたかった結論は、聴いた瞬間、僕はこのアルバムを好きになる革新が立ったとのことである。


おすすめ度 : ★★★☆ (7/10)

おすすめ曲
FNTSY (feat. Jvcki Wai)


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